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息子に与えた環境は高くついた。後悔は無い。

私のドバイ駐在が始まったのはおよそ10年前で、息子は5歳でした。
転勤族だった当時の私の勤務地は広島。そこの幼稚園に通っていた息子はお友達の広島弁にすっかりなじみ、
「お願いじゃけえ!」とおもちゃをねだったり、
「いけんよー!」と私に怒ったり、
かわいい広島弁を使いこなしていたものです。

ドバイへの転勤当時はまだドバイに日本人幼稚園は無く、また現地での小学校の新学期は日本と比べて半年早い10月スタートだったので、4月から9月までは(正確には8月、9月はまるっと夏休みだったので、4月から7月までの4か月間)息子は現地の幼稚園に通わせる事にしました。
妻とまだ生後4か月だった長女を連れて、息子と幼稚園の面接に行った事は鮮明に記憶に残っています。校長先生がとても穏やかな婦人で、英語でほとんどコミュニケーションがとれない息子にも優しく話しかけてくれ、非常に安心できたのが印象的でした。

当時、息子は英語を全然話せなかったけれど、子どもの持つ順応性を素直に信じて、英語環境での幼稚園に通わせる事にしました。

ドバイは外国人労働者の数が非常に多く、インターナショナルスクールに行けばいろんな人種、宗教、国籍の子ども達が一緒に勉強しています。
そのため、ある程度英語のできない子でも学校に入ってくる事は良くある事だったのでしょう。きっと周りのサポートも厚く、思った通り息子はすぐに環境に順応し、毎日楽しく幼稚園に通っていたと思います。

そんな中、私達夫婦が小学生に上がった息子を日本人学校では無くインターナショナルスクール(以後インターと呼称します)に通わせるようにしたのは自然な成り行きでした。
日本のような詰め込み授業では無く、自主性を重んじたアウトプット型の勉強であったり、しかも英語での学習環境。インターに通う事で、息子は大きく成長できると信じていたし、結果、期待通りの素晴らしい小学生時代を過ごす事ができたと思います。

息子がドバイで通ったインターでは、国際バカロレア(以後IBと呼称します)という大学入学国際資格制度を採用していました。
日本の高校卒業時に得られる大検(大学入学資格検定)の国際版のようなもので、すごくざっくり説明すると、IB校を卒業する事で海外の大学を受験する事ができるようになります。ただし日本の高校卒業の資格はありませんので、日本の大学に行こうとすると制約があります。

さて、長かったドバイの駐在時代が終わり、日本帰国にあたって私達夫婦、そして息子の大きな課題は、日本での中学校選びでした。
2017年。ドバイのインターで小学校を卒業した息子。
日本国内での選択肢は、公立の中学校に行かせるか、IBを採用している私立の中学校に行かせるかの二つでした。

気持ちとしては、IBを採用している私立の中学校に行かせたい。
しかし問題となったのは、年間180万近い学費です。
当時は不動産の「ふ」の字も知らない普通のサラリーマンだった私に、年間180万はなかなか払える金額ではなかった。

さらに、IB校に通わせるには逆風が吹きます。
帰国後は会社の社宅に入れば家賃がぐっと抑えられる。しかし、社宅から希望のIB校に通わせようとすると、息子に片道2時間弱の通学を強いる事になります。ドバイ育ちで日本の電車事情など全く知らない息子なので、満員電車や複雑な乗り換えが要求される通学は負担が相当に大きい。

今思えば、いろいろと認識が甘かった。
インターに通わせる事の長い時間軸(小学校から大学までの16年間)での教育方針の決定とその資金の見積もり。
それに備えた、駐在員時代から取り組むべきだった資産形成。
その時にならなければ、なかなか気づけない事かも知れません。
もしあなたが子供を日本の大検と違う資格で勉強させたいと考えるならば、大学までの教育費用が数段跳ね上がる事を覚悟すべきです。

私立の中でもことさら高い学費。普通ならそんな出費は無理と諦めても良さそうですが、ここで私達夫婦は一つの決断をします。

教育は親からの最高の贈り物になるはずだから、歯を食いしばって息子をIBに通わせよう。海外駐在では少しだけ贅沢に過ごす事ができたけど、ここからはできるだけ質素に生きよう。

直感的な決断でした。
そして今では、この決断は正解だったと思っています。

やがて私が不動産賃貸業と出会い、年間180万の出費という片肺飛行で不動産賃貸業の拡大に奮闘しますが、それは別の物語。

環境が人を変える、とは良く聞く話です。
有名なところだと、元サッカー日本代表の本田圭佑選手は、成功するためにまず環境を変える、より厳しい環境に自分を置く事で半ば強制的に成長を促す事を説いています。

レベルの高い環境に身を置く事で、自身の能力も引き上げられる。
私自身も、高校時代はずっとバレーボール部で補欠のポジションに甘んじていました。やがて大人になり、社会人バレー等に参加するようになって、自分が何気なくできる事、むしろ学生時代は周りに劣り苦手意識を持っていたプレーが、チームにおいては非常に重宝されるスキルであった、という事もありました。振り返れば、当時のチームは相当にレベルが高かったんだなぁと事後的に気づかされました。

一方で、今回息子をインターに通わせる事で起こった彼の環境の変化は、上述のような厳しい環境での成長とは違った文脈で語られます。

学校の勉強が大変難しく、周りについていくためには必死で勉強しなければいけない。よりレベルの高い授業が実施され、周りの学生の勉学への意欲も高い。お互いに高め合えるような環境で勉強ができる。
そういう事では無いのです。

では、息子がインターで獲得した環境とは何だったのか。
無理をしてでもインターに通わせる決断は成功だった。
そう事後的に気づかされたきっかけとは何だったのか。

それは、『友人関係』でした。

私達夫婦が予期していなかった多くの『ちょっと普通じゃない友人達』
そこは、息子の成長に刺激を与える素晴らしい出会いに満ちていた。

自分の周りにいる身近な5人の人達の平均年収があなたの年収になる。
こんな話を聞いたことがありますね。
そして、これと割と近い事が子供達の世界でも起こりうるというのが私の仮説です。

年収の違いとは、単純に仕事の違いだけでは無い。
それは生活の習慣だったり、共通の趣味だったりするでしょう。
また、自己研鑽に取り組むような、成長志向の大きさなども影響すると思います。
愚痴をこぼす人の周りには愚痴をこぼす人が集まり、陰口が好きな人の周りには陰口が好きな人が集まる。
逆に、夢を語る人の周りには同じように夢を持った人が集まり、努力する人のもとには努力する人が集まる。

私が良く娘にいう言葉があります。
『上手にできなくてもいい、努力する事を忘れないで。自分を磨き続ける人は、きっと自分を磨き続ける人と出会えるから。』

また、私が大家の会に積極的に参加するのも、会社では出会う事のできない行動力オバケの方々に出会い刺激を貰うことが目的の一つです。
自分が目指すべき場所に既にいる方たちと直に接する事で、自分のマインドを強制的に引き上げてもらう。非日常な環境にダイブする事で、成長が促されるであろう事を期待している。

さて、息子の同級生や部活のチームメイトはどんな子供達だったのか。
一見、普通のかわいい子供達です。
私が学生の頃、周りによくいた普通の子供達と変わらないように見える。
ところが、始めは何も気づかなかったのですが段々と自分の学生時代との違いに気付いていきました。

友達の家に泊まりに行きたいというので軽くOKしていたら、実家が熱海の老舗旅館だった!
一緒にカラオケに行った友人は清涼飲料の製造および販売を手掛ける某大手企業の孫娘だった!
クラスメートが某有名俳優の娘としてテレビに出ていた!
同学年の子の父親は某有名アニメ映画の脚本家だった!
父兄参観では既に引退したあの有名女優が来ていた!
サッカー部の先輩に現役Jリーガーで元日本代表10番の息子がいる!!!

割と多くの浮世離れしていそうな家族の子供達がたくさんいる事が分かってきました。
よくよく考えればそれもそうです。年間180万という学費を中学生の頃から払おうと思えば、親にもそれなりの収入がないと難しい。

始めは、そうなんだね、凄いね!なんてミーハーな感じで言っていたのですが、ここである考えに至ります。

子供の考え方や進路については、割と身近な大人によるところが大きい。
政治家の子供は政治家になるための心理的ハードルは低いだろうし、
俳優の子供は自然と俳優を目指すようになってもおかしくない。
ホテル経営者の子供はホテルを経営するという仕事を身近に感じ、もしかしたら自分もホテルのオーナーとなり経営するイメージを持っても不思議ではない。

妻の両親は学校の先生でしたが、妻が進んだのは教育学部だったし、妻の妹は学校の先生になりました。私の父は造船所勤めだったため、私も自然に工学部で船を学ぶに至ります。

子供はどうしても、自分の将来を親からイメージする事が多い。
浮世離れした家庭に育った子供達は、成功者の遺伝子とでも言うべき独特の感性を持っているのではないか。
でなければ、高校生だけ20人集まってグァム旅行を企画したりはしないでしょう。

また、そのような環境だからなのか、いじめや暴力沙汰のトラブルは一切聞きませんし、基本的には友人の集まりなどは手放しで許可しています。
教育現場の治安が良いというのは相当に価値が高い。

確かに年間180万という学費は安くありません。いや、寧ろ高すぎる。
しかし、IBという資格を取得するために、世界へ飛躍する息子のために投じたその費用は、『成功者マインドを持つ家庭に育った友人に囲まれる』という思わぬ副産物を与えてくれました。
友人の家庭環境に触れながら、『俺も何者かを目指す』というマインドは息子の中に育っているのではと感じます。

大人はある程度自分で環境を変える事ができるでしょう。
仕事の選択や住む場所など、制約はあれど自分で選ぶことができる。
一方で、子どもの環境は親が与える以外にありません。
であれば、そこに多少のコストがかかろうとも良い環境を与える事は、選択肢の一つにあってもいいのでは無いでしょうか。

金融資産やモノはその価値を失い、または奪われるリスクがある。
一方で、平穏な環境でのびのびと学ぶ知識や経験は奪われる事なく、子供の財産であり続ける。

息子をIB校に通わせた結果、何かしら定量的なリターンがあったわけではありません。教育や与えた環境の影響が今後彼の人生にどう影響を及ぼしていくのか、正直それはまだ分からない。もしかしたら普通の公立の学校に行かせても同じような結果が得られたかもしれない。

それでも、私が学生だった頃とは遥かにかけ離れた学生生活を息子が送っている事は間違いありません。であれば、私には想像もできない高みまで駆け上がって欲しい。そう願っています。

努力すら遺伝子で決まるという研究結果を紹介する橘玲氏の『無理ゲー社会』は、メリトクラシー社会の残酷な現実を著しました。
自己研鑽は自分との戦いです。
人は、時に努力する事を諦めて、現状維持という衰退を受け入れる。
それが遺伝的にそういうものだとしたら、こんなに残酷な事はありません。

もしかすると親が子供にしてあげられる事は、努力を促す事では無く、成功のマインドを培う環境を準備してあげる事なのかもしれません。

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