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娘とサシ飲み

「ねえねえ、今日のお店、イイのあるかなー?」
「さあねえ…お父さんおススメだから微妙なんだけど…まあ、とりあえず行ってみるべ」

 ずいぶん寒さが身に染みるようになってきた本日、仕事帰りの娘と共にいそいそとお出かけなど。

 目的地は……、近所の居酒屋である!

 お酒を飲めるようになった娘は、ただいま自分のナンバーワンアルコールを探す旅に出ている真っ最中なのですよ。チャンスを見つけては居酒屋に行って、いろんなカクテルとの出会いを楽しんでいるのだなあ。

 このところ、娘の仕事が休みの日の前の日は、徒歩圏内のお酒の飲める飲食店に出向くのがブームになっていたりする。いつもは旦那と息子もいるんだけど、今日はミニテニスに出かけていて、不在。帰りに回転寿司を食べてくるんだってさ。という事で、酒を飲めない旦那と息子チームと、酒をがぶがぶ飲む私と娘チームで別れて晩御飯をいただくことになったわけでありまして。

 まあ、たまにはこういうのもいいんじゃないの。

「いらっしゃいませ~!」

 今日のお店は、鉄板焼きが自慢のアットホームな居酒屋。

 旦那がオヤジの会の打ち上げで来たときに、やけにドリンクメニューが多くて印象深かったらしい。その話を聞いた娘たっての希望で、徒歩30分かけて乗り込んできたのである!

 ビールや日本酒、ワインなどはあまり好まない娘は、若者らしく口当たりのいいカクテルを好んでいるのだけれど、なかなかアルコールメニューの多い店がなくて少々難航中だったりするんだよね。バーとか、お洒落なところに行くべきだと思うんだけど、本人がそんなハイレベルな場所には行きたくないというので、近場の大衆居酒屋を巡っていたりするのだなあ。
 ぴちぴちの若者だというのに、どこかおっさんくさい感じがするのは私の血を濃く引いているからなのかしらん……。窓際の席に通されて、メニュー表を見ると…うん、たしかに結構ずらりとカクテルメニューが並んでいるぞ……。

「じゃあ、ドリンク先に伺いますー!」

 陽気なお姉さんがやってきたので…とりあえず目に付いたカクテルを注文しておく。

「ええとー、スクリュードライバーと、シャンディガフお願いします。」

 一杯目はいつも私が適当に決めている。
 通常飲み会といえば私は基本熱燗一択なのだけれど、今は娘の知見を広げるため…いわば己の欲よりも娘のことを思うが故の選択をせねばならない。
 娘が飲んだことのないカクテルを注文するのが私&娘組合の飲みルールとなっているのである!私はアルコールならマッコリ以外は何でも飲める口なので、娘最優先でってね。

「スクリュードライバーって何?飲めるやつ?シャンディー?ちょ、これビールって書いてあるじゃん!あたしビール嫌いなんだけど!」
「スクリュードライバーはオレンジジュースのやつで、シャンディガフはビールだけど甘くておいしいオシャンのやつだよ。」

 地味にカクテルを飲むのもずいぶんぶりで、何を隠そう自分が結構楽しんでいたりするのだな。

 アルコールメニューをじっくり見ながら、遠い若者時代に思いをはせる……。

 大学時代、それなりに友達と飲み歩いていた私は…それはそれは無茶な飲み方をしていた。ちょっとした繁華街が通学駅近くにあったことも幸いし、週に一度くらいのペースで飲み会をしていたのだなあ。
 ご飯のおいしい居酒屋、一般的な居酒屋、カクテルがたくさんあった多国籍料理店、チェーン店……どこもわりと安価で、気軽に顔を出していた。

 特にお気に入りだったのは多国籍料理店で、ここは100種類のカクテルが飲み放題だった。カクテルメニューは毎月変わり、そのたびに来店してはみんなであれがうまい、これがまずい、いろいろ談義しながらお酒の味を覚えて行ったのだ。

 ちーちゃんはいつもカルアミルクを飲んでいて、まあちゃんはいつもサワー系を飲んでいた、たかさんはいつも日本酒をがっつり飲んでいて、えりちゃんは派手なのが好きで、ふう君は名前で選んでいつも失敗していて、せいさんは変なのばかり飲んでいた……花火の刺さったカクテルが出てきた時は大はしゃぎをしたんだよねえ。

 そして私はというと、色合いだけで選んで時に大喜びし時に大失敗して……うん、楽しかった思い出しか残ってないぞ!
 上司や腹立たしい同僚のいない、仲良しと飲む酒の美味かった記憶しかない。ああ、若かりし頃の素晴らしき思い出よ…。

「お待たせしましたー!こちらシャンディガフです、こちらはスクリュードライバー!じゃあ、ご注文伺いますねー!」

「ええと、チーズフライと、スタミナジュウジュウ、豆腐ステーキをください。」
「あ、あたしサイコロステーキ食べたい!」

 つまみを頼んだあとは、酒を飲み飲み、カクテルメニューをじっくりと見る。

「なにこれ、オレンジジュースじゃん、うまいうまい!これ好きだわ!」
「うーん、スクリュードライバーってもっと濃かった気がするんだけどなあ、…こんなもんか……?」

 確か、アルコール度数が高いから、ナンパな男子が可愛い女子にどんどん飲ませてなんちゃらという話があったようなイメージがあるんだけどなあ。……まあ、私は自ら進んで飲んでいたという悲しい過去がですね。

「ちょ、シャンディガフうまっ!!あたしこれならビール飲めるわ!!え、これ何入ってるの??」
「え、何入ってるんだろ、聞いたことある気がするけど何だったっけかな???」

 大昔に説明書き付きのメニューを見て飲んだ記憶はあるが、果たしてその内容がどんなものだったのかはすっからかんに消えてしまっている。所詮酒のプロではないその場のノリでおいしく飲むだけのただの人、知識は蓄積されていないのだなあ。
 ちょっと悔しいので、スマホで情報を調べてみる……。メニュー表には、ビールを使ったカクテルであるとしか書いてないんだよね……。

「ビールにジンジャーエールが混ざってるんだって!ああー、言われてみれば確かに!」
「うわ!そうなんだ!帰りにジンジャーエール買って帰ろう!これうまいわ!!うーんぐびぐび!!」

 普段ビール嫌いを豪語している娘が機嫌よく飲んでいる。帰りにジンジャーエールを買うのはいいけど、とっておきのビールを飲まれる可能性が!!!

「次何飲む?結構色々あるなあ、有名どころ飲んどこうか……。」
「あたしわかんないからお母さんに任せるわ!」

 ギムレットにマティーニ、ショートカクテルはちょっとまだ早そうだ、ダイキリ…はこの前フローズンで飲んだな、モスコミュールは飲んでおくべきか、でもこれは缶でも売ってるからなあ、しかもジンジャーエールかぶりだ、ソルティドッグもうまいけど娘はグレープフルーツが好きじゃないからなあ、でも塩がついてるのを見せておきたいぞ、マルガリータってどんなんだったかな、サイドカーも聞いたことあるな、マンハッタンってお洒落なやつだよね、うーん、グぬぬ、丸投げされると…種類豊富だと逆に悩むな……。

「カシスオレンジは飲んだんだよねえ、レッドアイはやだったんだっけ、サワー系は別にいいよね、いつでも飲めるし!」
「ピーチウーロンにしようかな、チャイナブルーもキレイだね、飲めなかったら飲んでね!」

「おまたせしましたー!チーズフライと豆腐ステーキでーす!」
「ありがとう、えっと、追加注文いいです?ピーチウーロンとチャイナブルーお願いします。」
「あとお水もらっていいですか?」
「はーい!」

 アツアツのつまみを食べながら、グビリとグラスのカクテルを飲みきる。うーん、ここは飲み放題がないから、大概の所でとめておかないと資金的な問題が…まあ、旦那がいないからフード代金が半分以下だし多少はいいか。

「あ!!それあたし最後飲みたかったのに!も~、お母さんはすぐに飲み干す!!」
「だって酒は鮮度が命じゃん!出てきたらすぐに飲まないとダメじゃん!別の頼めばいいじゃん!味見が第一なんでしょ!!」

「お待たせしましたー!ピーチウーロンとチャイナブルーでーす!」
「えっとー、テキーラサンライズと雪国ください。」

「ねえねえ、雪国ってナニ?!あたし日本酒とか飲めないけど!!」
「スノースタイルの…ショートカクテルだよ、すげえ濃いけど、まあ、見といて損はないかも?日本酒ではなかったはず…ほら、ウォッカベースって書いてある。」

「ショート?ロングとかもあるの?あたしたくさん飲めないかも!」
「ショートってのはぐびっと飲むちょっとしかないやつで、一般的にはアルコール度数が高い感じだね。ロングってのは氷がいっぱい入ってるやつのことだったかな?チューハイとかもロングカクテル?になるはず…詳しい事は知らなんだけど。」

 私自身はあまりカクテルに詳しくないので、適当な知識を披露しつつ、来たばかりの新鮮なドリンクをグビリ…うーん、チャイナブルーってこんなうっすらとしたライチだったかしら…もっとこう、こってりとライチライチしていたような気がするんだけどなあ。ピーチウーロンはケイちゃんが好きだったやつだな、私は甘くてあんまり好きじゃなかったんだけど。

「ピーチウーロンウマっ!!今度飲み会行ったらこれ頼もう!!」

 娘はケイちゃんタイプか…そう言えばカルアミルクも好きだもんなあ、ベイリーズミルクとかも好きなんじゃなかろうか。…この店にはないけど、いずれ飲ませて差し上げねばなるまい。

「お待たせしましたー!スタミナジュウジュウとサイコロステーキでーす!」
「テキーラサンライズと雪国でーす!」

「うわ!何これ!オサレなやつキタ――(゜∀゜)――!!」
「雪国はね、グラスのふちに砂糖がついてんのさ。ソルティードッグは塩がついてるんだよ。こういうのをスノースタイルって言うんだよ。きついからちょびっとだけ飲んでみ!」

「……甘い!辛い!!ちょ、これあたし無理だ!!うーん、こっち飲もう、何この変なの!!」
「度数強めだからねえ…じゃあ、私がいただこう、うーん、ぐび、ぐび……。」

 久々に飲んだな、雪国……これは確か梶ちゃんが飲んでべろんべろんに酔っぱらったんだよ確か……。アパートまで送り届けて帰りが終電になって大変だったなあ……。

「うーん、甘い!これ混ぜていいの?」
「いいんじゃない?私は気にしないでそのまま飲んでたけど。」

 この店のテキーラサンライズはオレンジがついてこないのか。バーじゃないからそういうオシャレ演出はしないのかな?久美ちゃんが見たら怒りそうだな、あの人はフルーツの乗っかってるカクテルばかり飲んでいて……。

「サイコロステーキうま!!どうしよう、おにぎりも頼もうかな?」
「今日はお父さんも弟もいないから君好きなだけお食べなさいよ。多少食べてもいつもの半分以下の値段になるでしょ、ぐび、ぐび……。」

「そうだね!!じゃあ…スミマセーン!!おにぎりセットとチーズピザ、シーザーサラダに焼き鳥盛り合わせ、炙りホルモンくださーい!あと、カルピスチューハイ下さい!」
「はーい!」

 いつも娘はカルピスチューハイを頼んで終わりにしている。お酒探しを終えて、食事に移行したらしい。こんなに頼んで食えるのか…まあ、私が何も頼まなければ、大丈夫かな?じゃあ、私もそろそろおしまいにするか。

「ハイボール下さい。あとウーロン茶を一つ。」
「はーい!」

 私はハイボールで〆ると決めている。脂っこいものが多いので、ウーロン茶も頼んでおこう。今日は旦那も息子もいないから、頼んだ物は自分たちだけでおなかの中に納めなければならない。戦うための準備が必要だ。

「ここけっこういいね!!飲んだことのないカクテルまだめっちゃあるじゃん!また来よう!!」
「そうだね、ごはんもおいしいし、また来週休み前に来るか!」

「はーい、シーザーサラダでーす!カルピスチューハイとハイボール、ウーロン茶でーす!」
「はいありがとう!」

「はい、おあとおにぎりセットとチーズピザ、焼き鳥盛り合わせに炙りホルモンです!」
「ありがとーございまーす!」

 ハイボールを一口飲んで、サラダに手を伸ばした、その時。

「あ、いらっしゃいませー!なに、今日は息子さんと一緒に?」

「ううん!かみさんが…あ!!いたいた!!も~ちょっと聞いてよ!!回転寿司さあ、きょう臨時休業なんだって!!プンプンだよねえ!!」
「おなかすいた。」

 なんか、見覚えのある太い人、キタ――(゜∀゜;)――!!
 後ろから息子もキタ――(゜∀゜;)――!!

 狭苦しい四人掛けのテーブルに、でかすぎる体をねじ込ませる人が!!!

「もう!!お父さん狭い!!ちょっと!!あたしのサラダ!!アアア!最後のステーキ食べた!!!」
「ちょ、なに、なんで来た?!もううちら帰る所だよ〆の飲み物も頼んだし
「もぐもぐああそう?むしゃむしゃ大丈夫、すぐ注文して全部食べるから!んぐっ、スミマセーン!海鮮焼きそばと土手飯、大盛りからあげ丼に白子ポン酢、豚角煮にせせりと白ねぎの黒胡椒焼きと牛タン厚切りステーキね!ああそうだ、コーラと黒ウーロン茶、アイスコーヒーフロートも!」
「キノコバターと大盛りご飯をください。お水も欲しいです。」」

 みるみるなくなっていくテーブルの上の料理!!!

「いやー!運動した後は食が進むわ!!あ、最後のやきとりもーらい!」
「ピザ食べていい?」
「ちょっと!!あたしの分!!も~、追加注文していい?!」

「ちょ、あんま頼むな!財布、財布の中身がヤバイ!!」

「はーい!まずドリンクでーす!コーラにアイスコーヒーフロート、黒ウーロン茶にお冷、お次がタラ白子ポン酢!」
「お待ちでーす!豚角煮、土手飯、大盛りご飯ね!」

 次々運ばれてくるうまそうな料理!!

「スミマセーン!ウーロン茶とポテトチーズ焼きください!」
「ええとね、僕おススメ刺身盛り合わせ欲しいな!」
「だし巻玉子をください。」

「もうやめてよ!!明日のご飯買うお金が!!」

「大丈夫大丈夫!!明日は具なしのカレーでいいからさ!!!」
「そうめん茹でてもいい。」
「じゃあ明日の分も食べとかないと!!」

 予定外にですね?!

 財布の中身をすっからかんにしてしまった、かわいそうなお母さんがいたというお話ですよ……。


カクテルってだいたいどれでもうまいんですよ♡


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