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すべての花を焼き捨てて(1)

無心になって小葱を刻む、玉ねぎをスライスする、ざるをかませたボールに刻んだ玉ねぎを投入、シンクに置いて冷水でさらす。
五十嵐さんは横で何種類かのソースのボトルを並べ、それぞれの味を確かめる。
僕は割合ここが好きで、給料が出るわけではないけど、学校が休みの日は昼の12時からここに来て、五十嵐さんの手伝いをする。
普段五十嵐さんは滅多に喋らない人で、僕も最初は怖かった。顔立ちは面長で、くっきりした目鼻立ちをしていて、多分、モテるのだろうけど、鋭過ぎる目付きが、相手を寄せ付けない威圧感を持っている。だけど、この時間の五十嵐さんは料理をしながら、明らかに楽しんでいて、それを見るのが、僕は楽しいのだ。

表向きはちょっとしたパーティースペースみたいなバーだ。もちろん夜から営業を始めて、閉店はお客さんが1人もいなくなるまで、僕のシフトは夜19時から終電まで。五十嵐さんは多分、12時から朝方まで働いているけど、疲れている所はあまり見ない。営業中、窮屈そうではあるけれど、12時から賄いを作る五十嵐さんと、お客さんの入らなかった夜の五十嵐さんは、実験を繰り返しては改良し、バーにはそぐわないちゃんとしたキッチンの整理をしたり、忙しそうだけど充実した仕事をしている。

あとは、姉さんの部屋も週2.3回で行く。姉さんとは1つ違いの年子で、はっきり言って敬語とか使わないし、僕もいいように使われているので、まあまあの距離感の友達みたいなものだ。最近は何を考えたのかサンドバッグなんか買って、トレーニング始めるなんて言うもんだから、意地悪な事ばかり言って遊んでる。でも実際自分の遊び道具としてはいいし、弟子ができる感、というのも心地いい、そんな事ばかりしている。あとは姉さんの部屋は余計な匂いがしない。ピンクとか、強い原色が姉さんは嫌いだし、豹柄も苦手だから、最低限の色しかないので、落ち着く。
そんな姉さんだけど、最近少し元気がない。なんだか、合わない環境にいるみたいだ。それがちょうどサンドバッグがやって来た後から始まったので、僕は姉さんの家にいる時、尚更強めにサンドバッグを叩いた。

康樹、明日道具の買い出しに行くけど、暇だったら来るか?

五十嵐さんから誘われ、僕は2つ返事でOKした。その日は夜から僕と五十嵐さんだけで、他のバイトは来ない。賄いを作るのも二人分だから、時間があるらしい。ちょっとした重い器具を買うかもしれないから、でかいかばん持って来てよと、五十嵐さんはいつになく楽しそうだ。

時々思う。姉さんと五十嵐さん。ぴったりなのではないかと。もちろん、会わせたことはないけれど、そしてそれは、僕が介さなければならない事だけど、五十嵐さんの無関心さは、姉さんの脆さを、吹き飛ばせるような気がした。だから僕は、引き会わせないながら、二人の人柄が好きなのかもしれない。

サポートはお任せ致します。とりあえず時々吠えているので、石でも積んでくれたら良い。