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これからの映画/映像作品の見方とNetflix

配信サービスがこれからどうなるのか考えつつ、本記事ではその準備みたいなことも書きながら、ちょっと前から今日2021/07/17までのNetflixオリジナルのおすすめをしていきます。

今回の(裏)テーマは〈ひとつの見方としてのNetflix〉〈文脈依存性〉〈間テクスト性〉です!

おすすめはBBQから

1つめのこちらはバーベキューBBQのリアリティーショーです。
出場者はアメリカ各地でのBBQ大会での勝者だったりはするみたいですが、もちろんぼくは全然知らない人たちですし、でもそれが良いのです。

全8回で出場者は8名。毎回、〈野生動物BBQ〉や〈伝統的なBBQ〉のようなBBQテーマが与えられて審査で最下位の1名が脱落していきます(脱落者0名の回あり)。アメリカのTV番組だったのか、毎回43分ほどです。

調理時間はテーマによって4時間だったり6時間だったり。出場者や審査員がこの完成までの時間帯に語るトークが非常に面白いのでおすすめなのです。誰がうまく作るとか誰が脱落するかもいちおう関心事ではありつつ、中心はこのトーク。

トークの面白ポイントは2つあり、ひとつは〈アメリカにおけるBBQの歴史や最新情報〉です。ここが超楽しいのはぼくがBBQやアメリカの食生活に全然くわしくないからかもしれません。

なお、アメリカには半月ほどいまして、もっぱら物理学関連の旅だったのですが、そのときのことは以下、Webミステリーズ連載の『想像力のパルタージュ』第6回+第7回に書いていますでぜひ。AI研究者の三宅陽一郎さんインタビュー回なのでまずはその意味で楽しめます。

知らない人たちによる知らない行為や知らない話題について

BBQも現代アメリカもふんわりと知っているだけで、まずはその〈知らなさ〉、自分が無知であるという事実がなんだか楽しく、自分が何を見ているのか謎だと思いつつというメタ的な面白さも感じるのはぼくだけでしょうか。

おそらくきっとぼくだけではなく、知らないこと、あたかも架空現実のような距離感は、それ自体が結構くすぐったいようなおかしみをぼくたちに与えてくれるように思います。あんまり行ってない同窓会で、ほとんど覚えてない旧友が、全然わからない横文字の仕事をしていたりする、みたいな感覚でしょうか(このたとえが適切なのかはさておき)。

『ズンボのジャスト・デザート』

同じカテゴリーで追加です。ひとつは邦題『ズンボのジャスト・デザート』。ズンボというのはアメリカでは有名らしい(アメリカ在住の方にはきっと有名なのでしょう)スター的パティシエとのこと。こちらも出場者は、公募なのか、お菓子作りが趣味の人から将来はスイーツショップを開業したい人までというリアリティーショー。子供たちが家で応援している、仕事でレンガを積んでいるのが役立つだろう、などなど、全然知らない人の超個人的なエピソードトークが次々と語られます。

こちらBBQとほとんど同じ構造で、架空現実的楽しさがあります。比較してわかってくるのは、これは参加者とテーマを変えれば無限に作ることができるという、絶対的な真理です。極言すれば(ぼくは/誰もが?)何かが動いていれば、別に特殊な文脈などなくても、楽しいということかもしれません。

なお(理由はググってもいませんが)本シリーズ、なぜかシーズン2しか見られません。そもそもズンボが誰なのかなどなど、なるべく知らないほうが楽しめそうな気がしますからこのままが最高なのかもしれません。

『コブラ会』

文脈ナシばかりだとあれなので、文脈全開のNetflixオリジナル『コブラ会』をおすすめです。

こちら1984年公開の映画『ベスト・キッド(KARATE KID)』シリーズの正統続編。ベスト・キッド1〜3はノリユキ・パット・モリタ演じる〈ミヤギさん〉が、ラルフ・マッチオ演じる〈ダニエルさん〉に空手を教えます。ベスト・キッド4ではヒラリー・スワンクが教え子役に。

この『コブラ会』が偉いのは、30年以上たった現代を舞台に、当時の映画に出演していた俳優たちがそのまま(年をとった)同じ役を演じているところです。パット・モリタ/ミヤギさんは残念ながら亡くなっていて、それを今のラルフ・マッチオ/ダニエルさんが悼むという構造で、当時のファンは泣かざるをえません。

本作は(BBQやズンボと違って)文脈全開、『ベスト・キッド』シリーズを見ていないと面白さは半減するようにも思われます。

でも本当に半減するんでしょうか。エヴァシリーズはTVシリーズ→旧劇場版→新劇場版という構造ですが、新劇場版ラストの『シン・エヴァンゲリオン』だけを見ても楽しい可能性は大いにあるのではないでしょうか──さすがに、全部見ずとも、新劇場版の始まり『:序』から見たほうが良いようには思いますけれど。

配信の未来は

というわけでそろそろ冒頭を回収していくターンですが、そういえば現在2021/07/18、NetflixではエヴァのTVシリーズと旧劇場版2作を見ることができます。

これはもちろん公開がそろそろ終わりの『シン・エヴァ』に合わせての配信でしょう。映画館と配信サービスはこのような仕方で現状では共存共栄しているようにも見えるわけですが、映像の未来については絶対超長くなるのでまた別記事で。

ただいま鋭意執筆中の長編〈SF考証SF〉=新人SF考証ふたりが主人公のSF、《いであとぴこまむ》シリーズでは、近未来と遠宇宙が舞台なので、このような配信環境についても現実問題として出てきます。第一作「配信世界のイデアたち」は、『Genesis 白昼夢通信』所収、絶賛販売中ですー

映画の本質あるいはヒラリー・スワンク

ヒラリー・スワンクと言えばまずは1999年公開の映画『ボーイズ・ドント・クライ』であり、あるいは2004年の映画『ミリオンダラー・ベイビー』です(どちらも超傑作なので今日のところはおすすめだけでいずれ詳しくということに)。

映画は現実の人間が作っているものであり、キャストもスタッフも、多くの場合、他の作品にも関係していますし、本人としての生活があり、あるいは(役を演じた/今は演じていない)俳優としてのコメントもします。このあたりの事情は、演じる/パフォーマンス系の芸術──演劇や音楽にも共通することです。

間テクスト性について

『コブラ会』はそういうことをもう見る側もわかっている、ということがわかっていて、コンテクスト性あるいは〈間テクスト性〉を全力で活用しようとしている作品と言ってよいものです。

〈間テクスト性〉とは、テクスト=ある作品と別の作品のあいだ/間のおよそありとあらゆる関係性のことであり、多くの場合、読み手の視点から、たとえば現代小説を読んでから古典を読むときに生じる現象について説明するためにしばしば用いられる概念です。実際のところ、任意の2作あるいはもっと多くの作品のあいだには、それぞれ固有の間テクスト性が立ち現れるはずで、固有の読みについて考えると楽しいこともあるでしょう。

ちなみに最近ぼくがよく書いている〈アダプテーション〉は英単語としては「翻案」という意味で、原作映画があってそのゲーム化/小説化について見ていこうとするものなので、広義には間テクスト性と言っても良いものです。アダプテーションのほうがより限定的な気もして、その分、生産的な気もしています。そろそろまとめに行きましょう。

映像の見方としてのNetflix

今ささっとググったかぎりでは、どうもNetflixの視聴可能な作品数は非公開みたいですが、かなり多くの作品が見られることは明らかで、ある作品を見ると、何らかのアルゴリズムによって、色々な作品をおすすめしてくれます。シリーズものの映画であれば、もちろん続編を教えてくれるわけです。同じ監督の作品もおすすめに出てくるような気もします。

Netflixの構造は、その構成からして、間テクスト的と言ってよいでしょう。作品を──列挙のルールがあるのかないのか──ともかくもNetflixの枠のなかで結びつけて、作品検索機能はありますが、ひとまずは作品の見方を提示するのですから。

今回のオチ──ベストな見方

上でエヴァを引き合いに出したのは、今回のテーマ〈文脈〉あるいは〈間テクスト性〉にかかわるからであり、もっと言えば、エヴァを庵野監督という謎の文脈から読み解こうとする向きが最近になっても散見されたからに他なりません。

エヴァならずとも通常、映画というものは規模の大小はあれど、かなりたくさんの人が参加することで成立する芸術であり、監督ひとりに注目して見えるものは一部に過ぎません(作者から作品を読み解くことの限界性は言うまでもなく)。

作者と作品のつながりは、受け手にとって楽しみであることは間違いないことですが、それは2000兆個ある作品の楽しみ方の、ほんのひとつであることは時々(当然のこととして俳優や監督で映画を見ているぼく自身こそ)思い出したいところです。ベストな見方というのは、なので、あるかもしれませんが、まだ人類は発見できていない/とりあえず文脈はうまく制御したい、といったところかと思います。

そういえばベスト・キッドは邦題で、原題はKARATE KIDです。ミヤギさんが1か2で確か(うろ覚えで恐縮ですが)KARATE is empty hand.と言うのでした。小学生のぼくはなるほどーと超感心したことを覚えています。

邦題が作られることも映画の拡張であり、邦題にまつわるエピソードなんて文脈そのものと言ってよいものです。文脈そのものが映画なのだ、あるいは間テクスト性そのものが映画なのだ、というところまで言っても楽しそうですが、今のところ映画は見ているときが一番面白いので、文脈依存性/間テクスト性をあまり持ち上げることはせず、今回はここまでということに。また別記事でお会いしましょうー

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