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『夏のアロマティカ』❺遠くて近い距離

放課後、彼は校内で小蒔を探したが、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。普段なら中庭の自動販売機付近で友達と話している彼女の姿がない。心配になり、彼は休憩中の小蒔の友人である下級生の沙織ちゃんに近づいた。

「小蒔は、今日は風邪で休んでるって。彼女がいなくて先生に聞いたら、そう言ってたよ。先輩、メール見てないの?」沙織ちゃんの声には心配がこもっていた。学校では携帯電話が授業中に管理されるため、彼はメールを見ていなかった。

沙織ちゃんが彼の横に寄り添い、彼の携帯画面を覗き込むようにして一緒にメールを確認した。

件名:⚫︎会いたいです

「風邪でダウンしてるけど、先輩には会いたい。でも、先輩の家、遠いから無理しないで。心配だから…」と小蒔からのメールが表示されていた。

沙織ちゃんは彼に期待を込めて言った。「先輩、小蒔ちゃんに会いに行ってあげたら喜ぶと思うよ!」

彼はその言葉に心を動かされ、小蒔の家に電話をかけ、彼女の母親に訪問の許可を求めた。「小蒔さんのお見舞いに行ってもいいですか?風邪が心配で…」彼の声は心配で揺れていた。

小蒔の母親は、電話越しに温かく応じた。「あら、もしかして・・。小薪の・・。もちろんです。小蒔もあなたに会えると思うと喜ぶと思いますよ」と言った。彼は安堵し、彼女の家へ向かった。

小蒔の家に到着すると、彼女の母親が彼を温かく迎え、リビングに案内し、お茶を出してくれた。彼は感謝の気持ちを込めてお茶を受け取り、小蒔の母親と少し会話を交わした。

彼女の母親は、「小蒔はちょっと熱があるのよ。でも、あなたが来てくれると聞いて、とても喜んでいたわ」と言い、「小薪のことよろしくお願いね」と言うと彼を小蒔の部屋へ案内した。

小蒔の部屋に静かに足を踏み入れると、彼女はベッドに横たわり、熱でうなだれていた。彼の姿を見た瞬間、彼女の目が驚きで大きくなり、瞬間的に沈黙した後、照れくさそうに微笑んで顔を下に向けた。

「なんで、お家、遠いのに…」彼女の声はか細く、申し訳なさと同時に、彼が訪ねてきたことへの嬉しさが込められていた。

彼は優しく彼女の手を握り、「小蒔が心配で、来てしまった。でも、無理はしないでね」と言った。彼女の頬に触れる彼の手からは温かさが伝わり、小蒔は安堵の息を吐いた。

彼らの会話が終わりに近づくと、彼は思わず小蒔に近づき、そっと彼女を抱きしめた。彼女の体は弱々しかったが、彼の抱擁は安心感を与えた。「風邪、うつしたらごめんね…」小蒔の声は小さく、彼の腕の中での安心感を表していた。

「大丈夫だよ。早く元気になってね。また一緒にピザ食べに行こう」と彼が答えると、小蒔は弱々しく微笑んだ。彼の言葉は彼女に希望を与え、二人の絆をさらに強くした。

小蒔の部屋を後にする際、彼女は「また何かあったら来てくれる?」と弱々しくつぶやいた。彼は優しくうなずき、「もちろん、何かあったらすぐに来るよ」と応じた。彼女は彼の言葉に安堵の息をつき、彼の温かさを心に刻んだ。彼女の部屋を出る時、彼は小蒔の母親に再び感謝の言葉を伝え、家を後にした。

彼女は、彼の訪問を嬉しく思いながら、心地よい眠りに落ちた。

彼は、小蒔と過ごした時間を胸に、彼は家路についた。彼女の微笑みと言葉が心に温かい光を灯し、彼は小薪の回復を心から願った。その夜、彼は自分の部屋で、小蒔との貴重なひとときを振り返りながら、静かに眠りについた。

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