060 好きと大好きの向こう側
「けっこう苦手な食べ物ありますよね?」
あぁ、今日までカッコつけていたことがバレてしまった。
永らく食べ物の好みを聞かれた時には「好きと大好きしかない」と言ってきた。
実は、この言葉は上の句で、仲のいい相手、特に料理を作ってくれる相手ともなると、少し“いじり”も入れて下の句がついてくる。
「苦手なものは下手な料理」。
料理を作ってくれた人へのリスペクトのない、我ながらなんとも低俗な返答である。
しかしながら、あながちこの発言が嘘でないのもまた、高津の残念なところ。
例えば、ちょうどいい塩梅に歯ごたえを残して茹でられたブロッコリーは大好物だけど、茹ですぎたブロッコリーは好まない。あまつさへ、ブロッコリーの魅力を奪い取った料理人に腹も立つ。
他にも「天ぷらになったとうもろこしは大好物だけど、コーン缶から飛び出してステーキの横に盛られたコーンは好まない」し、「旬のフルーツのふんだんに使ったケーキは大好物だけど、フルーツより前にパサパサと飛び出してくるタルトは好まない」。
更には、自他共に認める大酒呑みの癖して、ビールを美味しく飲むことができない。
「好きと大好きしかないなんて嘘でしょう」という発言を認めざるを得ないほど、僕にとっての好まない料理はそれなりに存在するのだ。
それでも「好きと大好きしかない」と言ってしまうのは、どこかその響きの美しさと、そう言い切れる人への憧れから。
こんなわけで、昨日言われた「けっこう苦手な食べ物ありますよね?」は、僕の理想を演じるための仮面を、直球で射抜くような鋭い指摘だったのである。
さらに悔しいのは、その後、彼女に好き嫌いを聞いたら「私は本当に嫌いなものがありません」とさらっと言っわれたことだ。
くそー、なんか負けた気がする。
悔しさのあまり、その後、癖のあるタイ料理屋さんに連れて行った。
何かあるだろう嫌いなものが・・・そう思ったが、店主から「そんなに美味しそうな反応してくれるなんて嬉しい」なんて言われる始末。
くそー、次回はゲテモノだ。
こっちはイモムシだって美味いうまいと食べられるんだ。
あぁ、、、「これ苦手です」が早く聞きたい。
***
-もの-
都そば「スタミナそば」
関西には都そばという立ち食い蕎麦屋があって、大学生の頃に通い詰めたせいか、街で都そばを見つける度に、人気メニューの「スタミナそば」が食べたくなる。
「スタミナ」と聞けば、なんとなくお肉が乗っているか、はたまた、にんにくがふんだんに使われている料理を想像しそうなものだが、ここではそばの上に「生卵」と「えび天」が乗っているだけで、何がスタミナなのかはよくわからない。
そればかりか「えび天」に至っては衣99%、えび1%という、天かす固めただけちゃう?と言えるほどの代物。
いや、そこがいいのだ。
それでこそのソウルフード。
ちなみに、この料理を「ついついたべてしまう人」がもう一人いる。
俳優であり大学の大先輩でもある古田新太さん。
著書「柳に風」でこの話が出てきた時には、本当に興奮した。
さすが先輩!あんな嘘っぱちのスタミナそばに対して、同じ思いを持ってるだなんて。先輩はここに七味唐辛子をたらふくかけて流し込むそうだ。
この本を読んで以来、僕も真似して七味唐辛子をたらふくかけるようにしている。
大好きだぜスタミナそば。
ちなみに、この記事を昼に書いたから、晩ご飯は強制的にスタミナそば。
今夜のえび天は、えびの殻のようなものがいたようないなかったような。
腕を上げたねぇ都そば。
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