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小さな侵略者 第一部

ここは、アメリカにある最先端技術研究センター
「だいぶ、良いデータが取れたな。次のステージに進んでも良さそうだ」
オーウェンがデータ資料を確認しながら話し始めた。
「早すぎないか、もう少し経過を見た方が」
「メイソン、技術は日進月歩で進んでいるんだ。慎重が過ぎると先を越されてしまうぞ」
「それはそうだが・・・」
「私もメイソンに賛成だわ、もう少し様子を見た方がいいんじゃないかしら」
「オリヴィア、君たちは非常に優秀だがデリケート過ぎる」
「デリケートにもなるだろ、もし人に投与して何かあったら今までの努力が全てパーになってしまうんだぞ」
「まあまあ、クールにいこうぜ二人とも、ビールでここまでの成果を祝おうぜ」
「ローマン、あなたは飲みたいだけでしょ」
「サマンサ、君の意見は?」
「私は、次の段階に進むべきだと思うわ」
「意見は2対2だな」
「俺の意見は聞いてくれないのか?」
「ローマンはどっちなんだ」
「俺はどっちかなぁ、んー進んでもいいんじゃない?」
「ダメだ早すぎる。認められない」
「まあまあ、落ち着けよ。もう少し話し合いをしようじゃないか」
「そうね、話し合いましょ」
5人はいつものようにそれぞれの個性をだしながら意見のやり取りを行っていた。
オーウェンは強引すぎるほどのリーダーシップで研究を進めていく。
メイソンは少々頭が固いというか慎重派。オーウェンと共にリーダー的存在。
サマンサはオーウェンの良き理解者としてオーウェンに協力的。
オリヴィアは全体のまとめ役として母親的な存在。
ローマンは楽観的であまり深く考え込まないタイプ。酒好き。
5人はナノマシンの研究を行っており、現在は人により近い動物までの実験を繰り返し行っている。
実験のテーマは、『感情のコントロール』だ。
ナノマシンを使い、脳に働きかけ感情をコントロールし、犯罪の抑止や欲望の抑止、精神的ストレスの減少などに役立てようとしている。
現在、動物実験においては、楽しい、悲しい、怒り、憎しみ、恐怖、愛情の感情に対し抑制、増幅が可能であるというデータが取れている。
データ数的には、まだまだ実験が必要であったし安全面にも不安は多分にあった。
だが、オーウェンは早く次の段階、人への投与を行ってみたかった。
オーウェンは、ごく普通の家庭の育ち。家族の仲も良く何も不満のない少年時代を過ごした。
親の言う事をきちんと守る素直な子供だった。
オーウェンはハイスクール時代に、好きな女子に振られた。
「あなた、普通なんだもん」
それが理由だった。
普通なんだもん?なんだ、普通はダメなのか?普通で良いだろう。
何がいけないんだ!
そう思い込んでしまったオーウェンは普通ではいられなくなった。

「おい、オーウェン。どうゆう事だ」
「何がだ?」
「何がだじゃない、人体への実験をするなんて聞いてないぞ」
「あっ、ばれた?」
「話し合って、決めた事じゃないか」
「協力してくれる所が見つかってね」
「どこだ?」
「行ってからのお楽しみさ」
いたずらっぽく笑って去って行った。

「おいおい、ここは刑務所じゃないか」
「そうだ」
「そうだって、こんな所で実験なんて出来るのか?」
「向こうさんが許可してるんだ、問題ない」
「本当か?」
「とにかく行きましょう」

応接室に通された5人は、所長の出迎えを受け席に着いた。
「わざわざ起こしいただき感謝します」
コの字型並べられたテーブルの中央席に陣取った所長は丁寧にそう述べる。
向かいの席にも複数の人物が座っている。いずれも権力のある人物であった。
「では、依頼させていただいた内容につきましてはお手元の資料とスクリーンにて説明させていただきます」
スクリーンに映像が映し出される。
そこには【被験者候補】の文字と共に複数の人物の写真が映し出される。
「えー、今回は受刑者の中から27人の候補を選出しました。いずれも懲役百年以上の受刑者であります」
オーウェンとサマンサ以外の3人は怪訝そうな表情で話を聞いている。
「えー、まず一人目はレイジバトラー連続殺人で懲役三百五十年、性格は非常に狂暴、署内でも数回の問題を起こしております。二人目は・・・」
その後も映像が切り替わり、淡々と人物の紹介が行われた。
「以上のメンバーを、被験者として提供させていただき、感情のコントロールによる統率が取れるのではないかと考えております」
5人に目を向けると
「ここまでで何かご質問などあれば」
メイソンが手をあげる。
「被験者への説明などは行っているのでしょうか?」
「行っておりません。当然のことですが今回の事は全てここにいるメンバー以外には秘匿としていただきます」
「被験者には同意書や事前の診断などが必要となる規定があります」
「そちらの心配は無用です。万が一の事があったとしてもこちらで処理し、外部に漏れることは一切ありません」
「しかし・・・」
「安心してください。詳しくは言いませんが、どんな事があっても問題にならない許可を得ております」
所長は遮るように言う。その刺すような目には余程に自信が伺えた。
「わかりました」
「では日程その他の確認事項となります」
所長からの話がおわると、オーウェンが実験手順を説明して終わりとなった。
最後に使用する部屋を確認して帰路に着いた。
「囚人を使うとはね」
ローマンはにやっと笑った。
「随分話が進んでいたのね」
あきれたといった顔でオーウェンを見ながらオリヴィアが言う。
「通常の被験者よりリスクなく出来るんだ。良いだろう」
「引き返すのは無理のようだしやるしかないな」
「そうとう上の方まで話が通っているみたいだしね」
「俺らも下手な事しゃべったら消されちまうかもな」
なぜか楽しそうなローマン。
「こうなった以上仕方がない。やれる事をしっかりやろう」
メイソンは腹を括って言った。

二部に続く

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