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四角いマットの人食い狼

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密かに本物と入れ替わったレスラー、ローン・ウルフと、プロレスの神殺しを目論む若手最強の男、ハラダ。二人は果たして『戦うことができるのか?』 プロレス政治劇。
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2020年6月の記事一覧

四角いマットの人食い狼(7)

四角いマットの人食い狼(7)

──同時刻、神プロ応接室にて。

「俺は結構だがねェ」

 古川は思わずその言葉に──他ならぬ自らのボス、神野の──耳を疑った。

「ローン・ウルフは、いいレスラーだ。やりてェかやりたくねェかでいやあ、やりてェ。ハラダも世話ンなってんだから、そちらさんにも華を持たせてえしな」

 小林は胸をなでおろしたように見えた。──一方の古川の心中は穏やかではない。神野は負けない。強すぎるのだ。ローン・ウルフ

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四角いマットの人食い狼(6)

四角いマットの人食い狼(6)

 ──三十分後。
 リブレ事務所前の喫茶店『スターロード』にて。

「俺は嫌だね」
 阿久津はそう言い切った。コーヒーの湯気が虚しく漂う。
 小田島は口内にコーヒーではない苦味が広がるのを感じていた。
 阿久津ことローン・ウルフは──今はオフ用の簡易マスクを被っている──ハラダと戦いたいと言い切った。

「君はハラダと戦って勝ちたいのか」

 我ながら間抜けな質問だ、と小田島は思った。当たり前だ。

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