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四角いマットの人食い狼

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密かに本物と入れ替わったレスラー、ローン・ウルフと、プロレスの神殺しを目論む若手最強の男、ハラダ。二人は果たして『戦うことができるのか?』 プロレス政治劇。
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2020年3月の記事一覧

四角いマットの人食い狼(2)

四角いマットの人食い狼(2)

「リブレのローン・ウルフ選手を今回のシリーズに呼ぶと聞きましたが──本当ですか、社長」
 古川はため息混じりにそう聞いた。無駄な行為だったが、責任の所在を明らかにするのは彼の仕事だった。
「なんか文句あんのかイ」
 身体を預けている海外高級ハイブランドのイスは、悲鳴を上げていた。
 その男を例えるとするならば、仁王像だった。高級スーツに身を包んだ体は、その下に彫刻されたような均整のとれた筋肉で構成

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四角いマットの人食い狼(1)

四角いマットの人食い狼(1)

 声が響く。響いてくる。地鳴りとなって、空気を揺らして。
 後楽園ホールの階段下は寒い。それでも熱気はここまで降りてくる。今、試合の真っ只中だ。
 阿久津はメーン・イベントをスルーして、寒空の下タバコを吸おうとこうして出てきた。そうしなくてはならなかった。

「恨むぜ」

 男にごちる。
 目の前の男は、メーン・イベントを行っている団体──『リブレ』の営業部長の小田島である。細い目をした小男だが、

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