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【1分小説】令和の一寸法師


タカシは泣いていた。

部屋で一人で、泣いていた。


いや、悲しいのではない。
悔しいのでもない。


一寸法師”に腹を刺されているのだ。

内側から、思いっきり串刺しにされているのだ。



タカシは今までの悪事を心底わびた。


母ちゃんがだいじに使っていた「お高いティッシュ」で鼻をかんだことも

父ちゃんの寝顔にマジックペンでひげを書いたことも

お菓子の”かす”を床にピッてやったことも。


謝ることならいくらでもあった。



そもそも今回の”一寸法師”の件だって、タカシが言いだしたのだ。


「アンタはまだ子供なんだから」
と言ってきた母ちゃんを見返すために、


「度胸試しをする」
と言いだしたのはタカシだった。


だが、もう限界だ。


腹の一寸法師はあっちこっちに剣をつきたてている。

のどや口まで刺されている。


『このまま死ぬなんていやだ!』



タカシは必死に叫んだ。

なりふり構わず叫んだ。



このまま死にたくない!!





「かあちゃーーん!!!!!!!!!!!
たすけてーー!!!!!!!!!!!
一寸法師に殺されるーーーーーーー!!!!!!」









「コーラくらいで大騒ぎするんじゃないの!!!!」







あれから10年たった今でも、コーラを飲むと決まって

「一寸法師はだいじょうぶなのかい?笑」

と、母ちゃんにいじられる。


これが我が家に伝わる

令和の一寸法師事件

の全貌だ。




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