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普通の家族のちょっとだけ普通じゃない話

父、母、そして祖父母。妹。
そんなところの一般的な核家族世帯。僕はそんな家族構成の中に生まれた時から当たり前のように属していて、当たり前のように育てて貰った。
父は北大路欣也とショーンコネリーを足して2で割ったような渋さの厳格な人であったし、母はそそっかしい割にたまにOLとか女子大生みたいな事を言う、可愛げのある人だし、妹は実際干物妹なのだが、猫を被る超絶技巧に長けた姫君であるし、まあまあ良い環境の家庭で育った。普通に感謝しているし、スパンは長すぎるが、たまに帰省する事もある。

そんな家庭環境なのだが、何やら一つ説明出来ないことが昔からあるらしかった。
それに気付いたのは、小学生の頃の、正月のお年玉の話。

お年玉、いくら貰った?
2千円ぐらいかなぁ。お前は?
母ちゃんのおじいちゃんから、5千円、母ちゃんのおばあちゃんから、3千円、父ちゃんのおじいちゃんから3千円、父ちゃんのおばあちゃんから2千円。
はぁ?お前そんなにじいちゃんばあちゃんいるの?
いや、普通じゃない?

なんでだ?
その時はよく分からなかったが、父も母も、その上の祖母と祖父が居なければ成り立たない。そんなことは知らなかったから疑問にも思わなかったが、同級生から質問されて、はてなマークがその時初めて浮かんだ。

母の実家は知っているし、毎年帰るのは母の実家だ。母の両親(僕から見た祖父母)叔父、叔母、それから、従兄弟。実家はどうも代々続く家柄らしい。

だが僕ら家族は父の実家を知らない。父方の祖父母も従兄弟も知らない。
不思議な所は沢山あった。今でこそそんなに可笑しいことではないが、どうも父は謎のコネクションを持っていて、幼い時分からしょっちゅう外国人の"友達"が訪ねて来る。
地方の事務所しかないような中小企業に勤めながら、話す言葉は120%英語、勿論他の社員は日本語だし、飲みに行くのは赤提灯の居酒屋だ。

父は一体何者で、どこから来て、我が家の家族になったのか、僕は全く知らなかった。

勿論、まだ子供で、恐れも臆面もなかったから、母に問い詰めたことがある。
父は一体何者なのか、何人なのか、家族はどこにいるのか?
「詳しくは知らない。"破門"されたらしいよ」
母はあっさりと答え、それ以上何を聞いても無駄だった。あったであろう2人の結婚式も、新郎側の親族は居なかったらしい。

そしてそこから長い間、謎は謎のまま、生活の基盤に居座った。
何故、父は婿養子なのに、苗字は母方の苗字ではないのか、親族の中で、我が一家は何なのか。

崩れたのは大学卒業後、なんの気もなしに台湾へ一人旅に出ると言った時だ。普段放任主義の父が、その時だけ動き、知り合いを紹介され、実際のところただの観光、以上の台湾を知ることが出来た。
そして日本に戻り、父と初めて酒を酌み交わした時、涙ながらに父は話した。

生まれは、日本ではないこと。
生き別れた兄がいる事。
有事の際は、連絡をもらっていた事。

これは、どちらなのか。聴きながら頭をフル回転させて考えていた。
実の息子にも語れない過去を悔やんでいるのか、それとも、会えぬ親族に想いを馳せているのか。

後にも先にも、これだけだ。
ただこれ以上突き詰めても父を苦しめるような気がして、もう聞くことは出来ないだろうと思うようになった。何はともあれ、父から何かを託された、それだけは分かった。

湾生。
父の教えてくれた僅かな言葉と、今回の縁をまとめて出てきたのが、この言葉だった。
これが何を意味するのか分からないし、父が一世なのか二世なのかも分からない。ましてや自分が何世代なのかも分からない。これが差別用語であるのかすら、どこにも書かれてはいない。
戦時中から戦後にかけて、台湾で生まれた日本人で、国は台湾、本籍は日本、日本に戻ってきたならば、それまでの間、父には別の名前があったはず。
それが何を意味するのか、僕には分からない。
祖国が2つあるのか、それとも国籍を持たぬ民ということなのか、『湾生』とタイトルについた作品を観たり読んだりしても、要するに故郷に帰りたいという気持ちが強く出ているばかりで、それが日本でうまく適応できないからなのか、苦労したからなのか、分からない。もしかしたら父にもそういう気持ちがあったのかもしれない。

30余年経って、今思う事は、最早このことが裏に横たわっているとしても、壊れるきっかけにはならないし、気にも留めないようになった。
そのぐらいのことだ。家族関係に関わらない、小さな問題。
20代の頃はあえてそれを知ろうとしていたが、もうそこまでの気持ちはない。
なんとなく分かることは、今の自分の姓は家柄や血筋とは何の関連もないこと、明日変えても変えなくても、そこまで大きな問題にはならないこと。そして、よくある一般的すぎる苗字だけれど、結構気にいっていること。
そして、僕の全く知らないどこかに、全く見たこともない親族がいるという事。

家庭内不和も別居も離婚もなく、特に波風立たずにここまできた。そんな小さな家族にあった、ありふれた問題。
昔は欲しがる側であったから少し嫌な気分になったがいまはお年玉を必要とする人数が少ないから、結構ありなんじゃないかな、などと、しばらくは無責任な大人を続けていよう。そんなことを久しぶりに考えた。
何者であるかは、何でもよかった。

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