マッチングアプリを始めたら死にたくなった私
過去にマッチングアプリをしていた時期がある。恋人と別れた年の夏だった。
私が使っていたマッチングアプリは、位置情報から近くにいる人のプロフィールを優先的に出現させ、気になった人を「いいね」する。相手も私を「いいね」したらマッチングが成功。メッセージのやり取りができるようになる。
マッチングアプリで出会った話はよく聞く。というか、最近の出会いはマッチングアプリが主流になっているとさえ聞く。だから私は漠然とした期待を寄せ、毎日スマホに張り込んでいた。
1日上限無しでプロフィールを「いいね」できるプレミアム会員になり、毎月4000円支払っていた。お金を出してでも誰かと出会いたかった。出会いに飢えていた時期だった。
現れる女性のプロフィールはみんなとてもキラキラしていた。フォトジェニックな旅先での写真、ディズニーランドを楽しんでいる写真、お酒を楽しんでいる写真、友達と楽しそうに笑う写真…
さらに自己紹介文もキラキラしている。自分と一緒になったらどんなことを楽しめるのか、その未来を想像させてくれる。
「旅行が好きなので、一緒に色んな所に行きたいです」
「お酒飲みのが好きなので、一緒に美味しいお酒のお店を探しに行きたいです」
「美味しい食事の店を教えて欲しいです。一緒に食べに行きたい」
「ドライブが好きなので、のんびりドライブデートとかしてみたいです」
それを見ていたら、私には人にアピールできる写真も自己PRもない。この人と一緒にいたら楽しそう、と思ってもらえるものが自分には何ひとつないことに気づいた。
私は基本的に一人で行動することが多い。だから、誰かと共有できる趣味を持っていないのだ。自転車や読書を一緒にキャッキャとは楽しめない。
旅行もしない。旅行自体は嫌いではないが、旅行先までの交通費や宿泊代を気にしてしまう。移動は在来線や高速バスで済ませたいし、宿泊も1泊5000円のビジネスホテルでも高いと感じてしまう。それに旅行先で何をしていいか分からない。重要文化財の神社や寺や城を見ても心が動かない。
酒もたいして強くない。甘くない酒はビールくらいしか飲めないので、お酒好きの「美味しいお酒」の味は恐らく私には分からない。
食事へのこだわりもない。普段、一人で外食するときは、どこにでもあるチェーン店で済ませる。美味しいご飯の店を開拓する、というのが私には何となく敷居が高くてできない。
車の運転もその時はペーパードライバーだった為、できない。ドライブデートなど、私とは違う世界の人々の楽しみ方だと思っていた。都会に住んでいるので、移動は電車で全てが足りる。
旅行もしない、お酒も飲めない、食へのこだわりもない、車も運転できない…
私と一緒になったところで、得られるものは何もない。
私と一緒にいても何も楽しいことがない。
私はなんてつまらない人間なのだ。
こんなつまらない人間が「誰かと一緒になりたい」など、おこがましいにも程がある。
女性たちのキラキラした楽しそうなプロフィールを見ていたら、自分がいかにつまらない人間なのかと痛感させられた。
私はつまらない人間。
私は誰も楽しませることができない。
故に、私は誰かと出会う資格はない。
そう思ったら、女性たちを「いいね」している自分が傲慢な人間に思えて仕方なかった。
なにが「いいね」だ、偉そうに。
私は他人を「いいね」できるような、価値のある人間なのか?
そして案の定、マッチングも成功しなかった。たまにできても、怪しいお店の宣伝っぽい女性だったり、「ニホン ヲ アンナイ シテクダサイ」という外国の方だったり。
それでも1週間に1人くらい、ようやく普通の方とマッチングできることはあった。しかし、数回のメッセージのやり取りで返事が来ずに終わってしまった。せっかくのチャンスも、自分のつまらない人間性を露呈してしまった。
マッチングアプリをすることは、自傷行為に等しくなった。毎月4000円支払って行う、自傷行為。
これ以上続けていても、自分を苦しめるだけだ。
だから私はマッチングアプリを止めた。
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