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運動で脳は若返り、スマホとSNSは本能に基づいた「注意を配る」能力を刺激することにより、休息や集中を阻害してうつ病の遠因になる スマホ脳 アンデシュ・ハンセン

僕はコンピュータが大好きだし、自分に理解できないものをいきなり批判する老害は大嫌いだ。香川のゲーム禁止令とか日本のハジだと思っている。
なのでこの本も文句つける気まんまんで読み始めたのだが、かなりいい本だった。

スマホ影響の本家である脳科学者

スマホが時間泥棒であることはよく知られている。脳からスマホの悪影響を語る類書は多い(おそらくクズ本も多そう)が、家元・本家とされるのはこのアンデシュ・ハンセンだ。本業は脳科学者で、「脳も臓器の一つ」という考え方から、生物としては狩猟採集生活に最適して進化してきた人間が、ここ100年ほどだけ高度化し、ここ20年で情報化され、さらにここ10年でスマホを持ち運ぶことでずっとインターネットに接続されることになったことによる変化を語る。

人間は刺激に反応することを、長期的な目標より優先する本能がある

本書の背骨になる理論と根拠はシンプルだ。
「人間が、中長期的に大事な睡眠や気合い入れたタスクとかよりも、"今はこのゲームがやめられない"みたいな短期的なものを優先してしまうのは生存のための本能で、スマホとSNSはすごく上手にそれを刺激する」
危ない環境で寝ちゃうと死んじゃうから、刺激に反応する、まわりに注意を払う本能は寝る本能より強い。スマホとSNSをチェックすることは睡眠や長期的な仕事よりも脳に快感を与える。きっちり集中して仕事するためには脳のエンジンがかかるまでの時間がかかるが、スマホは頻繁にそこに割り込んでくる。ハッキリとやりたいことがない時間ならなおさらだ。
目の前の友達に注意を払う、ご飯を食べるみたいなことよりも、しばしばスマホは本能的に優先される。

現代人に差し迫った脅威はない。ふわっとした時間をスマホが食べ尽くす。

もちろん、スマホやPCは目的達成に使うこともできる。きっちりと集中して仕事をしているとき、そのツールが紙かスマホかの影響は少ない。いっぽうで、そうはいっても割り込みがあると集中はかんたんに損なわれる。紙よりもスマホやPCは頻繁な割り込みをもたらす。
結果として、スマホを手元におかず、隣の部屋に置くことでいくつかのパフォーマンスは上がる。本書はいくつもそうした実験データを例に上げている。

結果、常に緊張すること、睡眠時間が減ることは、能力の低下やうつ病にもつながる。文明化により睡眠時間は減る傾向にあるが、スマホ登場後の影響はさらに一段と顕著だ。

教育のデジタル活用で考えるべきこと

教育に関しての章が最も面白かった。もともとこの本は、STEMに関する論文の輪読会を主催してくれた鵜飼さんのオススメで読み始めたのだ。

すごい勉強したい学生にコンピュータを与えると、サーチやシェアにすごい勢いで活用してますます賢くなっていくのだけど、それは全体の数%ぐらいで、そうじゃない学生はむしろ気が散って学習効果が下がる。
子供たちへの教育は、気が散る要素をなるたけ排除した、軍隊キャンプみたいなのに叩き込んで勉強させるほうがいいのかもしれない、みたいな想像にもつながる。実際、パーソナルトレーナーとダイエットはかなり相性いい。
低年齢にコンピュータ与えるときも、何かしら気が散らないように配慮した環境を作るのだいじそうだ。

好奇心を長期的な目的のためにつかえるようになるまでには、人間はある一定の成熟がいる 自分の意志でダイエットがはじめられるぐらい。

本全体が誠実でわかりやすいのが良い

そういう先入観に逆らう事実を文章で伝えるのはすごく難しいのに、この本はわかりやすく書くことでしっかりとそれに答えている。また、この手のライフハック的な本は著者の「ドヤ感」「いいこと言った感」が鼻につく事が多く、僕はそういうのが大嫌いなのだが、この本の書きぶりは誠実に思えた。

著者のアンデシュ・ハンセンは脳科学者で、このTEDトークで語るのは、スマホの害というよりも「運動で脳は回復する。現在の仕事に必要な集中力などは、週3回45分ずつの運動を繰り返すことで顕著に上がる」といったことだ。

運動の大事さには異論ない

いろいろなデータを集める中で、ブルーライトの話(どうやら科学的根拠ないらしい)が堂々と書いてあるとか、「都合良いものを無理やり集めてる」感がちょっとあるけど、この人の本業である脳科学関係のところはもっと誠実っぽいし、勉強のところの「デキるごく一部を除いてスマホは気を散らせる」みたいな話はすごく説得力あって面白い。

本書の後半の定期的な運動と脳との関係も、著者がずっとバックボーンにしている考えと直結していて好感が持てる。

何しろ僕自身がこの本をiPadのKindleで読み始めたのだけど、フィジカルな書籍なら一気に読み終わるぐらいのボリュームのところ、Twitterのタイムラインなどを度々チェックしてしまったのだ。この本を読みながらでも。
そういう僕でも、飛行機内では確かに読書が捗る。
(本書では紙と電子書籍端末でも紙のほうがいい、というデータがあるが、それは機序の説明があやしい。最も説得力のある説明はSNS等で気が散ることであり、飛行機だとフライトモードにしてインターネットにもつなげないので、iPadでも集中できるのだと思う)

今夜から寝床に持ち込むのはe-paperの端末にして、スマホやiPadを持ち込むのはやめようとおもう。


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