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9月・米大統領選テレビ討論会の簡単な備忘録

■テレビ討論会の内容

日本時間11日(水)午前、米国大統領選挙前のテレビ討論会がABCニュース主催にて行われました。

当日は90分間の討論となり会場に聴取はおらず、2回のCMを挟みながら各候補者 (ハリス氏及びトランプ氏) は限られた返答時間において発言することが認められていました。
また事前に用意したメモの持ち込みは許可されず、一方の候補者の発言中に他方の候補者のマイクが切られる措置が取られたためお互いが罵倒し合い話がごちゃごちゃになるシーンは見られず、全体として整然とした雰囲気のなか進められました。

当日は有権者が重要と考えるテーマとして以下の話題について各候補者が意見を述べる形をとりました (討論会で取り上げられた順)。

  • 経済・インフレ問題

  • 人工妊娠中絶

  • 移民・国境警備問題

  • フラッキングなどに対するハリス氏の姿勢

  • 平和的な政権移行

  • 2020年選挙結果におけるトランプ氏の姿勢

  • イスラエル・ハマス間の戦争

  • ウクライナ戦争

  • 米兵のアフガニスタンからの撤退

  • 人種と政治

  • オバマケア (国民保険) の代替案

  • 気候変動

ハリス氏は自身が中流階級で育った経験から、中流階級や労働者階級に寄り添う経済政策を行うとしながら大型企業やお金持ちへの減税を行うトランプ氏を批判、一方のトランプ氏は関税を課すことで経済をうまく回したことを含みながら2022年の強烈なインフレを取りあげ「移民が仕事を奪い、国を破壊する」との論調で批判し返しました。

またハリス氏はトランプ氏がコロナショックにより最悪の失業率を記録、2020年大統領選挙戦の結果を受け入れなかったことによる「議会襲撃事件」を取りあげ批判を行いました。
対してトランプ氏はコロナショックから株価や経済が急速に良くなったことを功績として取り上げ、お互いに悪い点をやり玉に挙げて批判する流れが続きました。

中絶問題に関しては米国でロー対ウェイド判決 (1973年に最高裁にて人工妊娠中絶を認めた裁判) がここ最近覆ったことに関し、トランプ氏の故郷フロリダ州では妊娠7週以後の中絶禁止令が下されたことに対する同氏の態度が二転三転したことを司会者が質問しましたが、自らは中絶禁止令を支持しない代わりに州単位での議論に移り変わったためそちらに任せる旨を発言していました。

ただしトランプ氏の副大統領候補であるバンス氏が「トランプ氏のもとに中絶禁止法案が届けば、彼は拒否権 (veto) を発動するだろう」と以前発言したことについて聞かれた同氏は「議論をしたくない」とかわしながらも、この件については国民の信を問わなければならないとしたことから暗に中絶禁止賛成 (pro-life) を示唆していました。

移民・国境警備問題にて、ハリス氏は国際犯罪組織を起訴した功績のアピールを皮切りに、自身の支持した国境警備強化法案に対しトランプ氏が廃案にするよう複数の議員に連絡したことで上院で否決されたことを批判していました。

この問いに対しトランプ氏は「(オハイオ州) スプリングフィールドの (ハイチ系) 移民が住民のペットを食べている」との支離滅裂なことを話し始めましたが、このあたりからトランプ氏の雲行きが怪しくなってきました。

その他、お互いにそれぞれの論点を話しながら時に批判し合うような想定された展開が続きましたが、全体としてハリス氏は整然とした喋りで (すべてが事実とは言えませんが) トランプ氏の攻撃にも冷静に対応したのに対し、トランプ氏は先のペット失言以降も事実でないことをかなりの割合で混ぜてきたり (不法移民の流入数が2100万人と発言したが実際には約1000万人だったことなど)、ウクライナ戦争を24時間で停止させるとの自身の発言に対し司会者よりその根拠を問われ、回答をはぐらかしたことも同氏を不利にする要素となりました。

討論会後、通常は候補者が姿を見せない会場近くのプレスセンターにトランプ氏が自ら赴き「今までで最高の討論会だった」と発言したことも、今回の討論会が「トランプ氏勝利」というイメージを植え付けたいために行われたと推測されます。

9月の大統領選テレビ討論会における各候補者の主張
事前に発表した政策内容からは大きく外れていない
概して見れば「失言を避けた方が勝ち」とも取れる

■各メディアの反応と各候補の支持率

討論会後の各メディアの反応ですが、各メディアごとに左派か右派で反応が異なる形となりました。
例えばCNNではテレビ討論後の勝者を決める投票にて討論会前は半々の予測に分かれていたのが、討論会後にはハリス氏勝利が63%の割合まで上昇しました。

また討論会におけるそれぞれの議題でどちらの候補者が良く答えたか?に関して、移民や経済、大統領としての役割についてはトランプ氏が善戦したものの、民主主義の保護や中絶問題に関してはハリス氏が善戦した模様です。
議題の中でも特に中絶問題は女性の関心が高く、また失言もあったトランプ氏には逆風が吹く形で討論会においては劣勢に置かれたことが分かります。

テレビ討論会後の勝者 (上段) と各問題にどう上手く対処できるか (下段) のアンケート
討論会前はハリス氏とトランプ氏が拮抗したが、討論会後はハリス氏が有利に
また下段のアンケートではトランプ氏がうまく対処したように見えたが
失言なども含め総合的にはハリス氏に軍配が上がった模様

ただしCNNというメディアがやや左派に属するため、アンケートを取る時点で民主党に与する可能性が高いことには留意すべきでしょう。
同様にやや右派であるFOXニュースではハリス氏の欠点をやり玉にあげるタイトルでトランプ氏優位であることを暗に示したりするなど、依然として拮抗する支持率に対しお互いに有利なように記事を作成する戦いが続いています。

全米メディアの左派・右派・中立一覧
今回主催したabc NEWSや真っ先に勝者アンケートを取ったCNNは
やや左派 (民主党寄り) であることが分かる

ここでより市場の意見を公平に反映するPolymarket (世界中のイベントなどにベットできるサイト) のアンケートを覗くと、討論会終了から現在までハリス氏に軍配が上がるとの見方が優勢となっています。

討論会後、どちらが勝者であるか (9/13現在)

ただし今回の討論会がお互いの支持率に対し決定的な一撃を加えたかは未だ定かではなく、以前までの「ハリス氏微有利」が現在まで継続しています。

全米におけるハリス氏とトランプ氏の支持率 (9/13時点)
激戦州におけるハリス氏とトランプ氏の支持率
現在まで接戦が続いており、どちらが有利とは断定できない状況

逆に言えばほんの少しのバランスで保つ均衡状態をトランプ氏が大きく打破するようなイベントが起これば、ハリス氏勝利を織り込みつつある相場にとっては大きなサプライズとなりうるでしょう。

この場合は下落として反応すると考えられますが、このようなサプライズは大統領選挙の当日まで続く可能性がある (すなわち、大統領選挙当日までハリス氏有利 → 開票とともにトランプ氏が猛追するなど) ことも頭の片隅に記憶しておきたいところです。


※当記事はファンダメンタルズにおいて事実の正確さを満たすために尽力していますが、万一事実と異なる点等ございましたらお気軽にご教示ください。

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たかし
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