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個人的短期ノベルゲーム制作方法

ノベルゲーム制作の仕方を解説します。

筆者は、短期でのゲーム制作を心がけています。大体数日~一週間くらいで、プレイ時間30分~1時間くらいのノベゲをつくります。常に一人ゲームジャムやってるみたいなかんじです。

短期でつくるメリットとしては、単純に楽です。あと、私生活や仕事への影響が少ないです。本職に影響ない範囲でゲーム制作との両立を模索した結果、このスタイルになりました。

今まで作ってきた作品数は10作ちょいほどで、リリースしたばかりの新作を除けば、すべての作品で1000DLオーバーを達成しています。これは、フリゲとしては結構いい数字です。あと、受賞経験や雑誌(商業誌)掲載経験があります。

数日でゲーム完成させて、1000DL突破して、受賞して、雑誌掲載されたら、だいぶよくありませんか?

筆者的には、だいぶよいです。

制作に絶対はないし、あくまで個人の制作手法ですが、その方法をシェアしたいと思います。


短期制作で心がけること

短期制作で心がけることは、以下のようなものです。

・なくても完成できる工程は、省く
・なるべく簡略化/効率化する
・なるべく自動化する

なので、たとえば進捗管理表、企画書などの書面類は極力省きます

筆者は、仕事としてPMをしていたので、こういう書類の重要性はよく理解しているつもりですが、こと短期の個人制作において、これらはなくていいかなと思います。個人制作では、情報共有する相手がおらず、自分が把握できていればいいからです。せいぜいメモ書きでよいと思います。

また、以下のことも重要です。

・いっきに作る

短期制作は、なるべくいっきに作ることをオススメします。作業の中断/再開にかかるコストは意外に高いです。平日毎日ちょっとずつ進めるよりは、土日を一日確保した方が効率がよく、土日を一日確保するよりは、連休を使っていっきにつくった方が基本的に効率がよいです。

とはいえ、本職があると、まとまって確保できる日数には限りがあると思います。だから、規模を小さくし、省略化・効率化して日数を削るのです。

制作の流れ

では、ここからは具体的なゲーム制作の流れを解説していきます。
普段そこまで厳密に考えていませんが、今回は言語化する都合、わかりやすく3工程に分けました。以下です。

  1. 企画

  2. 執筆

  3. 組み込み

では、順に解説していきます。

1. 企画

1-1. 規模を決める

筆者が企画段階で決めることは多くありません。ここで狸の皮算用するより、実際につくりながら考えていった方が早いからです。

それでも、必ず規模感は決めます。制作規模が決まれば、大体の制作日数が見えるからです。

具体的には、以下です。

・全体の尺(何万字か)
・登場人物数(=立ち絵数)
・世界観(ファンタジーか現代か?くらいの粒度。背景コストに関わる)

自分がとりあえず脳死で多用するレシピは↓こんなかんじです。

・全体の尺: 1~2万字
・登場人物数:
2人(主人公とヒロイン。立ち絵ヒロインのみ)
・世界観:
現代

これでプレイ時間30分~1時間くらいの作品になります。このくらいのボリュームの作品が、最近は最もプレイされやすいと思います。実況しやすく、移動時間や寝る前の一時間でささっと遊べます。そういう意味でもちょうどいい規模感です。

このレシピだと、大体4日前後くらいで完成します。

1-2. 導入を考える

規模感が決まったら、いきなり導入を考えます。

作品のテーマやプロットはそこまで意識しません。まず導入ありきです。

もちろん、既に思いついているアイディアがあるなら、それらはメモするべきですが、あんまりそれらに時間はかけません。短期制作はとにかく時間がないですし、テーマやプロットをかっちり決めても、導入でつまずくと先に進まないからです。でも、逆は意外とうまくいきます。

導入を考える時は、たとえば次のようなことを気にします。

・映像として印象的か
・ツカミとして印象的か
・短いか
・書きたいか
・自分の過去作とかぶってないか

つまり、「短く」「印象的で」「読み手を離さず」「ほどほどに新鮮」ということです。

この「ほどほどに新鮮」というのが結構大事で、別に百年に一度の新規性なんて考えなくていいわけです。むやみにハードルを上げても、詰むリスクが上がるだけです。手垢まみれで、全然よいです。ただ、お客さんの目を一時縫い留めることができて、自分の中で差別化できていればいい。その塩梅が「ほどほどに新鮮」ということです。

うまい導入ができれば、作品は八割方成功を約束されたようなものです。なので、がんばって考えます。

◆導入の長さ

導入は、基本的に短ければ短いほどいいと思います。導入はRPGなどでいうチュートリアルにあたり、ここが長いとプレイヤーの離脱に繋がります。また、なるべく導入か、本編序盤に一枚絵の入れどころがあると望ましいです。これも離脱を防げますし、開幕早々に一枚絵があると、それだけで作品全体がゴージャスに見えます。

2. 執筆

2-1. 執筆する

導入を考えたら、後は書くだけです。

自分の場合、導入を考えている段階で、既に書き出していることが多いです。よい導入か否か判断するには、書いてみた方が早いからです。なので、執筆段階では、大体導入部分の執筆は済んでいることが多いです。

執筆は、次のようなプロセスで書くと完成します。

  1. 導入を書く

  2. その続きを書く

  3. 序盤で、適宜、謎や伏線をちりばめる

  4. シナリオ尺の半分くらいまできたら、話を畳み始める

  5. 後半で流れに一捻り入れて展開をつくる

  6. おしまいまで書いたら完成

要は、「はじめから書き始め、おしまいまで書いたら終わり」ということです。

これだけ見ると、「ね、簡単でしょ?」案件のように見えるかもしれませんが、本当にこれだけです。手を動かしてとにかく書き続けていれば、シナリオはいずれ書きあがるものです。

テーマやプロットがふんわり状態で、そんなにうまくいくのか?と思うかもしれませんが、割とうまくいきます。既に導入があるからです。導入があれば自然と次のシーンが決まりますし、そうして書いているうちにテーマやプロットも決まってくるものです。

コツは、尺感で書くことです。

尺感とは「今何文字だから、まずは話を広げて、今何文字まできたから、そろそろ折り返して~」みたいに、尺を意識して展開していく感覚です。言い方を変えると、これは執筆しながらリアルタイムでプロッティングしているといえるかもしれません。それを工程として分けるか、執筆の中でやるかの違いです。(そして、短期制作には後者が合います)

この辺は、詳しく解説すると、制作方法というより執筆論みたいになっちゃうので、本稿では省こうと思います。逆に、ここで頓挫されるかたは、ゲーム制作につまずいているというより、執筆につまずいているんだと思います。機会があれば、別noteで書くかもしれません。

◆メモするということ

上記導入や執筆作業中に思いついたことは、どんどんメモしていきます。

コツは、テキストファイルを分けないことです。

自分のシナリオは、常に一個のテキストファイルで完結します。単一のテキストファイルで、冒頭には導入のメモ、その次がシナリオ本編、末尾にアイディアメモを書きます。シナリオのファイルが、企画書と資料とアイディアメモを兼ねるイメージです。

こうすると、ファイルの行き来がいらないので、執筆が止まりません。

◆執筆のコツ色々

以下は、執筆で止まらないためのコツいろいろです。

・シーン終わりまでに、次シーンのイメージを決めておく
・きりのいいところで筆をとめない。数文字でもいいから、次シーンに手を付ける
・文章に詰まったら、箇条書きで済ませて先を書き続ける
・なるべく読み返さない。推敲は後でする
・尺を意識する。序盤は泳がせて、後半は畳む
・思いついたアイディアは、どんどんファイル末尾にメモしていく


とにかく「止まらない」「書き続ける」ことが大事です。

特に「きりのいいところで筆をとめない。数文字でもいいから、次シーンに手を付ける」というのは、重要です。中断/再開のコストを削減するのにとても役立ちます。0を1にするのと、1を2にするのでは、後者の方がはるかに簡単です。なので、休憩する時は、常にちょっとだけ次のタスクに手を付けておきましょう。

2-2. 推敲する

シナリオができたら、いったん推敲します。
誤字を直したり、お話の流れの不備等を修正します。

基本的に、推敲というのは引く作業であり、足す作業ではないというのが自分の考えです。なので、冗長な部分をなるべく削っていきます。全体の10%くらい削れるといいかんじだと思います。

一方で、ゲームならではの、あえて冗長にする部分もあります。たとえば、情報の再説明です。1ページの文字数が限られ、基本読み流すものであるノベルゲームは、プレイヤーの記憶が保持されづらい媒体です。大事な情報は、何度も繰り返し記載する必要があります。こういう必要な冗長性と不要な冗長性をうまく捌いていくことが大事です。

これで執筆工程は終わりです。
企画からここまで大体一日~一日半くらいでできるといいかんじです。

3. 組み込み

シナリオが完成したら、いよいよスクリプトを打ったり、素材を組み込んだりしていきます。

3-1. スクリプト化ツールにかける

推敲が終わったら、自分の場合、まずシナリオをスクリプト化マクロにかけます。

これは自作のマクロで、クリック待ちやページ送りなど、単純作業系で付けていくスクリプトを自動化したものです。かけると、それらが一通りついた状態のシナリオが完成します。楽ちん。

マクロはそんなに作るのも難しくないですし、一家に一台つくるのをオススメします。自動化できるところは、自動化するのが吉です。

参考までに、下記は、自分が使っている自作マクロです。
テキストエディタのMeryで動作し、ティラノスクリプトはじめKAG系のタグを採用している制作ツールなら、大体動作すると思います。
(中を見れば、そんな大した内容でないことがわかると思います)

3-2. 細かいスクリプトを入れて、素材をつくって、推敲する

自動で入れられるスクリプトを入れ終わったら、次は自動化できない部分のスクリプトを入れていきます。

自分の場合は、立ち絵やBGMなどの指定もここで入れます。
執筆の段階で指定を入れると、単純に執筆の負担が大きくなるし、プレビューできない状態で入れた指定は、実際の画面と乖離しがちです。なので、指定(スクリプト作業)と執筆は工程を分離しています。

逆に、素材作成は、指定(スクリプト作業)と並行して進めます。

笑顔の差分が必要になったら、その場で笑顔の差分をつくって、新しいBGMが必要なら、その場で新しいBGMを探して…みたいなかんじです。
色々試してみたのですが、結局都度プレビューしながら作っていった方が、モチベも切れないし、完成像とのズレが少なくて済むので、この方法をとっています。

推敲もここでもう一度します。

実際にプレビューしてみないとテンポ感はわからないし、実画面だからこそ気付けることもあります。必然的に、もう一度文章調整が入ります。

素材作成、指定(スクリプト作業)、推敲は、すべて同時並行で進めます。

3-2-1. イラスト作成は一枚1時間くらいで

素材においては、BGMやSEをフリー素材サイトで探し、立ち絵や一枚絵は自作するというかたが多いのではないでしょうか。なので、イラスト作成について個別で解説します。

自分の場合、イラスト素材は30分~1時間で一枚描くようにしています。これは立ち絵も一枚絵も共通です。

最初の一枚目の立ち絵だけは、キャラデザも兼ねるので、もうちょっとかかるかもしれません。が、どんなに時間をかけても2時間はかけません。何故なら、時間をかけると制作日数に響くからです。早く描くというよりは、時間内で描けるものを描くかんじです。

別に絵がうまい必要もありません。求められるのは、クオリティではなく、時間内に成果物を出せるか否かです。時間が足りないなら白黒で仕上げてもいいですし、絵が苦手なら、「かまいたちの夜」風にシルエットだけにしてもいいわけです。本当に本当に描けなければ、素材サイト等を探せばよいと思います。とにかく時間内にモノを用意することが大事です。

◆一枚絵の入れどころ

導入に一枚絵がほしい話とちょっとかぶるかもしれませんが。
一枚絵はプレイ時間換算で10分に一度くらいを目安に入れるとよいです。これには結構しっかりした根拠があります。黙読10分は音読の20分にあたり、ちょうど実況動画一本分の尺くらいです。つまり、黙読10分に一枚は絵があると、それをサムネに使いやすい≒映えるということです。

仮にシルエット絵であっても、一枚絵を入れる効果はあります。それは普段の立ち絵表示に比べて「変化」が生まれるということです。ノベルゲームは、画面の変化があってナンボです。そして、一枚絵は最も効果の高い「変化」です。クオリティに限らず、可能な限りたくさん入れましょう。

◆イラスト時短のコツ

イラストを時短するコツは色々あります。自分がよく使うのは以下です。

・描きやすい構図にする(上半身だけ、手を描かない、etc)
・トーンやテクスチャを使って、塗りの密度を補う
・色調調整にグラデーションマップを使う

ツールはClipStudioを想定していますが、別にそれに限らず大体どのおえかきソフトも似たような機能に対応していると思います。これもあまり語ると本筋から逸れるので割愛しますが、時短はできて損はないので、色々開拓してみるのも楽しいと思います。

3-3. 残りをつくる

本編ができたら、残りを作ります。
タイトル画面とか、あとがきとか、ギャラリーとか。

これを後に回すのは、それらがなくてもとりあえずゲームは遊べるからです。なので、最後につくります。

大体ここまでの組み込みで1~2日ほど使い、この時点で半日~1日くらい残りの日程が余っているといいかんじだと思います。その残りの時間でできる限り実装していきます。

個人的に、自分の中で一番優先度が低いのはUIです。個人制作におけるUIは、特にノベルゲームの場合、必要十分であればよいと思っていて、ゲーム制作エンジンの標準UIで充分な気がしています(ただ、これは諸説あると思うので、あくまで自分の中での優先度です)。

どちらかというと、自分が気にするのはUXの方です。たとえば、標準UIにセーブボタンがないなら、それは追加するべきです。そのセーブボタンのデザインが多少不格好でもゲーム体験に支障はないですが、セーブボタン自体がないと、明らかにゲーム体験に支障が出るからです。

3-4. 可能なかぎり、ブラッシュアップする

これで一通り完成です。

後はテストプレイをしながら、気になるところを直して、時間が残すかぎり細かい完成度を上げていきます。

ここでのブラッシュアップは、シナリオ単体というより、全体のゲーム体験をより深める意識でやるとよいです。(「こうすると作品のゲーム性が上がるんじゃないか」「こうするとゲーム体験により奥行きが出るのではないか」みたいな)

結構最後の最後に入れた要素で、ゲーム体験が大きく底上げされたりするので、自分にとっては侮れないフェーズです。

前項で、自分の中でUIの優先度が低いという話をしましたが、ここで余裕があれば、UIにこだわってもいいと思います。UI単体がどうというよりは、どちらかというとゲーム全体のジューシー化といった方が近いかもしれません。その要素のひとつとして、UIがあるイメージです。

(「ジューシー」は海外のゲ制でよく使われる言葉です。ニュアンスはこちらの記事などが参考になるかと思います https://aba.hatenablog.com/entry/2022/06/18/185617)

3-5. 完成したらリリースする

完成したら、各ストアやサイトなどにゲームをリリースします。
リリースが開始されたら、告知します。
これが済めば、ひとまずゲーム制作としての作業は、おしまいです。

万一時間が足らず、前述の「残りをつくる」「可能なかぎり、ブラッシュアップする」が途中で終わってしまった場合、手が回ってない部分は今後のアプデに回し、この時点でリリースしてもいいと思います。スケジュールどおりに作品をリリースさせる意識はとても大切です。

もちろん、制作日数を伸ばして、引き続き作り続ける選択をとってもいいです。それは制作者の判断によります。大事なのは、いずれにしてもゴールとして必ずリリースを想定することです。作り始めたものは、完成させてナンボなので。完成させましょう。

番外. ゲームのリリースが終わったら

番外-1. 別のことをする

ここからは余談です。

ゲーム制作としては、ここでおしまいなのですが、個人的にはゲームはリリースした後の方が精神的にかき乱されることが多い気がしています。

プレイヤーの感想はどうか、実況されてないか、感想が来たら来たで、一喜一憂しているうちに一日が過ぎたり。良きにつけ悪しきにつけ、精神と時間をごそっと持っていかれます。特に最初のうちは。

なので、ゲームのリリースが終わったら、すみやかに何か別のことを始めた方がいいと思います。積みゲーや積み本を消化したりするとよいです。積みゲーの方がいいですかね。頭からっぽにできるので。

一喜一憂しながら過ごす一ヶ月も、しない一ヶ月も、同じ一ヶ月です。なら、その一ヶ月は有意義に過ごした方がよいです。作品とほどよい距離感を保つために、こういうテクニックも持っていて損はないと思います。

番外-2. 宣伝する?

個人的に、twitterでの宣伝は、そんなにがんばらなくていいと思っています。

宣伝の場としてのtwitterの効力はどんどん落ちてきているし、同じフォロワーさんに向けて何回も宣伝を乱発するよりは、タグ企画(スーパーゲ制デーとか)などにうまく参加してピンポイントに横串の宣伝を心がけた方がよいです。(「宣伝しない」ではなく「過剰にがんばらない」という点がポイント)

むしろ、ここに多大な労力かけるくらいなら、新作もう一本つくって、点より面の宣伝効果を狙ってもいいと思います。プロモに力を入れすぎて次の制作が滞るより、その方が創作創作してて、自分は好きです。供給し続けることは正義ですし。供給しましょう。

それでは、よいゲ制ライフを。


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