弁護士の思春期ー5年目弁護士の独り言

 弁護士の宇賀神です。
 私は、2023年現在10年目の弁護士ですが、弁護士になって5年目に入った2018年、私の所属する第二東京弁護士会の機関紙である「NIBEN Frontier」の「花水木」という欄に記事を投稿したことがあります。弁護士5年目という、「弁護士の思春期」ともいうべき宙ぶらりんな時期の率直な心情を綴っていて、自分で言うのもなんですが興味深いので、ここに再録することにしました。

 弁護士の思春期-。同じ事務所に所属する同期の弁護士が、私をこう評したことがある。言い得て妙である。
 弁護士として、それなりの仕事をこなせるという自負と、弁護士はこうあるべきだという自我が芽生え始めた時期である。しかし、弁護士として独り立ちできるだけの覚悟があるかと問われれば、心もとない自分もいる。弁護士5年目(66期)の今の私は、大人たちに反発しながら甘えてもいるような、自立したいが自立しきれないような、そんな宙ぶらりんな10代のころのあの時期のように、もがいている気がする。
 弁護士の仕事は、楽ではないなとつくづく思う。クライアントにとっては一大事であるからやむを得ないが、クライアントは概してセンシティブで、要求は厳しい。頑張っても感謝されるとは限らない(高い金を払ってるんだから当然でしょ、とでも言わんばかりに)。それに加え、アソシエイト(イソ弁)の身であれば、パートナー(ボス弁)の存在や意向を意識せざるを得ない。私は、「前門の虎、後門の狼」ならぬ、「前門のクライアント、後門のパートナー」と表現することにしている。
 しかし、弁護士の仕事は幅が広く、飽きることがない。私もいろんな案件を経験してきた。私の主要な業務の1つである労働案件であれば、残業代請求や解雇無効、配転無効等の労働審判や通常訴訟、仮処分から、人事労務DD、日々の細かな法律相談と、幅広く経験させてもらっている。私のもう1つの業務の柱は中国法務であるが、主に中国企業が絡む日本・中国の各種訴訟・仲裁案件にいくつも関与している。そのほかにも、ストラクチャードファイナンスと呼ばれる分野の業務や、借地借家紛争、債権回収案件など、挙げだしたらきりがない。
 どのような案件でも、宝探しのようにわくわくすることがある。クライアントから提供された数多の書類を細かな記載まで読み解き、ヒアリングをすると、大半の事情は本筋に関係ないことが多いが、たまに、重要な事実がポロッと現れてくる(この瞬間、何時間も我慢して資料を読んで、話を聞いてよかった、と感じる)。また、目の前の案件で有利に援用できそうな裁判例や文献を、図書室に缶詰めになって探すと、意外とよく見つかる。こうした準備には手間と時間はかかるが、こうして作った準備書面で裁判所の心証がこちらに傾いたと感じられたときの充実感は、何物にも代え難い。
 また、これほど自由な職業はほかにない。1年目であろうと何十年のキャリアがあろうと、弁護士として対等に仕事ができる。私が、会務(労働問題検討委員会と司法修習委員会に所属している)を張り切ってやっていても、夜となく昼となく気ままに仕事をしていても、誰も咎めない。ただ、同期の弁護士でもある妻が、弁護士の仕事のあり方に理解を示しつつも、「たまには家に帰ってきなさい」と私を叱るだけである。
 「弁護士の思春期」のただなかでひととおり煩悶してはいるものの、やはり、弁護士の仕事は、やめられそうにない。

(初出:『NIBEN Frontier』2018年4月号23頁)


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