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自#182|レコードが我々に与えてくれた、プレゼント(自由note)

 アメリカでは、今年の上半期、アナログレコードの売り上げが、CDのそれを上回ったそうです。もっとも、音楽は、もうサブスクを利用して聞く時代です。レコードが売れていると言っても、マニアだけが求めている小さなマーケットです。

 レコードを聞くためには、ソフト以外に、ターンテーブル、アンプ、スピーカー、配線のケーブル、針(カートリッジ)などが必要です。これは、そこらの家電量販店には置いてません。オーディオ専門店に行って、購入する必要があります。スマホがあれば、いつ、どこでも音楽はlisten toできます。レコードを聞くためには、ソフトと音響システム、それを置く空間が必要です。吉祥寺のタワーレコードにも、立川のHMVにもレコードは置いてません(もっともごく最近のことは解りませんが)。ソフトもハードも、簡単には入手できません。かつてのような、レコード全盛時代が到来することは、100パーセント、絶対にあり得ません。

 ハードオフは、今、かなりレコードを置いています。明らかに、以前より増えています。それは、外国盤のレコードが、入って来ているわけではなく、レコードを沢山stockしている年寄りたちが、次々に死んで、遺族がレコードをハードオフに持ち込んでいるからです。私は、35歳で火事に遭って、レコード3000枚をすべて失いました。普通の人に較べたら、自分は音楽マニアだと思っていますが、私よりコアな音楽マニアは、私の周囲にだって、いくらでもいました。今、次々に死んでいる年寄りたちが、5000枚くらいレコードをstockしていたと言ったことは、ごく普通に考えられます。アメリカからの最新の輸入盤は、入手できなくても、演歌なども含めた、かつての懐かしのポップスは、その気になれば、ハードオフで1枚百円くらいから売られているレコードを買い集めることで、聞くことは可能です。

 スマホ全盛の時代に、あえてレコードをlisten toしようとする人は、ターンテーブル、アンプ、スピーカー、配線ケーブルなども、ハードオフで調達して、自力でシステムを構築することが、おそらくできると思われます。私だって、無論、やれます。私は、ジャンク品の中から、使える機材を選び出すことができます(今は、ハードオフでジャンク品の視聴も可能になりました)。オーディオセットは、3万円以内の予算で、組み立てる自信があります。カートリッジだけは、専門店かネットショップで、購入する必要がありますが、若い頃のように、朝から晩まで、それこそレコードがすり切れるまで聞きまくると云ったことは、絶対になくて、せいぜい毎日2時間くらいの視聴ですから、カートリッジは、一年に一回くらいchangeすれば充分です。年に一回、アキバに行って、カートリッジを購入することは、別に、そう大変なことでもありません。

 小4から、ずっと放送委員会に所属していた私は、レコードの状態を、一瞬にして見分けることができます。つまりどの程度、ノイズが出るのか、針が飛ぶのかor notなのかと云ったことを、見抜けます。レコードを、スプレーをかけてクリーナーを使って拭いたりすることも、昔取った杵柄です。レコードを聞くために、ハードとソフトを用意することは、正直、二日もあれば、可能です。が、残念ながら音響システムを設置するspaceがありません。現在持っている大量の本を処分しないと、システムは置けません。

 まあですが、理論的には、レコードマニアに復帰することは可能です。復帰したとしたら、とんでもなく面倒で、厄介、手間ヒマのかかる音楽ライフが、私を待っています。そもそも、いちいち、ジャケットからレコードを取り出さなきゃいけないんです。レコードに指先の脂がついたりしないように、取り出すのも、ターンテーブルに載せるのも、テクニックが必要です。爪が伸びていて、盤面のどこかを、かしゃっと引っ掻いたら、その箇所で針が飛びます。ターンテーブルに載せる前に、スプレーをかけて、拭きます。最後、埃が、一直線状になって盤面に残ってしまいます。それをクリーナーを、やや斜めに傾けて、しゅっと拭き取ります。これだって、一種の技です。針を限りなくソフトに、すーっと、かすかなノイズすら発することがないように、盤面に乗せる必要があります。A面の例えば3曲目が聞きたかったら、2曲目と3曲目のわずかな空白の溝に、針を正確に落とさなければいけません。私は、これを会得するのに、小5の時、6ヶ月くらいの訓練の時間が必要でした。年寄りになって、目も悪くなっているので、あの僅かな空白の溝を、識別できるかどうかは、解りません。まあ、その場合、A面の最初から最後まで、全部聞けばいいんです。そもそも、LPと云うのは、そういう風にして聞くものです。3曲目だけを聞くとかって、ある意味、邪道です。

 あっ、レコードは、A面、B面があります。A面が表で、B面が裏です。CDやDVD、ブルーレイには、片面にしか情報を載せてないので、実際に見てみないと、しっくり来ないかもしれません。LPは、A面の1曲目と最後、B面の1曲目と最後と、一種のキメと云うか、サビのような曲を持って来るとこが、4箇所あります。特に、B面の1曲目に、何を持って来るのかが、キモだったりします。起承転結で言うと、転にあたるのが、B面の1曲目です。ビーチボーイズの「ペットサウンズ」でしたら「神のみぞ知る」、ビートルズの「アビイロード」でしたら「ヒア・カムズ・ザ・サン」、ローリングストーンズの「スティッキーフィンガー」は「ビッチ」、レッドツェッペリンの二枚目でしたら、「ハートブレイカー」って感じです。

 レコードのお約束は、片面22分以内です。だいたい20分ちょいくらい。昔のカセットテープのメインは45分テープだったんですが、それはLPのAB両面のすべてをダビングしたら、ちょうど45分くらいだったからです。サブスクを、自分自身は、利用したことはありませんが、仲のいい教え子の家を、次女と一緒に訪問したりすると、サブスクの音楽が、スマホをブルートゥースでスピーカーにつないで、流れてたりします。
「先生、ボブディラン聞きますか?」と前置きして、さくっと曲をchangeして、ボブディランを流してくれたりします。超便利です。エンドレスに心地良い音楽が、流れ続けます。ホブディランを聞かせてくれた教え子の家は、埼玉のど田舎のマンションなんですが、この心地良い音環境は、代官山のカフェ並みかもと、思ったりもしました(あっ、ですが、代官山のカフェに実際に入ったことはありません。想像です)。

 But、Although、Nevertheless、レコードは、片面20分ちょいだったからこそ、集中できたんです。20分ちょい過ぎて、放置していたら、レコードの針は、盤面の中央部分を、無駄に削ってしまいます(当然、針は劣化します)。20分ちょいの集中、これは、レコードが我々に与えてくれた、プレゼントのようなものです。20分ちょいの集中は、訓練すれば、誰でもできます。20分ちょいだからこそ、集中できるんです。

 私は、いまだにCDで、ベートーベンの第九を、第五楽章まで、集中して聞き通すことができません。74分近くも集中し続けるのは、生理的にも不可能です。第一楽章の途中で、眠くなります。うとうと、ぷわぷわして、ふと気づくと、第四楽章。まあ、第四楽章あたりからですと、何とか集中できます。中学受験の専門の塾で、三時間通しの授業をやっているとこがあります。人間は、せいぜい20分くらいしか集中できないのに、いたいけない小学生を、180分間も、机にしばりつけておくとかって、一種の虐待なんじゃないかとすら思ってしまいます。

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