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【詩】季節

来年の五月になったら
常磐線の夜ノ森駅に来てくださいね
きっと、きっと
会いに行きます

ぼくは待った

今年
来年
再来年
ずっと、ずっと
ホームにただひとり
ぽつんと待っていた
あのひとだけを

一年十二ヶ月
ぼくには毎日が五月だった
ただあのひとを
ぽつんと待っていた

真夜中の桜の木の下で
肌を重ねた
何度も何度も絶頂に達して
それでもふたりは
抱き合うことをやめなかった
やめられなかった

もう季節は寒くはなくて
葉桜の陰からは満月が見ていた
ほかには誰もいなかった
満開の桜の花の下だったら
ふたりは消えてしまうことができたのに

夕闇に浮かぶ桜は
微動だにしなかった

あの木の下に行ってごらんなさい
きっと死にます
花びらは散る
わたしを埋めてください
来年またきっと会いに来ます

花ざかりが過ぎて
誰も見向きもしなくなる
それでもわたしは眠り続けます
あなたに出会うときを
静かに待っています

常磐線の夜ノ森駅には
いつだってぼくしかいない

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