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「編集者」という生き物の7つの習性

僕は10年以上、出版社で本の編集をしてきました。

その後独立して、フリーの編集者として出版業界で活動していこうかなと思っていたのですが、ひょんなことから「経営者の言語化・コンテンツ化」のお手伝いをする仕事に出会い、今はそれがメインになっています。

そうやって出版業界の外に出てみると「編集者ってこういう考え方するよな」「編集者って基本こういうスタンスだな」というのが見えてきました。

出版の世界で当たり前だったことが、どうもその他のビジネスの世界では当たり前ではないことも見えてきた。

そこで今回は、「編集者」という生き物の習性がいったいどういうものなのかまとめてみたいと思います。

※毎度のことながら「編集者」と一括りにしてすみません。あくまで僕が思う「編集者の習性」なので「ここは違う」「他にもこういう習性がある」などあったらコメントなどで教えてください。

1、編集者は「誰も読んでくれない」を前提にしている

僕が出版の世界から出てみてちょっとだけ驚いたのは、多くの人が「読んでくれる」という前提で情報発信をしているということでした。

プレスリリースだったり、社員インタビューだったり、社長とタレントとの謎の対談だったり……。その多くが読まれていない。話題になっていない。

もちろんなにかしら目的に沿ったものであればいいのですが、「読まれているかどうか?」という観点からすると、ちょっと厳しいなと思ってしまうわけです。

本の編集者の多くは売れない本を作った経験があります。

最初は当然「これは話題になるぞ!」「売れるぞ!」と思って作るわけですが、いざ蓋を開けてみると、ぜんぜん売れない。

「なんで売れないんだ!!」「こんなにおもしろいのに!!」という悔しい経験を積んでいくなかで、だんだん「もしかして、これ、誰も読んでくれないんじゃないか……」と思うようになっていきます。

いつしか編集者は「誰も読んでくれない」という前提で考えるようになります。だからこそ「無関心の人にいかに関心を持ってもらえるか」をすごく考えるようになるのです。

2、編集者は軸足が「読者側」にある

これも編集者にとっては自然な感覚なのですが、ひとたびビジネスの世界に来てみると、たいていは軸足が「発信者側」にあることに気づきます。

「サービス開始のお知らせ」「こんな事業を始めます」「資金調達しました」「採用強化中です」

……これらはすべて、企業側・発信者側に軸足があります。

別に企業の発信は何万人に見てもらわなくてはいけないものでもないので、それでもいい場合も多いのですが、よりたくさんの人に届けたい場合は軸足を読者側に置かないと難しいなと思うわけです。

でもこれは、しょうがないことでもあると思います。

編集者という生き物は、いろんな人に会いますし、発信者とはちょっと距離があります。だから第三者的な目線で見ることができる。

一方、企業の人はずっと同じビルにいたりします。しゃべる人も同じ会社の社員だったり、上司だったりする。基本的には自分の会社に関係のある人としかコミュニケーションをとっていないわけです。

だから、軸足がどうしても「企業側」になってしまう。その状態で「読者のことを考えよう」というのは、構造上なかなか難しいとも思うのです。

「編集者は最初の読者である」と言われたりもしますが、あくまで情報やコンテンツを読者側からみてジャッジするのが編集者という生き物なんじゃないかと思います。

3、編集者は発信者と受信者の接点を探っている

1と2を踏まえて、編集者が何をしているのかと言うと「発信者と受信者の接点を探る」ということです。

僕は「編集とはなんですか?」と聞かれたら、こう答えます。

「発信者が伝えたいこと」と「読者が知りたいこと」の重なる部分をコンテンツ化することです、と。

前提として、人間は自分(と自分の家族)にしか興味がありません。

朝起きていちばんに他人のことを考えたりする人は稀です。朝起きたら「会社行きたくないなー」とか「今日もあの上司に会わなきゃいけないのか」「だるいなー」などと思うのが人間です。

自分のことがもう99%。

「じゃあ、接点なんて見つからないじゃないか」「関心を持ってもらえないじゃないか」と諦めそうになりますが「人が自分にしか興味がない」というのは、めちゃくちゃチャンスでもあるんです。

裏を返せば「これは自分に関するものだ」と認識さえしてもらえれば、絶対に読んでもらえるからです。自分にとってプラスであると認識してもらえれば、門戸が開かれる。

じゃあ「自分にとってプラスになるもの」はどういうものなのか? それには、大きく2つあります。

ひとつは「楽しませてくれるもの」「面白いもの」です。

平たく言えば、エンターテイメントですね。ゲーム、YouTube、TikTok……。Netflixとか映画なんかは、他人ごとのはずなのにわざわざお金を払ってまで観たいと思わせるパワーを持っています。

もうひとつが「役に立つもの」です。

平たく言えば、薬ですね。人は悩みごと・困りごとを解決してくれるものには飛びつきます。「この記事は自分のためになる」「自分の人生や仕事のプラスになる」と思ってもらえれば、読んでもらえます。

人は「自分」に興味がある。だけど他人だって同じ人間であり、それぞれが「自分」なので、他人どうしであっても必ず接点は見つかります。

同じように仕事で悩んでいたり、同じように人間関係に悩んでいたりする。同じようなストーリーが好きだったり、誰かに心惹かれたりするわけです。そこで「面白いもの」とか「役に立つもの」を提供できれば、接点を作ることはできると思っています。

4、編集者は「この人からノウハウを盗めないかな」と思っている

「編集者は」と言うと、ちょっと主語が大きくて怒られそうですが、

少なくとも僕は「なにか面白い話が聞けないかな?」「この人から貴重なノウハウを聞くことはできないかな?」という「下心」で近づいています(笑)。

本を作っていたときも、佐藤可士和さんに会いに行って「可士和さんはどうやって打ち合わせしてるんですか?」と聞いてみたり、週刊文春の編集長に会いに行って「どうやってそんなスクープが取れるんですか?」と聞いたりしていました。

ぜんぶ、自分の関心ごとや悩みごとが発端になっている。

こういうことを言うと「人を利用するなんて!」「人をコンテンツとして見るなんて!」と思う人もいるかもしれません。……だけど、そうやって下心で近づくからこそ、読者が本当に知りたいことや読みたいものにたどり着くことができると思うんです。

逆に、編集者自身が聞きたくもないことを「仕事だからしょうがないか」といって取材することこそ失礼な気がしますし、結果的に読者不在のものになってしまいます。

「取材だからやる」「仕事だからやる」ではなくて、「目の前にいる人と何を話したいのか?」「この人の面白さはどこなんだろう?」「強みはどこなんだろう?」と考えて取材をする。そうすると、必然的に面白いコンテンツができあがるような気がしています。

5、編集者は「人」にフォーカスする

雑誌の編集者や新聞記者は、事件などの「コト」にフォーカスする方もいると思いますが、本の編集者は「人」にフォーカスする人が多いと思います。

人に興味があるし、人に焦点を絞っている。

企業の発信を見ていると、わりと「人」ではなく「コト」を前に出すことが多い気がしています。「こんな事業をしています」「こんな取り組みをしています」という発信が多い。でも、それだとやっぱり熱が伝わりにくくなります。

人は「人」に興味を持ちます。

考えてみれば、売れる本の著者が法人名であることは、ほぼありません。やっぱりソフトバンクであれば孫さんだし、テスラであればイーロンマスクです。企業名が著者になっている本があまり売れないことを考えれば、やっぱり人間は「人間」に興味を持つのではないかと思うんです。

編集者は「人」にこそ魅力があり、人はそういう「人」に関心を持つことをわかっている。だから「人」にフォーカスするのかもしれません。

6、編集者は「情報だけでは心は動かない」ことを知っている

企業の発信は「事実ベース」だったり「数字ベース」だったり、いわゆる「情報止まり」のことが多くあります。

でも、そういった情報に「感情」を乗せることができれば、より多くの人に深く訴えることができるはずです。

編集者が気にしているのは「感情が動くものになってるかどうか?」です。

例えばタイトルをつけるときも「0.2秒ぐらいで反応できるか?」というところまで意識しています。noteのタイトルであっても本のタイトルであっても、読者が一瞬見て「ん? なんだろう?」と思えるようなものにしようと心がけています。

情報だけでは、なかなか読んでもらえない。ちゃんと「感情が動くもの」にすることで、多くの人に読んでもらえるものにする。そんなことを考えているのが編集者という生き物な気がします。

7、編集者は「主観」と「客観」を行き来する

編集者の価値をひとことで言うなら「客観」だと思っています。

原稿ができて「めちゃくちゃ面白い!」と思っても、次の朝には「誰も読まないんじゃないか……」と悩み始めるのが編集者です。

ずっと主観だと「これは面白い!」という思い込みだけで発信することになります。すると意外にぜんぜん届かなかったりする。

最初は発信者にすごく関心を持って、寄り添って、グーっと深く深く潜っていきます。だけど次の日には「ここが足りない」「ここがわかりにくい」「これって本当に面白いのだろうか?」と冷静になるのが編集者です。

なぜ、客観に価値があるのかと言えば、やっぱり自分のことは自分ではわからないからです。僕だってそう。編集者をやっていますが、自分が発信するときは何が面白いのかはよくわかっていません。(この文章もです。)

自分では「当たり前だ」と思っていることが意外に他人にとっては新鮮だったり、逆に自分が「面白い」と思っていることは意外と面白いものではなかったりするのです。

そんな編集者の価値を最大化したい

編集者の習性を7つ紹介してきましたが、

「こういった編集者の特性を、本作りだけに使うのはもったいないかも」「編集の力を会社や社会を変えるために使えないか?」ということで続けているのが、経営者の隣で編集者をやる「顧問編集者」という仕事だったりします。

人生の時間は限られているので、仕事をするならなるべく価値のあることがしたい。エゴかもしれないですが、それが僕の思いです。

編集者として本を作るのもひとつの選択肢だけど、経営者の隣にいることで価値が出せることも知りました。経営者が世界を変えようとするときに、隣で言葉のサポートをすることで役に立てたらうれしいなと思っています。

お知らせ

株式会社WORDSでは、プロの外部編集者を募集しております。〆切は2014年3月31日です。お声がけさせていただくのは数名と狭き門にはなりますが、よろしくお願いいたします。


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