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【読書メモ】みみずくは黄昏に飛びたつ

タイトル:みみずくは黄昏に飛びたつ
著者:川上 未映子、村上 春樹
出版社:新潮社


本書は、川上未映子氏が訊いて村上春樹氏が語るという対談形式で、村上春樹氏の最深部に迫っていく、まるで井戸を掘るようなインタビュー記録です。私が大好きな比喩である「地下二階」について理解が深まる内容です。以下、気になった箇所をピックアップしていきます。

第一章 優れたパーカッショニストは、一番大事な音を叩かない

キャビネットについて

誰もが、人それぞれのキャビネットを持っていて、中に放り込んでいる。

比喩について

論理的に考え出すとむずかしい。非論理的になるのがいちばんです。

縛り(制約)について

定まったルールの中で好き放題するという環境をつくっておかないと、とっちらかってしまいます。

リアリティについて

事実をリアルに書いただけでは、本当のリアリティにはならない。あえて言うなら、より生き生きとパラフレーズされたリアリティというのかな。

くぐらせることについて

一回無意識の層をくぐらせて出てきたまてりあるは、前とは違うものになっている。それに比べて、くぐらせないで、そのまま文章にしたものは響きが浅いわけ。

ものを作る人について

ものを作る人って、やはり自分にしか作れないものを追求するのが何より大事になってくる。

『職業としての小説家』で言いたかったこと

自分が見定めた対象と全面的に関わり合うこと、そのコミットメントの深さが大切なんだ

上記ピックアップした内容は小説家について語ってるのですが、モノづくりに携わる私自身の仕事にも通じるところがあるなぁ、と思いました。

第二章 地下二階で起きていること

物語の基本原則について

リンカーンが言ってるように、ものすごくたくさんの人間を一時的に欺くことはできるし、少ない数の人間を長く欺くこともできる。しかしたくさんの人間を長く欺くことはできない。

地下二階について

村上さんは小説を書くことを説明する時に(中略)一軒の家に喩えることがありますよね。一階はみんながいる団らんの場所で(中略)、二階に上がると(中略)プライベートな部屋がある。(中略)この家には地下一階にも、なんか暗い部屋があるんだけれど、まあ、ここぐらいならばわりに誰でも降りていけると(中略)。さらに通路が下に続いていて、地下二階があるんじゃないかという。そこが多分、いつも村上さんが小説の中で行こうとしている、行きたい場所だと思うんですね。

タイミングを捉えることについて

地下二階に真剣に降りて行こうと思ったときにいちばん大事なのは、正しいタイミングを捉えることです。

再びキャビネットについて

手持ちのキャビネットが小さい人、あるいは、仕事に追われて抽斗の中身を詰める時間のない人は、だんだん涸れていきますよね。

人間の意識について

人間の意識というものが登場してきたのは、人間の歴史の中でもずっと後のことなんです。それより前にはほとんど無意識しかなかった。(中略)「無意識」でやっていたことが、だんだん「意識」の領域に格上げされていくわけです。格上げというか、よりロジカルになっていく。

「地下二階」とは人間の無意識の集合体、というようなところなのでしょうね。そこをくぐらせて出てくるから村上春樹氏の小説は「何かよくわからないけど、分かる」という感覚になるのかな。

第三章 眠れない夜は、太った郵便配達人と同じくらい珍しい

自己について

小説を書くという行為と自己については(中略)、文章の生成の中だけにそれが存在する(後略)。

行為と分析について

行為総体が分析を含んでいなくてはならないんです。行為総体から切り離された分析は、根を引っこ抜かれた植物のようなものです。固定された分析には、必ずどこかに誤差が含まれています。

ものすごく共感しました。行為より分析を重視する状況に多く出会ってきたので。野中郁次郎先生も日本企業の3つの「過剰」として「 オーバー・アナリシス(過剰分析)」を挙げてますね。

第四章 たとえ紙がなくなっても、人は語り継ぐ

知的作業をすることについて

新しい考えを出しているに違いない、ある種の「高揚感」と「どうだ感」がないと、知的な作業というのはできないですよね。

こちらはプロフェッショナルを感じる言葉

現実の牡蠣フライより、もっと読者をそそりたい。

オープンさ、ということ

囲い込んで何かを搾り取るようなものじゃなくて、お互いを受け入れ、与え合うような状況を世界に向けて提示し、提案していかなくちゃいけない。

人は語り継ぐ

もう何百年も前から人が洞窟の中で語り継いできた物語、神話、そういうものが僕らの中にいまだに継続してあるわけです。

感想

最近、勉強会の中で「地下二階」の話題が出てきたので久しぶりに読み直しました(発刊は2017年)。川上未映子氏の質問が絶妙で読み物として面白いですし、加えて自分自身の仕事と通じるところもあり勉強になりました。川上未映子氏の本も読みたくなったので、今度トライしてみます。

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