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夜に駆ける(20)/YOASOBI タナトスに支配された知ってはいけない裏話。タナトスとエロスは表裏一体

2020年の年末。衝撃が走った。ネットを中心に話題大ヒットをしていたYOASOBIがNHK紅白歌合戦に出演するというのだ。

このニュースに日本中の音楽ファンが歓喜したに違いない。男女ふたりからなるこのユニットが放った大ヒット曲「夜に駆ける」は、ボカロゆえの神歌だと思われていたし、THE FIRST TAKEがでるまでは実際に生身の人間が歌っているものだとはなかなか考えつかなかった。

「口から音源」

こう形容されるボーカルikuraの歌には、天才的なリズム感やピッチの正確さ、メロディを掴む声の使い分けなど多彩なテクニックが織り込まれている。だから聞き飽きない。サウンドプロデューサーのayaseが作り出す有機質なエレクトロが作り出す波形との有効的な合致によって、とてつもない存在感の1曲となっているといえる。

そしてこの歌に引きつけられる要素がもうひとつ。歌詞の内容である。

これは「タナトスの誘惑」という短い小説がもとになって作られた歌で、実は「自殺するふたりのかけあい」の歌なのだ。気になる方は調べて読んでみて欲しい。2分程度で読めるネット小説だから。

歌の中では「自殺」や「死」などの具体的なワードが出てきていないために理解をこのテーマに持っていくのはなかなか困難だが、一見恋愛のすったもんだの内容かと思いきや、である。裏切りのサプライズであり、わたしはますますこの歌に惹かれていったクチである。

ビルの屋上から飛び降りる様子を「夜に駆ける」と形容した素晴らしい発想はイマジネーション媒体ならではだが、これは的確に「自殺」や「飛び降り」という言葉を選ばずとも強烈な印象を残す。なぜなら駆けるという言葉にはスピード感(生きている)、活発(生きている)、運動性(生きている)といったタナトスとは真逆のイメージがつきまとう。それを自殺する男女の内容に当てた言葉だとは誰が予想できようか。描写が溌剌で、エロスに溢れているのだから。

この事実を知ってた方が歌の世界にはどっぷりハマれるが、知らなければ知らないままで良かったとも思う。キュートなエレクトロソングが、一気にダークで悲壮に暮れる気分に陥るのである。アナタはどちらが良かった?



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