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2021/12/25 にもかかわらず先斗町
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新青森駅に降り立ち、すぐさま奥羽本線に乗り換えて青森へ。ホテルは青森駅から歩いて15分のところにある。青森の積雪は仙台とは比較にならない。いや、ほんとに、まったく比較にならない。
ホテルで軽く一服してから、風と雪の外へ出ていく。前回来たときは津軽線に乗って蟹田まで行った。今回は前回乗れなかった青い森鉄道に乗りたい。乗ってやるのだ。しかし、野辺地(※大湊線と接続)や浅虫温泉に行くようなお金は無いので、今回はとりあえず乗るだけ、適当に近場の駅で降車します。
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風もそこそこ強いので寒気が身体の芯に突き刺さる。5枚重ねで服を着ていても、難なく通過してくる寒さ。青森駅までが遠い。
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矢田前までの切符を買って八戸行きワンマンカーに飛び乗る。意外にひとが乗っている。
走り出せば、車窓は全面雪景色。雪のなかを走っている。青森県立青森高校の最寄駅である筒井を通過するときに、風景が雪に浸された高校生活をほんの少し想像させられてしまった。大学受験時にお世話になった恩師の母校が青森高校だったことをふわりと思い出す。
筒井、東青森、小柳、あっという間に矢田前。無人駅なので運賃は車内収受。先頭車両まで歩き、運転手に切符を渡してから降車する。ワンマンカーはもちろん先頭車両の一番前のドアしか開かない。
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降りてすぐ、小さな笑いが込み上げる。吹雪で視界が遮られ、周りに何があるかまったくわからない(たぶん何もないんだろうけど)。ホテルで予めマップを見て、駅のすぐ近くに良い感じのカフェを発見していたのでそこを目指して歩き始める。
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世界がほぼ白い。
寒さにぶるぶる震えながら歩くが、なかなかたどり着かない。手袋を外して、悴む手でグーグルマップを開くと完全に逆へ向かっていた。くるりと方向転換。
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先に注文、支払いをしてから席に着く様式。ホットティーを頼む。しばらく待つと紅茶とクッキーが運ばれてくる。クッキーは「店主からのクリプレ」らしい。有り難い。
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調べると海の方に公園があるらしい。ここから海までは1.5kmほど。さっきの雪の感じだと楽な道のりではないだろうが、面白そうなので行ってみる。ただ公園に行くだけではつまらないので、その公園で海を臨みながら朗読でもしてやろうと思う。
雪は若干弱まっている。誰も歩いた形跡のない狭い路地を行く。小さな家が何軒も連なっている。
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玄関灯の橙を見て、ほんの少し暖かくなる。僕は知らない街を歩くとき、ほとんど必ず生活の灯りを求めながら歩いている。
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どこにでもあるような家並みにはやはりなんでもない生活があって、イルミネーション的な存在誇張などする余裕はなく、ただ、玄関灯や氷柱のような素朴さで通りすがりの僕のような人間に曝されている。
橋がある。脇を通って一本向こうの通りへと出たいのだが、とんでもない量の積雪に阻まれて進めない。仕方がないので迂回して公園を目指す。雪に濡れた足元が冷たい。
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20分ほど歩いて目的地の公園に到着。しかし、この雪のなか公園に来る人間などいるはずも無かったようで、60センチほど積もった雪原には足跡ひとつない。どこかに階段があるはずだが、雪に埋もれていてまったく分からない。足を踏み出せば雪に膝まで吸い込まれる。どうにかこうにか階段を探し出して、えっほえっほと進み、ちいさな東屋までたどり着く。我ながら馬鹿じゃないのか、と思う。吹雪による視界不良で海は見えない。
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やるべきことはやったので、公園を出る。無我夢中だったのであまり覚えていない。途中、ローソンに寄って靴のなかに入り込んだ雪を掻き出す。
市蔵さんのリミックス、改めて聴くと全然印象が違くてびっくりした。ヴォーカルの声を縦横無尽にサンプリングしてつくられたトラックが、重厚感をもって曲の展開を支える。爆音で聴きたい。
次の電車の時間はもう調べてあるし、切符は喫茶店を出たあとに駅の自動券売機で買ってある。
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なにもない日々に罅が入ってそこから「もしも」が漏れ出していく、と椎名もたは書いて、歌った。なにもない日々はものすごく微妙なバランスで維持されていて、その内にたくさんの叶うかもしれない「もしも」を湛えている。「なにもない」「たいしたことない」と可能性を見限っている僕たちはそれに気付くことが無い。そこに罅が入って、「もしも」が手からすり抜けて行ったときにはじめてそのことを思い知る。震災もコロナも、失恋も死別も、このプロセスを同じように辿る。
青森駅からホテルまで、アストロノーツを爆音で聴きながら歩いて、ちいさな旅が終わった。こういう無駄なことをずっとしていたい。
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