自#190|Sex and the City⑦~ヘラクレス~(自由note)

 ディズニー映画の「ヘラクレス」を見ました。ディズニーですから、お約束の安心できるhappy endです。ディズニーは、子供たちに夢と希望と愛を与えると云うコンセプトの会社です。unhappy なbad endは、許されません。が、現実は、必ずしもhappy endではないし、映画「ヘラクレス」の元ネタのギリシア神話も、happy endとは言えません。リアルの人間界と同じように、欲望や嫉妬、猜疑心などが渦を巻き、往々にして悲劇的な結末を迎えたりします。メディア(メグ)とイアソンとの恋愛もそうです。

 ディズニーの映画では、メディアの相手は、ヘラクレスです。まず、ヘラクレスがメグに惚(ほ)れ、そうするとメグもヘラクレスに惚れ(これを恋愛心理学では、『好意の返報性』と言います)自分を裏切ったと思われるメグを、ヘラクレスは命がけで救おうとし、最終的に、真摯(しんし)な勇気を認められて、ヘラクレスは神になり、メグも救われ、二人は結ばれると云う、めでたし、めでたしのご都合主義的なhappy endを迎えます。そもそも、自分を裏切ったと思われる(自分を裏切った気配が限りなく濃厚)相手を、愛し続けることができるのかと云う素朴な疑問は、誰しもが抱くと思います。イエスキリストは、右の頬を打たれたら、左の頬も差し出しなさいと教えました。many times、裏切られても、少しもひるむことなく、突き進んで行けるのが、真の勇者だと云うことなのかもしれません。

 ギリシア神話では、メディアが惚れたのは、アルゴス船に乗って、コルキスにやって来たイアソンです。イアソンは、コルキスにある金羊毛を手に入れるために、ギリシアの英雄たちを引き連れて、コルキスにやって来たんです。コルキスの王はアイエーテス。アイエーテスは
「金羊毛は渡してもいいが、条件がある。まず、私がヘパイトスから貰った蹄が青銅で、鼻から火を吹いている、二頭の牛をくびきにつないでもらいたい。それができたら、自分がアテナ女神から貰った龍の牙を畑に撒いて欲しい」と、イアソンに伝えます。正直、これはとても、実行できそうにない難問です。ギリシアNo1の英雄、ヘラクレスもアルゴース船に乗って、一緒にコルキスまで来ているんですが、彼でさえ、尻込みしています。アイエーテス王の娘が、メディアです。メディアは魔法を使います。メディアは
「自分を、あなたの妻にしていただけるのであれば、金羊毛を手に入れるために、サポートします」と、イアソンに持ちかけます。イアソンは、結婚の約束をします。そうするとメディアは、火にも焼けず、刀で切られても傷つかない魔法の薬をイアソンに渡し、龍の牙を畑に巻いた後、出現して来る兵士たちへの対処の仕方も教えます。

 イアソンは、メディアに助けてもらって、王との約束を果たします。が、王は最初から金羊毛を渡すつもりはないので、明日、渡すからと時間を引き延ばします。王は、アルゴー船を夜の内に焼き払って、イアソンたちを皆殺しにするつもりです。メディアは、イアソンと、一緒に来ていたオルフェウスを、金羊毛をかけてある木の所に案内します。金羊毛をかけてある木には、巨大な龍が絡みついています。この龍を眠らせるために、オルフェウスは、竪琴を弾いて、メディアが何かの呪文を唱えます。龍が眠っている隙に、イアソンは、金羊毛を手に入れます。そして、アルゴー船に乗って、コルキスの町から、脱出します。メディアは、幼い弟王子のアプシュルトスを、一緒に連れて来ています。金羊毛を盗まれたことを知ったアイエーテス王は、快速船に乗ってアルゴー船を追いかけて来ました。快速船の方がspeedが速いので、追いつかれそうになります。すると、メディアは、自分の弟のアプシュルトスの胸に剣を突き刺して殺し、弟の死体を切り刻んで、海に投げ捨てます。王は、快速船の舳でこの様子を、涙を溜めて見ていました。その後、船を止めて、王子のバラバラになった死体を、拾い集めようとします。その間ニ、アルゴー船は、逃げ去りました。

 自分の恋愛と結婚を成就させるために、平気で弟を殺し、死体を切り刻んで海に投げ捨てることができる女を、男は、本気で愛することができるのだろうかと云う素朴な疑問は、ここでも湧いてしまいます。トロヤ戦争のギリシア側の総大将は、アガメムノンです。夫が戦争に行ってる間、アガメムノンの妻のクリュタイムネストラは、情人のアイギストスと不倫をしています。例のトロイの木馬の作戦で、トロイ戦争に勝利し、凱旋して来たアガメムノンを、妻は殺します。クリュタイムネストラと、アガメムノンの息子はオレステス。息子のオレステスは、父の仇討ちをしなければいけません。が、自分の生みの母親を殺すことが、許されるかどうかと云う大問題があります。理由はどうであれ、自分の生みの母親を殺すことは、大罪です。

 イアソンは、結婚すると云う約束で、メディアの力を借りていますし、約束つまり契約は守らなければいけません。二人は結婚し、子供も二人、生まれます。イアソンたちは、自分の故郷のイオルコスに帰ります。イオルコスの王のペリアスは、イアソンの叔父です。メディアは、イアソンを王位につけるために、彼が猪狩りに行っている間に、ペリアス王の娘たちを騙(だま)して、父親を殺させます。が、イオルコスの人々が怒って、イアソンたちを町から追放します。コンリトスに到着すると、コリントスの王は
「魔女のメディアと別れて、自分のひとり娘のグラウケーと結婚し、この国を治めてくれないか」と、イアソンに申し出ます。イアソンは、この申し出を受け入れ、メディアにもそれを伝えます。メディアは、別れることを、素直に承諾してくれたように見えました。イアソンとグラウケーが、婚礼の式を挙げる時、メディアは、グラウケーに花嫁衣装を贈ります。が、それを着た途端、衣装は燃え出し、グラウケーは娘を助けようとした父親もろとも、焼け死んでしまいます。これを見て、メディアは、イアソンとの間にできた二人の子供を殺して、龍の引く戦車に乗って、逃げ去ります。中島みゆきの「悪女」は、「悪女になるのは月夜はおよしよ、素直になりすぎる」レベルのヤワな「悪女」でした。メディアは、筋金入りの超極悪「悪女」です。メディアレベルの超極悪「悪女」が、恋愛できるのかと云った超難問は、「Sex and the City」では、扱いません。どろどろのギリシア神話と比較すると、「Sex and the City」は、軽い感じのラブコメだと言えます。

 ちなみにメディアは、その後、テセウスの父親のアイゲウス王と出会い、恋愛第二幕を始めます。で、邪魔者のテセウスを殺そうとしますが、失敗し、その後は、アジアに逃げます。イアソンの方は、何もかも失って、故郷のイオルコスに帰って来ます。イオルコスの浜辺に引き上げてあったアルゴー船の傍に腰を下ろし、「お前だけが自分の友だちだ」と呟きます。うとうととまどろんだ時、古くなって腐っていた船の舳が落下して、イアソンの頭に激突し、イアソンは、その生涯を閉じます。

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