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3.11から10年経つということ。

たぶん、それに意味を持たせる意味はあまりない。

10年という年月が経ったという事実があるだけ。それがあっという間かあっという間ではないかは人それぞれ。記憶が薄れている人も震災を忘れないでいてほしいと願う人も、悲しいかな人それぞれ。

私は星野源さんの『Friend Ship』という曲が好きで、変な話だけど自分がこの世を去るときのBGMにしたいと思ってたりする(こんな人いないと思う)

それはこの曲が別れの曲だと知ったから、なんだかすがすがしい気持ちで大手を振ってこの世とさよなら出来そうだから。

でもこれは、病院や自宅のベッドで安らかに生を終えることを前提とした妄想だということがよく分かる。想定外の事態に飲み込まれ、突如として命を落とすことは想定されていない。

あの日、私は職場の古いビルで仕事中だった。自分のデスクではなく、用事のあった経理部のフロアに居て、重たい分厚いファイルを抱え立っていた。揺れ始めてしばらくしてから立っていられずしゃがみ込んだ。「ついに来たか、関東大震災!」と思った。相当の揺れなのに、華奢な花瓶が微動だにしていなかった。

皆手にコートを掴み、普段使うことのない非常階段を下りた。夏には納涼祭が行われる1階の駐車場スペースにビル中の人が集まった。誰かがスマホを持っていて、車が渦に巻かれているTV映像を見せてくれた。その画はいまでも覚えている。でももしかしたらそれは、その後散々見たTV映像と混同している気もする。それでも間違いなく私はあの寒空の下、誰かの手元の小さな画面で津波を見た。

その後は、比較的すぐにパートさんたちが機転を利かし、近くのスーパーへ食料を買い出しに行ってくださったりとか、携帯が通じず会社の固定電話から実家に連絡したりとか。私は律儀に定時までは会社にいて(仕事にならないのに)、その後徒歩圏内の実家に帰った。実はその日の朝、家を出るとき、新品のヒールにするか迷って、結局履き慣れているヒールの方を履いて出勤(どっちにせよヒール)。そんなヒール姿でも徒歩50分のところに実家があったことが幸いでした。ちなみに帰宅後、余震で私のデスクの荷物が崩れ、普段なんとなく小綺麗にしているけど、絶妙なバランスでそれらが積んであることが皆にばれたのでした(どうでもいい)。

実家に着いたその晩、誰もが電力のことを理解してないゆえ、東京の人が電気の使用を我慢してみたり。我が家も暖房を節約した夜でした(福島第一原発は東北にあるけど東京の電力をまかなっていることをここではじめて知る)。

そういえば中3の時の現代社会の授業で、原稿用紙10枚分のレポートを纏めるという夏休みの課題があって。当時なぜか私は原発をテーマに選んでいろいろ調べたので、その時の知識を元に原発のニュース解説を聞きながら、なんとなく知ってる、分かるという体験もして。

数日後、ようやく横浜の自宅へ。食器が割れたり、なにかが落ちたり、どんな惨事になっているかと思い恐る恐る玄関を入ったものの、たった1枚CDが棚から落下していただけ。不思議な感覚がしたものです。

その後は、断片的な記憶がちらほら。線路の近くに住んでいたので計画停電の対象外だったり、いつも買い物をする100円ローソンからあらゆる食べ物や消耗品が消えたのに、店主の尽力によるものなのかスパゲッティだけが大量に売られていたり。買い占めるなという報道がされているのにトイレットペーパーをたくさん持って歩いている人を見かけたり、放射性物質は花粉と同じように叩いて落とせとか、親戚は長野に避難するけどおまえはどうする?と親に尋ねられたり。

首都圏に居て、幸い親族も知人も被災することもなかった私の当時はこんなもの。それでも淡々と異常が続いた日々だった。不穏だった。心がざわざわしたままだった。そのときのどの思い出も灰色でしか思い出せない。きっと青空の日もあったはずなのに。

10年。その間私は、仕事を辞めてフリーランスになった。通信制の芸術大学に通ったり辞めたり、大学院に通ったりした。住まいも、その当時住んでいた家から引っ越し、さらに引っ越して今に至る。加えてこのコロナ禍は、東日本大震災に匹敵するほどの、また別角度からの精神的脅威。めまぐるしい。

3.11のことは一生呆けるまで忘れない。当時の鮮明な記憶や感情をそっくりそのまま抱え続けることは難しいけれど、完全に消えることも決してない。ガラスに付いたキズは、時間とともに滑らかな表面になるけれど、くぼみはずっと残り続ける。

とはいえ私同様に、3.11の被災者でもなく、その親族や知人でもない者としての震災への向き合い方も、人それぞれ。

ここからまた10年後。あの日から20年、という特集が組まれるのでしょう。そのとき私はどのように思い出すのか。どういう心境でいるのか。一人一人の10年がまた始まってゆく。


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