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「えー、文化祭の出し物ですが、”喫茶店”か”お化け屋敷”か多数決で決めたいと思います!」というどっちもどっちなアイデア会議を終わらせる思考法。

唐突にすみません。
クリエイティブディレクターをしてます、佐久間といいます。
ADKと電通で20数年、戦略と企画の仕事(代表作はこちら)をしたのち、株式会社 Saku を設立しました。ボク自身やSakuについては、また、そのうち、おいおい、きっと、お話しするとして。

先日、母校の早実で教鞭とテニスラケットをふるいまくっている、同級生で友人の玉井邦彦先生(こんなことをやってるやつ)から

「早稲田実業ビジネススクール」をやるからサク、マーケティングの授業やってちょ。

と非常に軽いタッチでお願いをされたので、それはもうけんめいにがんばって授業をしてきました。(↓ けんめいに授業をするボク)​

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1時間目「マーケティング思考」、2時間目「広告クリエイティブ」をテーマに90分ぶっつづけでお送りしたわけですが、高校生150名を90分あきさせない自信がまったくなかったので、できるだけ身近なモチーフで語ろうということで「いなほ祭(=早実の文化祭)でクラスの出し物を決める」という超ウチワな題材を通じてマーケティングの考え方に触れる授業にしました。

以下、ボクが授業でベラベラ話したことをライブ中継さながらに転載しただけですが、それはもうけんめいに準備をしたのでnoteに残しておくことにしました。もしかしたら「マーケティングとか戦略とか、わかるような、わからんような」な方々にうっすらでも参考になったらうれしいです。ならなかったらごめんなさい。ではいきます。


早稲田実業ビジネススクール
「マーケティング思考」と「広告クリエイティブ」

@小室ホール

皆さんこんにちは。早実卒業生で玉井先生の同級生、佐久間といいます。これから、

1時間目:マーケティング思考
2時間目:広告クリエイティブ

の話をしますが最初に一つだけお願いがあります。
できるだけインタラクティブな授業にしたいので所々質問をします。必ず、必ず参加してください。手をあげるだけです。当てたりしません。

マーケティングとは。

いきなり質問。マーケティングとはなんでしょう。
マーケティングは「調査すること」だと思う人?(※チラホラ手が上がる)
では、マーケティングは「広告」だと思う人?(※もう少し多い)
マーケティングって全然わからんって人?(※大多数)

なるほど。ではマーケティングとは何かをググってみましょう。

マーケティングとは?
マーケティング(英: marketing)とは、企業や非営利組織が行うあらゆる活動のうち、「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその商品を効果的に得られるようにする活動」の全てを表す概念である。(by ウィキペディア)

顧客が求めるものを作って、知らせて、得られるようにする活動の全て。だそうです。なるほど。でも、ビジネスって大体そうじゃないのかな?って思ったりもします。正しいんだろうけど、何だかハッキリしない。
ちなみに、マーケティングって日本語に訳せない言葉で、いろんな定義があり、人によって定義も曖昧だったりします、実際。

という前提で、ボクが気に入っている定義はこれです。

マーケティングの究極の目標は、セリング(売り込み)を不要にすることだ(by ピーター・ドラッガー)

「売りこむ」(これ買ってください!ってお願いして回る)のはマーケティングじゃない。「売れるようにする」(これください!って向こうからお願いされるようにする)のがマーケティングだ。

この対比はわかりやすいなあと思いますがどうでしょう。つまり「欲しい」とか「必要だ」とか「大好き」と思わせたり、「人気がある」とか「話題だ」とか「定番だ」とか「かっこいい」とか、そういう存在にして「売れるようにする」ための活動がマーケティングってこと。(ブランディング、もほぼ同義ですが今日は割愛)

いなほ祭をマーケティングしてみる。

ではここから、みんながやったことのある「いなほ祭のクラスの出し物」をマーケティングで考えていこうと思います。

クラスでの出し物を何にするか。喫茶店?お化け屋敷?舞台発表?演劇?
クラス代表のあなたは、みんながやりたいことを知るためにアンケート調査をして投票で決めることにしました。

ここで問題です。

問題:
みんなの希望を聞いて投票で決める。これはマーケティングでしょうか?

マーケティングだと思う人は手をあげてください。(※1名挙手)

正解:
マーケティングではない。(が、マーケティングの一部にはなりうる)

そうですね、先ほどのマーケティングの定義「売れるようにする活動」って意味だと、自分たちのやりたいことをアンケート調査して決める=マーケティングではありません。でも、このアンケートだけで決めるのではなく、情報の一つとして活用するならマーケティングの重要なピースになります。これはあとで説明しますね。


マーケティング思考

目的 ・・・目指すゴール
  ↓
戦略 ・・・どうやって目的を達成するか
  ↓
手段 ・・・そのために具体的に何をするか

マーケティングの考え方はこの3つのステップに集約されると思っています。ここで問題。

問題:
「いなほ祭で何をやりたいですか?」というアンケートは、
「目的」「戦略」「手段」のどれを聞いているでしょう?
正解:
「手段」

何をするか?なので「手段」をいきなり聞いていることになります。
これからすごく恐ろしいことを言いますが、この世に存在するもの、目に見えている全ての物事はぜーんぶ手段です。手段から考え始めるということは、すでに存在しているものから「選ぶ」行為になります。この世界にはすでに無限とも言える選択肢があるので選ぶだけで十分かもしれません。でも、新しいもの、まだないもの、ベストなものを生み出そうと思ったら、違う思考法が必要なのです。

目的

マーケティング思考では、まず「目的」を決めることから始めます。
つまり、自分たちのクラスにとっての「成功(ゴール)」を定義すること。

企業にとっては「売り上げ」だったり「利益」だったりがほとんどです。時には「社会貢献」だったり「若者から人気になる」だったりとさまざまですが、往々にして目的は「課題」か「意志/夢」です。
何のためにやるのか(売上のためか、何か違うことのためか)、何かをやる”その理由”とも言えます。

いなほ祭の出し物も「何をするか」よりまず「何を目的にするか」を設定することから始めるといいでしょう。例えば、

「売り上げNo1」を目的にしよう
「いなほ賞(グランプリ)を獲ること」を目的にしよう
「クラスの一体感」を目的にしよう
「小さな子供たちを楽しませる」を目的にしよう
「稲穂祭で一番の話題になること」を目的にしよう
「誰もやったことのないことをやる」を目的にしよう
「とにかく楽ちんにやる」を目的にしよう
「来場者が喜んでくれること」を目的にしよう
「日本中を驚かせる」を目的にしよう
「一生の思い出に残るいなほ祭にする」を目的にしよう
「地域貢献」を目的にしよう

「目的」だけでも色々あることがわかります。そしてなんとなく、目的が違うと実際にやることも変わりそうだなあ・・、と思いませんか?そこが大事。いきなり手段から考えると打ち手の幅は決まってしまいますが、目的から考え始めるといろんな可能性に気づくことができるのです。

目的を設定する=自分たちにとっての「成功」を定義すること。ですから「こんないなほ祭になったらいいよなあ」という理想とか夢想とかをゴールイメージにするのもいいと思います。みんながみんな「いなほ賞(グランプリ)」を目指す必要はないのですから。

質問から始めるなら、「クラスの出し物何にしますか?」ではなく、「どんないなほ祭にしたいですか?」から始める。
「目的」「みんなで向かうゴールイメージ」を固めるのがマーケティングの第一歩です。

ちなみに「何をやりたいか」をいきなり決めようとすると、たいてい揉めます。「喫茶店かお化け屋敷か」を決める尺度がないからです。結果「多数決」か「じゃんけんやあみだくじという運に任せる」か「声の大きい人の意見に従う」ってことになります。やりたくなかったことを渋々やるのってモチベーション上がりませんよね?
まずは具体的な手段(何をするか)ではなく目的(どんないなほ祭にしたいか)から始めると、みんなのイメージがふくらんでいって「よし、みんなで〇〇な いなほ祭にしよう!」っていう一致団結感が芽生えたり、ワクワクしたりします。大袈裟に言えば「夢」みたいなもんです。大袈裟すぎますね。

戦略

目的 ・・・目指すゴール
  ↓
戦略 ・・・どうやって目的を達成するか
  ↓
手段 ・・・そのために具体的に何をするか

「目的」が定まったら、次は「戦略」の立案です。
どうやって目的を達成するか、“大作戦”を考える楽しいパートです。
戦略立案の方法は目的によっても変わりますが、いろんなヒントを集めながら作戦をねります。
ヒントを集めるには、「市場を知る」「競合を知る」「消費者を知る」「自社を知る」の4つの視点が役に立ちます。

戦略立案のヒントを集める4つの視点。
「市場を知る」
「競合を知る」
「消費者を知る」
「自社を知る」

・市場を知る

例えば、「売り上げNo1」や「いなほ賞獲得」を目的にしたら、過去のいなほ祭でどんな出し物をしたクラスがいくら売り上げてNo1になったのか、何票獲得してグランプリになったのか、などをリサーチします。古くから遡れば、傾向とかもわかるかもしれません。おそらくリサーチした時点で「喫茶店はないわ」みたいなことはわかりますね。

No1になった出し物をそのままやるのも戦略の一つです(まねっこ戦略)。でも去年のグランプリをそのまままねると「あいつらパクりやがったw」と言われたり、すでに飽きられていたり、パクったやつに投票はしないよ、と思われてしまったりします。
ですが、これを「2020グランプリ作品、完全再現!」などと銘打って、セリフから動きから100%そのまま再現したりするとそれはそれで「すげーー!」ってなったりもします。
あるいは10年前のグランプリなら覚えている人も少ないので良いかもしれないし、「懐かしい」と思ってくれる先生たちもいるかもしれません。当時の主人公役だった先輩やクラスに招待したり、応援してもらったりするとちょっとした話題になるし、集客につながるかもしれません。
こうゆうのは「リバイバル戦略」って名付けてもいいかもしれません。

いなほ祭の市場規模を知るには、毎年何人くらい集客があって、その内訳(早実初・中・高/他校の小中高/OBOG/親御さん/近所の人/受験を控える人/学校関係者/その他)、そしてその人たちが何にいくら使うのか、までわかると戦略は考えやすくなります。よく「データが大事」って言われるのはそのためです。

来校する全員をターゲットにした方が市場のパイは大きいけれど、男子と女子では喜ぶものは違うし、在校生と他校生、高校生と小学生で全然違うので、「みんなが喜ぶもの」を考えるのは難しくなります。そして大体みんな同じような企画になって新しさがなくなります。

データをもとに市場がわかればターゲットを絞りやすくなるので、「一番お金を使っている”初等部の両親”を狙う作戦」とか、「受験を控える小学生とその親、狙い撃ち作戦」みたいな戦略のアイデアを思いついたりできます。

あとデータ的には「平均滞在時間」とか「人気の時間帯」とか「滞在エリア」とかもわかると違う戦略も立てられます。
いなほ祭の場合、立地は教室が勝手に割り当てられるので自分たちで選べないと思いますが、人通りの多い立地なら「たくさんの人に、短い時間で、たくさん買ってもらう作戦」が良いかもしれないし、逆に奥まった場所なら「ゆっくりしてもらってその代わり一人当たりの単価を高くする作戦」を考える必要があるかもしれません。あるいは教室に見切りをつけて「体育館での舞台発表」で勝負する戦略もありますし、集客のための宣伝や口コミに力を入れる戦略もありそうです。

仮に「平均滞在時間が1時間未満の人が多い」というデータがあれば、「全部見たいけど見れない人が多そう」という仮説を立てられる。だったら、自分たちの出し物はやめて「人気の出し物を紹介する教室にする」や「セレクトショップ」的にする作戦で「お時間のない方はここに来ればいなほ祭の全てがわかりますよー」という宣伝をする、という手もあるかもしれません。

・競合を知る

一般的に「競合」とはライバルのこと。同じ市場の中で、ターゲットを奪いあう相手のことを言います。トヨタの競合は日産やホンダ。ソフトバンクの競合はドコモやau、楽天モバイルなど。PSの競合はNINTENDO Switch。ですが、ゲームはスマホでやってます、という人が多ければ、スマホが競合になったりします。クルマに乗らずに自転車&電車の人が増えたのであれば、トヨタは競合として自転車や電車を意識しなければなりません。新幹線のライバルは飛行機だったりします。自分たちのお客さんを奪い合っている相手、ということです。

いなほ祭で、競合になるのは「他のクラス」ですね。あと間接的な競合で言えば、部活別の出し物や、自動販売機、食堂での販売、バザーなども入るかもしれません。
売り上げNo1を目指すとかグランプリを目指す、という場合には「他のクラスが何をするのか」を知ることができると戦略を考える上でのヒントになります。(知らない方がいいこともありますが)
また、「来場者に楽しんでもらう」を目的とした場合は、他と同じような出し物だとあまり意味がないので他クラスの動向を知っておいてあえてずらすのも良いかもしれません。

「一番の話題を作ろう」という目的を持っていたとして「隣のクラスがパン屋さんをやるらしい」という情報を得たとします。だったらうちは違うことをやろう、というのも戦略ですが、あえて「隣と同じくパン屋さんをやってどっちが美味しいか競争をして盛り上げる」という作戦もありですし、「パン派?ごはん派?大作戦」と銘打って、「おにぎり屋を開いて、隣のパン屋さんと競い合う」というアイデアも面白いかもしれません。
こうなるとライバルと言いながらも実は一緒に盛り上げる「仲間」と言えます。(ま、いなほ祭の場合、本来的に仲間なんですけどね)


・消費者を知る

市場を知る、でもターゲットの話をしましたが、さらに突っ込んでターゲットの「心理」を知るってことです。わざわざ来たくさせる、買いたくさせるには「相手が何を欲しているか」を想像することが大切です。そうして、実際に来てもらって、楽しんだり、喜んでもらうことができれば、次に誰かを誘ってくれるかもしれないし、話題になっていくかもしれない。話題が話題を呼んで、それこそ勝手にお客さんが来てくれるようになる。

マーケティングとは、売り込みを不要にすることだ。
By ピータードラッガー

そのためには、自分たちがやりたいことをただやるだけでは足りなくて、どうしたら喜んでもらえるか、買いたくなるか、相手の気持ちを必死で考えなければなりません。プレゼントを贈るのと同じです。好きな人に好きになってもらう、とか、お父さんになんか買ってもらう、のも同じです。そのために、ターゲットである消費者の心理や気持ちを知る(想像する)必要があります。マーケティングにおいて一番重要なのがここです。(ここ超大事)

いなほ祭でのターゲットを「すべての来場者」としたとします。来場者にはいろんな世代や背景の違いがあるので、それぞれの気持ちを考えながら、「できるだけみんなが共通して欲しているものは何か?」を探っていかなければなりません。
例えば「喉が渇いたら水が欲しい」は全人類共通なので「水を売ろう」というのも作戦の一つですが、水は自販機でも売ってるし、なんなら水道もあります。みんなの共通ニーズというのはすでに世の中にあるものなのです。

もう少し思考を深めてみましょう。
来場者=いなほ祭に来ている=早実に関心がある人と考えると「水」よりは絞ったアイデアが出そうです。
例えば「早実の歴史を一緒に学ぶ教室」とすれば少しは興味のあるものになるかもしれません。ただ、ちょっと地味な気がするのであえて「早実の黒歴史コーナー」とかクスッと笑える展示なども考えたいところです。
逆に、過去じゃなく未来、「私たちが考える未来の早実」とかも面白そうです。こんな学校になったらいいな、という早実生たちの発想力を垣間見れたり、要望を知ることによって「今、何を課題だと思っているのか」が透けて見えたりもする。
「受験を控えた学生と親」をターゲットにするなら、おそらくは「合格してここに通いたい」と思っていたり、「どんな学生生活なのか見聞きしたい」とか「面接で話せるエピソードをゲットしたい」とかいろんなニーズや心理が想像できます。例えば、

「早実“縁結び”神社」を教室に作って、おみくじやお守りを販売する

といったアイデアは受験生はもちろんですが学校内でカップルが誕生したりして盛り上がりそうです。

ところで「消費者を知る」と言いましたが、あなたが一番よく知っている消費者は誰でしょうか?
それは、自分自身です。自分だったら何をみたいか、何に惹かれるか、何を心配しているかetc.。自分の心に聞いてみることもマーケティングです。そしてなるべく想像しやすい人、親とかおばあちゃんとか兄弟とか友達のあいつならどうだろう?と考えていく。もっと広く、このテレビ番組はどんな人のどんな欲求を捉えようとしているんだろう。このCMは?このヒット商品はなぜ売れたんだろう?などなど。商品が自動的にヒットすることはなく、そこには必ず買う人がいて、買った理由があります。マーケッターたちはそれを最初から狙って商品を開発したり、広告宣伝を企画したりしています。人の気持ちを想像して仮説を立てる、っていうところがマーケティングの一番の醍醐味だとボクは思います。

・自社を知る

自分たちが持っている「資源」「武器」「戦力」を把握して、そこから戦略を考えるということです。
企業の資源とはよく「人・もの・金」と言われます。

人・・・優秀な人材あるいは圧倒的なマンパワーの多さ。など
もの・・・土地や社屋、工場、店舗などの設備。など
金・・・文字通り資金ですね。など

これらに加えて「信頼」とか「ブランド」といった目に見えないものも資源に含んだりします。これらをうまく活用して目的達成にいかそう、というのが「自社を知る」ということです。

富士フイルムという会社はご存知だと思いますが、その名の通り、昔はカメラのフィルムの会社でした。20〜30年前からデジカメに変わり、今やiPhoneやスマホにかわってしまいましたが、フィルムを使う機会がどんどん減っていったんですね。当然、フィルムに変わる何かを始めないとこのままでは会社が潰れてしまうぞ、となって。
色々トライをしたんだと思いますが、一つは「デジカメ」を作って販売するようになりました。自分たちの存在否定だったりもするのでそれはそれで一悶着あったと想像しますが、カメラに関するメーカーというイメージが消費者の中にもあったし、親しみのある企業だったのでわかりやすい打ち手ではあります。この場合の「資源や武器」は「カメラに関するブランド」というイメージ資産といえます。
もう一つ始めたことがあってこれはもう伝説的な話なんですが「アスタリフト」という化粧品事業を始めて大成功したんですね。フィルムメーカーが化粧品メーカーに転身するってかなりびっくりじゃないですか。これがなんで成しえたかっていうと、フィルムで印刷した昔の写真って色褪せてるじゃないですか。インクが紫外線などで酸化して劣化するらしいんですが富士フイルムはそれを防ぐための「抗酸化技術」っていうのをめちゃくちゃ研究してたそうで、その抗酸化技術が、肌を紫外線から守ってシミとかシワを防ぐ化粧品にいかせるんじゃないか、って気づいた人がいて。作ってみたら、他の化粧品メーカーと比べてもめちゃくちゃいい化粧品ができたらしいです。そもそものアプローチが違うので全く新しい化粧品になって、消費者も「富士フイルムが作った化粧品?何それ気になる!技術すごいらしい!」ってなってヒットにつながっていった。
ここでの「資源」とは「既存の技術」ってことだし「人=凄腕研究者」ともいえる。またそれを「他のジャンルである化粧品に応用しようって考えた人」もいたし、それを「やってみなさいといった会社の偉い人」もそうだし、完全に傾いてから始めたわけじゃないので「設備投資をしたり、大々的な宣伝をする金」があったことも成功要因かもしれません。

いなほ祭で「自社の資源」に当たる一番は「人」ですよね。クラスにアイデアマンがいるならその人をリーダーにして企画会議をするもよし。野球部のエースや学校一のイケメンがいればそれを使わない手はありません。映像編集が得意な子がいるなら映画やCMがつくれるかもしれません。そもそもクラスのチームワークが抜群なのであればとても有利でしょう。最初の質問にあったように「クラスのみんな一人一人が何をしたいと思っているのか」も大事な情報です。
冒頭、クラスのみんなへのアンケート調査はマーケティングではないが、マーケティングの一部である、と言いましたが、自分たちがやりたいことやできることを知るのは、戦略を立案する上で重要なヒントになります。

「もの」は先ほどあげた「教室の立地」などは戦略を考える上で重要なファクターになります。「金」は決まった予算でやることが義務付けられているかもしれませんが、その金を何に集中させるか。例えば、演劇なら主人公の衣装だけ豪華にする、とか、脚本を三谷幸喜に頼むとか(無理か)。おにぎり屋をやるなら「100個に1個だけ金箔の海苔で巻いたがアタリおにぎり」を作るとか)でインパクトを高める方法も考えられるかもしれません。お金がない、という制約が逆に面白いアイデアにつながることも大いにあります。

手段

目的 ・・・目指すゴール
  ↓
戦略 ・・・どうやって目的を達成するか
  ↓
手段 ・・・そのために具体的に何をするか

「目的」=みんなで目指すゴールを決めて、どうやってそれを達成するかの「戦略」を市場・競合・消費者・自社といった視点から立案したら、いよいよ具体的に「何をするか=手段」を考えるフェーズです。戦略が定まった時点である何をやるか見えているケースが多いので、それを実行に移すための詳細を詰めていく段階でもあります。

・マーケティングフレームワーク(4P)

手段を考える時の枠組みとして「マーケティングの4P」があります。

Product(製品、サービス、コンテンツなど)
Price(価格)
Place(流通、売り場、ECなど)
Promotion(広告、販売促進、口コミ、PR、チラシ、店頭ツールなど)

この4つのPを、戦略に基づいて設計していきます。
みなさんご存知「スターバックス」を例に考えていきましょう。

スターバックスの「戦略」をみなさんご存知でしょうか?」

スターバックスの戦略は「サードプレイス」と言われています。

サードプレイスとは家、職場や学校以外の「第三の場所」ってことです。
この戦略(コンセプトと言ったりもします)を実現する具体的な方法が「手段」に当たります。
そういえば、会社でやりゃいいのにパソコン広げて仕事してる人とか、家でやりゃいいのに勉強したり本を読んだりしてる人、多いですよね。僕もコロナ前はよく仕事したりしてました。ソファー席があったり、おしゃれな音楽が流れていたり、コーヒーの香りがしたり、ロゴやカップもおしゃれでゆったり落ち着きます。まさにサードプレイスです。言われてみれば。
スターバックスはコーヒー屋さんのふりをしてますが、本当は「スペースサービス業」なんです。あそこの空間でゆったりくつろぐという体験を売っているわけです。スタバでコーヒーを飲む時間を買っている、とも言えます。つまり、
スタバのProductは「コーヒーというよりもむしろ店舗や店員が醸し出す雰囲気や居心地」です。

スタバのPriceはどう設計されているでしょうか。スタバのコーヒーって高いですよね。ドトールよりだいぶ高い。でもドトールよりもずっといい豆を使ってたりするんでしょうか?ほんとのところはわかりませんが、僕は多分同じかちょっと高い程度だと思います。スタバではドトールよりもゆっくり過ごす人が多い。だから一人当たりの単価を高く設定しなければならない。普通だったら安い方を選びそうな物ですが、みんなありがたがってスタバにいく。ちょっと高いと知っていても。この値段の差なら、リラックスできるし高揚感も感じられるスタバの方がいいよね、と感じられるギリギリの価格差を設定したのでしょう。

スタバのPlaceですが、店舗体験がProductであるという通り、スタバにとって店舗はものすごく重要です。内装はもとより、立地(どの街のどのエリアにあるか)なども今でこそどこにでもあるスタバですが、日本上陸当初はめちゃくちゃこだわったと思います。ちなみに一号店は銀座だそうです。やっぱり。
サードプレイスという戦略を具現化するには「雰囲気作り」が最も重要。なのでスタバは直営店しかなくイメージ統一が完璧に図られています。ドンキホーテの中とかに絶対ないですよね。どんなにそこで売り上げがあがろうとも。スタバにとって「雰囲気」を壊すことは致命傷なのです。

スタバのPromotion。実はスタバはほとんど広告をしません。テレビCMって見たことないでしょ?SNSなんかは使っているようですが、広告はあまり打ちません。その代わり、街の目立つところに店舗を構えています。お店そのものの存在が広告がわりなのかもしれません。あと季節ごとに話題になる新商品を出しますよね。「あれ飲んだ?」みたいな話題性や口コミを狙って定期的に発売していますがあれもいわゆる広告の代わりです。おそらくですが広告やテレビCMがスタバの雰囲気を作り出すことにそぐわない、という判断もあるのかなと思います。ゆったりとしたくつろぎを提供したいのにせわしないテレビのCMは似合わないのかもしれません。広告にお金を使うよりもいい立地に店舗を増やしたり、店員さんの教育にお金をかけたりしたほうがスタバの戦略の具現化にとって有効であるという考えは非常にスマートだと思います。

じゃあドトールのマーケティングはダメなのか、と言われるとそういうわけではありません。ボクはドトールも好きでよくいきます。あまり時間がないけど少し小腹も満たしたい。そんな時はドトールでコーヒーとサンドイッチをサクッと食べてさっと出る。だからドトールは店舗にはあまりお金をかけていないし、スタバより狭い店が多い。ドンキの中でも出店できます。店員さんの教育もそこまでお金をかけてなさそう(失礼)。その分、コーヒーも食事も安く提供できる。ドトールとスタバはどちらもコーヒー屋さんの顔をしてますが、ターゲットとしている消費者の心理、ニーズと提供する価値がまったく違うのです。

いなほ祭に話を戻しましょう。

仮に、あなたのクラスの出し物を

目的:「来場者を喜ばせる」
戦略:「受験生をメインターゲットにした、早実“縁結び”神社」

とした場合の「手段」を4Pで考えてみましょう。

・Product

まずは教室に「神社」を作ります、これがメインです。
賽銭箱を置いてもいいかもです。早実らしく稲穂をあしらったデザインとかもいいですね。あと、お守りを商品として開発して売りましょう。おみくじもいいですが、受験生が「凶」とか引いちゃうと可哀想なので工夫が必要かもしれません。
余談ですが、僕があえて「縁結び」とした理由があります。それは、

あえて、「受験のための神社」という風に見せないため

です。すでに早実に通っている学生が受験生に対して「ここでお祈りすれば受かるかもよ」というのはちょっと上から目線で嫌ですよね。嫌な気持ちにさせるのは元々の目的である「来場者を喜ばせる」ということと真逆になってしまいます。なので、ここで気持ちよくゲン担ぎをしてもらうためにはその戦略は見えないようにしたほうが良いのです。
あと受験生だけじゃなく在校生やその他の来場者も楽しめるように「縁結び」にしました。受験生にとっては早実とのご縁。恋人が欲しい人にとっては恋のご縁というふうにいろんなターゲットに楽しんでもらえるように。

・Price

Priceはいくらくらいなら払ってもらえるか、という予測と、いくらくらいの売り上げを上げたいか、そして、いくらくらい原価がかかるか、から設定していくのが良いでしょう。ボクはPrice設計はあまりやったことがないのでこれくらいで。

・Place

Placeは、いなほ祭の場合は教室は最初から決まってると思うのであまり考える余地はないのですが、ただ、「本物の神社っぽい感じ」を演出することが非常に大事なので店舗デザインには凝った方が良いと思います。

・Promotion

Promotionは色々面白いことを考えられそう。毎年、校内放送を使ってラジオCMをやってますが、神社とかに流れてそうな尺八の音色とともに紹介するのも面白そうです。あと看板を持って校内を練り歩いて宣伝しているクラスも多いですが、あれを巫女さんや神主の格好でやったら目立ちそう。おみくじの内容を先生が言いそうなことにして話題にしたり、お守りをバッジのように身につけられるようにすると、それ自体が広告として機能するかもしれません。縁結びなので告白タイムのようなイベントを開催しても盛り上がるかもしれません。ちょっと恥ずかしいかな。

まとめ

以上、1時間目は「マーケティング思考」についてお話をしてきました。
色々話しましたが、おさらいです。大事なポイントは4つです。

1、いきなり手段を考えない。
  「目的」→「戦略」→「手段」の順番で考える。
2、目的とはゴールイメージ。
   最後にどうなってたら成功か、を定義する。
3、戦略とはターゲットの気持ちを考え、想像し、
  気持ちを動かすアイデアのこと。
4、目的と戦略にそって手段(実際に何をやるか)を考えること。


これで、「マーケティング思考」の授業を終わります。
2時間目は、「広告クリエイティブ」の授業です。

クリエイティブというと「思いつきとか発想力」で創り出すような、とっつきにくい印象を持っているかもしれませんが、「目的→戦略→手段」で考えていくところは全く同じです。最後の手段は「表現」を考えることになるのでアートや言葉のセンス・技術も必要ですが、一番大事なのは「戦略」(=アイデア)だと思っています。

そのあたりについて、実際にボクがつくった広告をお見せしながら、どうやって考えていったかをお話しします。

ーーーーーーーー

・・・とここまで書いてすでに12000文字を突破してしまいましたので、つづきの2時間目は次のnoteにします。

っていうか、はじめてのnoteで、何だかマジメっぽい内容になってしまいました。あーヤダヤダ。くだらないこといいたい。あるあるいいたい。

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