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【読書メモ】企業変革のジレンマ

タイトル:企業変革のジレンマ
著者:宇田川 元一
出版社:日本経済新聞出版


序章

危機感があれば会社が変わるわけではない。

「対話」とは、「他者を通して己を見て、応答すること」である。

構造的無能化とは、組織が考えたり実行したりする能力を喪失し、環境変化への適応力を喪失していくことである。

対話とは(中略)きわめて地味な実践である。経営層からメンバー層までがこうした取り組みを積み重ねることを通じて、徐々に企業全体が経営する力を回復していく過程こそが、変革なのである。

第1章 あなたの会社で今、起きていること

本書では、既存の企業変革論との視点の違いを以下のようにまとめています。

<変化の度合い>
  既存:不確実で急速な変化
  本書:確実で緩慢な衰退
<時間軸>
  既存:短期
  本書:中期〜長期
<問題の明確度>
  既存:ある程度高い〜高い
  本書:低い〜きわめて低い
<実施者>
  既存:経営者と特命担当者
  本書:各階層・機能全体

人々の間に企業変革への自発性が醸成されたとき、企業変革はかなりの部分で成し遂げられていると言える。

表層的な問題の背後に複雑な問題があり、それが表層の問題を様々な形で生み出していることを、本書では「問題の二重性」と呼ぶ。この二重性を紐解けないことが、問題解決の表層化を生じさせている。

表層の問題に気を取られて目先の解決策を講じるのではなく、その背後にある、より複雑で重要な問題に取り組もうとすること。これが、本書で示したい企業変革の基本的な考え方である。

ロナルド・ハイフェッツは、私たちが直面する問題を大きく2つに分類した。1つは「技術的問題」であり、もう1つは「適応課題」である。
適応課題とは、技術的にできることがないという状況に適応しなければならない性質の問題である。
本書は、こうした企業変革を支援する「適応的リーダーシップ」について論じているのだと言えるだろう。

第2章 企業変革に必要な4つのプロセス

私たちが目指す長期的な変革に必要なことは何だろうか。それは主に、次の4つのプロセスを円滑に実践できるようになることである。
①全社戦略を考えられるようになる
②全社戦略へのコンセンサス形成
③部門内での変革の推進
④全社戦略・変革施策のアップデート

企業変革を進める上では、数多くのジレンマを乗り越えていかなければならない。もっと言うならば、ジレンマを乗り越え続けること、あるいは、ジレンマの存在を知ることこそが、変革であると言えるだろう。

企業変革とは、(中略)戦略を考えられる組織になること、部門間の対立を融和させ、全体性のある組織になること、押しつけではなく、自発的に行動できる組織に生まれ変わっていくことである。

第3章 構造的無能化はなぜ起きるのか

この章で紹介した(中略)エピソードは、一見、従業員こ意識の低さや意志の弱さの問題のように見えてしまう。だがそうした解釈は問題の表層を見ているに過ぎない。個々の能力不足は構造的にもたらされたものである。

組織の「断片化」が進むことで問題が見えにくくなり、変化の兆しも見出せず、組織の考える能力が著しく落ちていく。その結果、新たな戦略や施策を実行することもできないという「不全化」に至り、それを紐解くことができない「表層化」によって、悪循環が生まれる。これが構造的無能化のメカニズムである。

企業変革について考える際に重要な理論の1つに「センスメイキング」がある。センスメイキングとは、組織の中で多義性が認知され、その内容について解釈がなされ、意味が形成されるという一連のプロセスのことである。

変革の実践には、組織の認知の枠組みを内側から少しずつ変えていくように働きかけていくことが、何より大切である。

第4章 企業変革に必要な3つの論点

構造的無能化から抜け出していくための企業変革の取り組みとして、3つの問題を乗り越える必要がある(中略)。その3つとは「多義性」「複雑性」「自発性」である。「多義性」では状況認知と解釈の問題、「複雑性」では戦略を考え推進する組織的実行力の問題、「自発性」ではメンバーの自発的な企業変革への取り組みの構築の問題がそれぞれに存在する。

構造的無能化のメカニズムと密接に関わるこれらの課題を乗り越えていくためには、まず、目の前で起きている問題を紐解くところからスタートしなければならない。(中略)そのために必要となるのが対話である。

「多義性」については、これまでの解釈の枠組みでわからないことをわかっている側面からのみ解釈してしまう結果、「何がわからないかわからない」という問題だと述べてきた。

相手の生きる世界を相手の視点で捉え直し、それに対して自分が応答し、自分が変わっていくプロセスこそが対話である。

第5章 「わからない」壁を乗り越える 組織の「多義性」を理解する

破壊的イノベーションにはいつか必ず直面するものとして日頃から事業の変革を図り、新たな事業につながるアイデアを構築し、ダメージを軽減できるようにしておく必要がある。

私たちにとってより現実的で厄介なのは、急激な衰退というよりむしろ、もっと緩やかな衰退であろう。

成功体験とは、その組織がうまく機能していた状態を教えてくれるものであり、目に見える成功要因の背後に、実は複雑なプロセスがあったことを示唆するものでもある。

第6章 「進まない」壁を乗り越える 組織の「複雑性」に挑む

変革が進まない1つ目の理由は、役員や経営者など、決定権のある立場にある人の中で、戦略が明確になっていないからである。

変革が進まない2つ目の理由は、変革施策の実行に際し、他の部門・部署の協力が十分に得られないからである。

戦略の明確性が低くとどまる問題の背後には、戦略を考える際に、今起きている問題についての掘り下げが十分になされていないという、表層化の罠が潜んでいる。

この状態から変革を進めるにはどうすればいいだろうか。
基本的には2つの方法がある。1つは部門・部署の違いを超えて一緒に考えること、そして、もう1つは個々人の思考の習慣を変えることである。

1つのヒントとなるのは、「ポジティブ・デビアンス(ポジティブな逸脱)」という考え方である。(中略)ポジティブ・デビアンスとは、「困難な状況において、例外的にその問題を乗り越えてポジティブな行動をとる人」あるいは、「困難な状況から逸脱した人」を意味する。(中略)ポジティブ・デビアンスは数多ある考え方のうちの1つだが、ここから見えてくるのは、問題自体に対処しようとするのではなく、問題を1つの変革の入り口として捉えるという視座の転換である。

変革とは、当事者が自発的に考え、顧客価値の創造や社会課題について、率先して取り組めるようになることである。上から対処策を講じるだけでは、当事者は受け身になりやすく、自発的に考えようとしなくなる。

断片化された組織の各部門に、何のための新規事業開発なのか、何のための人材育成なのかが、自事業との関わりの中で捉えられていないからである。(中略)足りないのは、現場のアイデアでもメンバーの意志でもなく、自社の将来の方向性に対する利害関係者のコンセンサスである。

自分のナラティブを共有することで、自分の語る内容にどのような意味があるかについて、考えを深められるようになる。

ハームリダクションのように、一見すると後退しているように見えることも含めて、相手の生きる世界を知ろうとし、自分にできることを考え、必要な支援を行い、そうした取り組みを通じて問題にアプローチする方法を探るという姿勢は、きわめて対話的かつ現実的である。

第7章 「変わらない」壁を乗り越える 組織の「自発性」を育む

最も優れたリーダーとは、そこに集うメンバーが「この会社(社会)の今の良好な状態は、自分たちが作ったのだ」と言えるような組織を作る、ということである。

自発性とは、仕事の中で与えられた仕事をこなすことを超えて、自ら能動的に、自分の役割を見いだしていこうとする状態である。
また、自発性を獲得するとは、その人が生きている物語の中で、自分からその役割を積極的に引き受けるようになることであり、その人が組織の構造の中で、自分の存在や位置が意味あるものだという実感を持てるようになることである。

1つは自発的に考えたり行動したりする習慣が、組織の中に根づいていることである。

社会構成主義に基づくナラティブ・アプローチの理論的基盤を築いた社会心理学者のケネス・ガーゲンは、「協応行為によって意味が生み出され、私たち自身もその意味を通じて自分たちが何者であるかを理解する」と述べている。

組織の中で習慣を生み出すと同時に、習慣の実践を通じて日々再生産される組織固有の形式化されない「常識」を、「組織の知の暗黙的次元(暗黙知)」と呼ぶ。
自発性は、この組織の暗黙知によって生み出されるが、組織の暗黙知は日々の協応行為の習慣の帰結である。

変革の場ではよく、メンバーの無自覚さを指摘したり変革をしないことで生じるネガティブな帰結を語ったりして、危機感を募らせ、当事者に動いてもらおうとすることがある。
しかし、このように危機感をあおる方法は、(中略)望ましくない。

自分が聞き手に求めるものをいったん脇に置き、聞き手の視座を理解しようとしなければならない。聞き手にとって意味のあることを語りかけることこそが、ストーリーテリングの最も重要な点だからである。

自発性は一見相手の中に生じる現象のように見えるが、実際は、相手との対話的なプロセスから生まれる協働的な現象であるということだ。(中略)相手の視点を媒介にして自分たちの取り組みを捉え直し、それを相手の言葉で語ることで、双方がその取り組みの参加者となり、結果的に自発性が生まれる。

第8章 企業変革を推進し、支援する

変革支援機能が担う役割とは、(中略)断片化された組織内部をつなぎなおすことでありあ、必要な課題について自発的に考えたり、実行したりすることが難しくなっている現状を、少しずつ変えていけるようになることである。

その知性や行動を支える考え方とはどのようなものだろうか。
それは、「組織をケアする」という視点であると本書では考える。

ケアのロジックにおいては、支援する相手にはそれぞれに固有性や独自性があると考える。相手の状態を一律の基準に照らして評価するのではなく、その人の直面する困難や課題について、固有性や独自性を認めるということである。

本書で用いてきた言葉で言い換えるならば、これは時間軸を取り込むということであり、それによって問題の二重性を理解しようとする姿勢であるとも言える。

感想

経営層からメンバーまでが「対話」を通じて経営する力を取り戻していくプロセスが変革であり、変革の支援者はファシリテータとなり「組織をケア」する視点が大事である、というのが本書の主張ですが、私にとっては納得感のある内容でした。「変革だ」と言って組織を捏ねくり回したり、現場にとっては的外れな施策を実行したりする会社の姿を何度も見てきました。それが嫌だったので、私自身は、トップダウンだけではなく、弱い繋がりを作って仲間を増やすことで変革を進めようと奮闘しています。その進め方は悪くはないと、思わせてくれる内容でした。


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