#36 立て!



ゴングが鳴り夢子さんと改めて対峙する
こういう形でリングの上で夢子さんと向かい合うなんて、、、

流石に早すぎるよおぅー

夢子さんはリングに立っているだけで圧倒的な覇のオーラを醸し出している

雨宮夢子を倒す!
なんて思ってはみたものの一体どうすればいいのだ?

そもそもプロレスの試合開始って?

リングを円を描くように回りそこからの手四つやロックアップからの力比べ?

真琉狐さんのようなキックもやってる選手ならローで様子見る?

レスリングで取り合いするパターンもあるよね?

握手からの腕を引っ張っての騙し討ち?

ゴングが鳴って数秒でこれだけのことが頭の中でグルグルと駆け巡る


いやでもコレしかない!
私の必殺技!!


「うわあぁぁぁー!!」
ロープに走る
そして反動をつけ踏み切、、、!!


、、、れなかった!!

ジャンプしようと踏み切る前につまづいてしまいそのまま前受け身の状態で転んでしまった

アレ?アレアレ?

すぐに立ち上がりもう一度ロープへ走る
そして、、、

バーン!

今度は背中でロープの反動を感じたと同時につまづきまた前受け身状態

アレレレ?アレ?
なんで?!
なんで?
なんで?!!

二度も得意のドロップキックを失敗
しかも仕掛ける前に!

焦りから乾いたばかりの身体から冷や汗が流れ背中に伝っていくのがわかった

理由は一つ
足が思ったように動かないのだ

テスト開始前から危惧していたが気合いだけではどうにもコントロール出来なかった

あまりの悔しさと不甲斐なさで自分の太腿を思いっきり殴った


夢子さんが私にゆっくり近づいてくる
そして私を見下ろす

「どうした?、、、終わるか?」
覇のオーラを纏った夢子さんはいつもと違い低く冷淡な声色で言った


終わる?
何を?
終わるわけないじゃん?
終わるわけ、、、

「終わるわけ!ないだろうがぁっ!!」

立ち上がり左手で夢子さんの首を後ろから押さえる

「うわあああぁぁぁーーっ!!」

胸元にエルボーをぶちかます!!

固い!
真琉狐さんとも違う胸板の固さ

まるで木に打ち込んでるかのようで自分の腕に痛みが走る

そして夢子さんはたったの一歩でも後退りをしていない

でも出さなきゃ!
一回でも多く手を出さなきゃ


何度も何度も
何度も何度も何度も何度もエルボーを撃ち続ける

でもいくら打とうが足腰に踏ん張りが効かない状態で夢子さんに痛みを感じさせることは出来ているのだろうか?

だが夢子さんの表情を見ている場合ではない

声は枯れてきて腕の痛みもいい加減限界を迎えそうだ
痛みだけではなく疲れも溜まってくる

誰の目から見ても明らかにスピードも威力も落ちてきた


「終わるのか?」
と言われた時、初めて夢子さんに怒りを覚えた

何でそんなこと言うの?
何でそんなこと言うんだよ?

悔しくて悔しくてたまらなかった

私はあきらめないよ
ずっと歯を食いしばって夢子さんについてきたんだよ

私がこんなところであきらめないことは夢子さんが一番知ってるでしょ?

私は仕方なくやってきたんじゃないんだ!
私は望んでここへここへきたんだ!!


でも、もう無理かも、、、

ぺちっ

肌と肌が少し触れ合ったくらいの音

きっともう頭に酸素が回ってないのかも

やばっ!

クラッときて意識が飛びそうだ


「たまああぁぁーーっ!!終わりかああぁぁっ?!」


夢子さんの私に喝を入れるかのような咆哮でバキッと飛びそうだった意識が戻る


勝ち目はないこの闘い

私には何があるんだ?

ある物と言えば握り拳くらいのものだ

そうだよ!私にはこれしかないけどこれがあるんだ!!


思いっきり自分の手を握りしめ力を腕に集中させる

「夢子おおぉぉぅぅーーう!!」

バッチィィーーン!!
とエルボーが夢子さんに炸裂した!!
、、、のかな?

今度こそ本当に意識が飛びそうになった瞬間に夢子さんにロープの方へ振り飛ばされた

そのままロープに背中をぶつけて前から倒れる
条件反射で前受け身を取るがまともなカタチで取れず顔面をマットに打ちつけた

なぁんか顔があったかいなぁ
口に生温かい液体が入ってきた

ん、ん?
鉄の味がするなぁ

あ、そうか
顔面打って鼻血出ちゃったかぁ

アハハハ

なぁんてのんびりしたこと考えていると


「立てーっ!立てよっ!たまえーーっ!!」


んん?
あ、そっか?
まだプロテストの最中か


「まだ終わってねぇーぞっ!!立てっ!!」


夢子さん、私もう無理です
もう、、、
立てないよ、、、


「たまぁぁああーっ!!立つんだぁああ!!お前はここへ仕方なくきたのかあぁぁーー?!違うだろうーーっ!!お前はぁぁーっ!望んでぇぇーっ!ここへここへきたんだろぉぉぅ!!立てぇぇーっ!!私の!私の技を受けろぉおぅーーっ!!」


「えっ?」
それって私が悩んだり挫けそうになった時にいつも自分を奮い立たせていた言葉

そして夢子さんの顔を見た

その顔は言葉にすることが不可能なほど全ての感情が入り混ざっていた表情だった


そうだ
そうだった
私は立たなきゃ

最初に約束したじゃん!
夢子さんの一発を受けるって


私は最後の力を振り絞り
這うようにロープを掴み立ち上がった

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