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自#098|ネィティブではない外国人が、越えなければいけない、英語の高い壁(自由note)

 山下智久さんのインタビュー記事を、アエラで読みました。山下さんは、11歳の時、ジャニーズ事務所に入所しています。11歳、つまり小5からジャニーズ事務所の競争社会の中で、鍛え抜かれて、19歳で亀梨和也さんと、デュオで「青春アミーゴ」の楽曲を発表します。10代からすでに、売れっ子で、山Pの愛称で親しまれて来たわけですが、日大商学部もきちんと卒業しています。芸能人には、学歴は不要です。今の大学は、出席をきちんと取って管理していますから、必要な日数、出席しなければ、単位は取得できないし、卒業もできません。おそらく、大学を卒業すると云う「負荷」を自分自身にかけて、山下さんは、精進されたんだと思います。
「大学すら卒業できなくて、芸能人としていい仕事ができる筈がない」と、お考えになっていたのかもしれません。

 山下さんは、27歳の時、「ルート66~たった一人のアメリカ」と云う番組に出演します。これは、山下さん自身が、車を運転して、ルート66で、アメリカを横断しながら、その途中、途中で、アメリカ人男性にインタビューをして、「人生、何が大切か」を探す企画です。山下さんは、この番組のために、アメリカで仕事をされたわけですが、そうすると、まず、相手の言葉を理解することが大切だと云う、当たり前の真実に気がつきます。やっぱり「はじめに言葉ありき」なんです。この番組に出演したことがきっかけで、20代の後半から、山下さんは、本格的に英語の学習を始めます。

 ジャニーズの売れっ子の芸能人が、どれぐらい忙しいのかと云うことは、正直、想像できません。ロケに行く移動の車の中とかでは、多分、寝ていると思いますが、自宅でちゃんと眠れるのは、おそらく、せいぜい3、4時間です。今年、71歳の菅官房長官の睡眠は、毎日、5時間です。30代、40代の売れっ子芸能人は、ナポレオン並みの睡眠時間で、日々、全力投球されているんだろうと想像できます。

 山下さんは、2018年に中国映画「サイバーミッション」に出演されます。全編英語で、悪役を演じています。英語を使ってのコミュニケーション能力を、それなりに身につけたので、この役をやり通せたと言えます。つまり、27歳から33歳まで6年間で、英語、一応、マスターされたわけです。睡眠3、4時間の、日々16ビート、瞬間32ビートくらいのテンポの忙しさの中で、何とか隙間の時間を拵えて、地道に英語の勉強をされたんだろうと想像できます。

 1年生の担任をしている元同僚のY先生が
「この世の中が、どんなに不平等だとしても、勉強すれば、きちんと現状を変えられるように、社会は設計されています。勉強をするのは、早ければ早いほど良いです。なぜなら、勉強に思い切り時間を費やせるのが、中高時代だからです。大人になってしまうと、勉強以外にやらなければいけないことが、かなり増えます。特に仕事が始まると、勉強する時間は、完全になくなります。ですから、今、勉強することを許されている時に、必死に勉強するのが、一番、良いのです」と、学級通信にお書きになっていました。

 特に、語学に関して言えば、中高時代に、必死になって、本気で頑張れば、いわゆる4技能は、1年間で、仕上がります。山下さんが、6年間かけたところを、ティーンエージャーは、1年間で、マスターするんです。ただし、本気です。高校生が、本気になれば、1年間で、たとえ自分の不得意なジャンルであっても、偏差値55の壁などはあっと云う間にclearし、偏差値65あたりまで辿り着きます。

 山下さんは、Huluのオリジナルドラマ「The Head」に出演されました。「The Head」は、南極の科学研究基地で起こる連続殺人事件を、描いた作品です。ロケは、スペインやアイスランドで、3ヶ月に渡って実施されたそうです。イギリス、デンマーク、アメリカ、ドイツ、日本など、さまざまな国で活躍するキャストが集結し、セリフも撮影もすべて英語です。山下さんは、その現場に単身で挑みました。

 山下さんは、日本で仕事をする時は、ジャニーズと云う大きなハコに守られています。何かあれば、事務所が対応し、ケアしてくれます。NEWSのメンバーだった時は、NEWSもまた、山下さんを守りケアするハコとして、機能していました。人間が集団で暮らせば、ソロの時よりも、はるかに安全と生存とが保証されます。アリストテレスは「人間は社会的動物」だと言いましたし、お釈迦様だって、衆生が修業するためにサンガを拵えます。人間は、弱い生き物なんです。ですから、集団になって、安全を確保しようとします。集団には、「律」があります。集団のマナーに違反すれば、当然のことながら、同調圧力としての「律」が作用します。

 ソロで活動すると、明らかに不確実性が、大きくなります。山下さんは、「The Head」に参加して
「まったく新しい挑戦でした。これからどんな未来が待っているんだろう、みんなと仲良くなれるかなとか、不安とドキドキで、最初は小学校の入学式みたいな気持ちになりました」と、語っています。まさに、不確実性のまっただ中に、敢えて、飛び込んでしまったわけです。が、不確実だからこそ、何もかもがほとんど初めての経験だからこそ、脳は活性化し、状況を判断して、その場、その場の最適解を産み出そうと工夫します。

「汗をかいてラグビーをやれ」と云う風な言葉を、私は、大学時代、体育のラグビーの授業で聞きました。身体が、汗をかくと云う意味ではありません。脳が汗をかくような、そんなラグビーを目指せと云う意味です。不確実性のまっただ中に放り込まれると、脳が汗をかいて(もちろん比喩です)priority、優先順位を決定し、最適解を紡ぎ出します。セレンディピティ(思わぬ幸運)と云うことが、もし発生するとすれば、脳が汗をかくような状態の時です。

 一流のサッカー選手でしたら、ヨーロッパのクラブチームに行くべきです。一流の野球選手は、大リーグのメジャーを目指すべきです。何故なら、そこは不確実性のまっただ中だからです。脳が汗をかく、そういうhardな負荷を、なるべく早い段階で、自分に与えるべきです。

「The Head」で、山下さんは、アキ・コバヤシと云う静かな情熱を秘めた微生物学者を演じます。
「アキを演じるのは、すごく難しかった。主に言葉の問題なんですが、日本語に変換しすぎたら、いけないというか、バランスが難しいんです。最初は頭の中で、日本語に変換しつつ、感情を理解したり、気持ちを乗せて行く。でも、演じる時は、いちいち『日本語ではこういう意味だ』と考えていたら、アキではなくなってしまう。英語を英語として、完全に吸収して吐き出さないといけない」と、山下さんは語っています。ネィティブではない外国人が、越えなければいけない、英語の高い壁を、山下さんは、「The Head」に出演することによって、clearされたと感じました。

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