優秀だねぇ
父親が、テストを持ち帰ってきた。
大きな花丸のついた、満点のテスト。
……今日は、漢字の書き取り。
ふふ、一文字一文字、丁寧に書いている。
ほう、かなり難しいものもあるな。
へぇ、これでぼんぼりって読むのか。
「お父さんは優秀だねぇ」
「そおかい?」
ニコリと笑う父親をみて、テストを見せたことがなかった自分を思い出した。
父親が、テストを持ち帰ってきた。
大きな花丸のついた、満点のテスト。
……今日は、算数の問題。
ふふ、一行一行、丁寧に解いている。
ほう、かなり難しいものもあるな。
へぇ、ここで方程式を使うのか。
「お父さんは優秀だねぇ」
「そおかい?」
ニコリと笑う父親をみて、出来の悪いテストを握り潰した自分を思い出した。
父親が、テストを持ち帰ってきた。
大きな花丸のついた、満点のテスト。
……今日は、イラストが描いてある。
ふふ、一色一色、丁寧に塗っている。
ほう、アニメキャラクターか、かなり攻めているな。
へぇ、オリジナリティのある配色、なかなか良いね。
「お父さんは優秀だねぇ」
「そおかい?」
ニコリと笑う父親をみて、自分の絵を見せたことがなかった過去を思い出した。
父親の通うデイサービスは、わりとこうした紙類をお土産に持たせてくれる。
通い始めたばかりの頃は、持ち帰って来ていることを知らなかった。
―――なに捨てたの?
―――うん、いらないやつだでな
父親は、ポケットに入れて持ち帰ったテストを、帰宅早々ゴミ箱に入れていたのだ。
―――うわ、スゴイ!満点だ!こんなのなかなか貰えない!流石だねぇ!
―――はは、まあ、なあ…
拾い上げたモノを広げて、少々はしゃいでしまったからか……、父親はテストを毎回必ず見せるようになった。
毎回毎回、必ず満点。
毎回毎回、必ず照れる。
毎回毎回、必ず笑う。
―――勝さん、テストの時間になると自主的に移動されるんですよ!
―――丸付けを見に来てニコニコしてましてねぇ…
少なからず、父親の中で、テストを私に見せるという行為が楽しみになっているようだ。
感情や知識を無くしがちになるこの年代で、きっといい刺激になっているのだろう。
テストというのは、子供が親に見せるものだとばかり思っていたけれど。
親が子供に見せるパターンも、あるのだな。
私には、テストを見せた記憶がないから、正しい褒め方がわからない。
私には、テストを見せたいと思った経験がないから、何を言えばいいのかわからない。
だから、毎回毎回、満点のテストをもらっても……気の利いたセリフが返せない。
「お父さんは、優秀だねぇ」
ニコニコしているから、たぶん間違ってはいないのだろう。
ニコニコしているうちは、たぶん大丈夫なのだろう。
「そおかい?」
私は、すっかりマンネリ化した会話をしながら、父親に笑顔を向けた。
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