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そのクリエイティブはデザイン?アート?語源が示唆する「表現」の成り立ちの差異。

知人や同僚に話すと「へぇぇ!」とポジな反応をもらえることが多い話をシェアします。

タイトルにあるように、皆さんもデザインとアートの違いって何だろう?って考えてみたことが一度はあるんじゃないでしょうか。その結果として、例えば、アートはわかりにくいもので、デザインはそういう訓練をした人が作ったものを指すんじゃないか…くらいの分け方で一旦納得されていませんか?

大学では美術史学を専攻し、長年デザインを生業にしてきた僕も、実は大枠そんな感じの分類をしていました。どちらかと言うと、デザインにも表現的な要素があるよな…そうするとアートに近いデザインもあるのかな…と思いながら日々過ごして今に至ります。(仕事にしてるんだからもっと深く考えろよというツッコミが聞こえてくるようです…)

そんなあやふやな認識でいた私ですが、ふと休日に立ち寄った図書館で何気なく手に取った「茶の湯デザイン」という本の冒頭にあったこの文章でバチーンとやられました。

そもそも「デザイン」という言葉の語源をご存知だろうか?「ディ・サイン(de-sign)」署名がないーーつまり、どこの誰がつくったかわからないが、誰もがみんな知っているーーそのような造形を、はたまた状況を指したものだ。

pen BOOKS 茶の湯デザイン|木村宗慎【監修】ペン編集部【編】| P6

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designのdeは、「離れる、下に、否定、強調」という意味の中の「否定」であり、signの接頭語となることで、「Design」=「サインがない」という意味を表すとこのテキストは言っています。デザインとアートの明確な違いを、すでに「Design」という単語が示してくれていたという衝撃に、僕の頭の中から茶の湯のことがふっ飛びました笑。

この語源を知った上で、例えば無印良品の商品について考えてみる。いろんな製品があるなかで、この家電は深澤直人さんのデザインだ、という感じで名前が出ることがあります。これはサインがあるじゃないか、と思うかも知れませんが、実際のプロダクトには深澤さんの名前は入っていません。入っているのは無印良品というブランド名です。もちろんプロダクトには深澤さんらしい曲線やボタンレイアウトが見受けられますが、それはあくまでも無印良品の世界観に沿ったものになっていると思います。

もう一つ、COMME des GARCONSの服についても考えてみます。COMME des GARCONSは、多くの人がそのデザイナーは川久保玲さんだと知っているほど1人の顔が浮かぶブランドですし、その服の姿は、初見の人でも他のファッションブランドとは一線を画す独特の表現が与えられた服だと認識すると思います。ですが、川久保玲さんご自身が雑誌SWITCHのインタビューではこう仰っています。

私のやってきたことは決して芸術家としての活動ではありません。『創造を通じたビジネス』を展開することのみを継続してきました。これはあらゆる重要性の中で第一で、唯一で、最も重要な私の方針です。

SWITCH COMME des GARCONS 50th Anniversary Issue

川久保さんは、ファッションはそれ単体で成立せず、人が着ることで完成するものであり、可能な限りプロダクトを流通させることが、ファッションというビジネスを、ファッションデザイナーという仕事を継続させることに繋がる、ということを強く仰っていると感じました。これほどまでに強烈な個性を持ったファッションでも、そのプロダクトにご本人のサインはなく、あるのは「COMME des GARCONS」というブランド名です。

一方で、人類が古くから作り続けているプロダクトに、器というものがあります。普段みなさんも、誰が作ったか意識せず(de-sign)にマグカップやお皿を使っているかと思います。でも、この器の世界には「作家」と呼ばれる人たちがいます。この人たちの器の裏にはご本人の名前が入っています。プロダクトに見えるのに、署名がある・・・?僕はこの点にかなり迷子になったんですが、その後、実際に作家さんからお皿や湯呑みの作品を購入した際に制作過程のお話を伺った時に気付かされたことがありました。

ものすごく大枠ですが、その作家さんはこう仰っていました。

「実はこの皿は3回焼いています。最初は〜の釉薬を、次に〜をかけて、その後もう一度焼くことでこの強い深みがここに生まれているのです。当然、焼いていく中で途中で割れていく皿が出ます。たくさん破棄して残ったのがこの皿たちなんです。」

僕はこのお話を伺って、器と一言で呼ぶ中でも、個性(作家の意図)が込めてあって大量流通と無縁な1点ものには「署名」が入る、それはアートピースなんだ、という認識を持ちました。これで、僕の中でアートとデザインという単語とその概念の整理がスッキリとできた気がしました。

いかがでしょう。ここまでデザインの語源である「署名がない」の話を元に、デザインなのかアートなのか、の認識を振り分けるヒントになりそうな話をお伝えして参りました。皆さんの整理の一助になっていたら嬉しいです。もしもこのnoteで気づきがあれば、何でも良いのでコメント欄に記入をお願いします〜!

今回はデザインの方にややフォーカスした話を書きましたが、後日、アートとデザインの分類を、より日常生活で楽しく意識するためのフレームワークみたいなものをシェアしてみたいと思っています。

お読みいただきありがとうございました。またお会いしましょう。

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