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2000文字書く秘訣

 うららかな春の陽気が漂い始めた水曜日…仕事を終えて帰宅した私の目に映ったのは、やけにどんよりした表情の息子の姿。

 リビングのテーブルで、えも言われぬ表情のまま、じっと手元を睨んでいらっしゃる…これはいったい。

「やあやあ、ただいま、なんだね君は、何をそんなにまんじりともせず固まっているのですか!何があった、さあ言いなさい、今すぐ言うのだ!!」

 普段口数が少なすぎる息子は、こちらから声をかけなければ一向に胸の内を口に出してはくれない。少々強引に気持ちを引っ張り出さねばいけない場面が、ボチボチたまにわりとあったりするのだ。

「創作の宿題が難しい。」

 手元のプリントをのぞき込むと…学校のグラウンド、教室で友達に声をかけられる子供、ショックを受けている表情、鉛筆…のイラストが描かれている。

 ナニナニ…イラストを見て連想したお話を書きましょう、起承転結を意識してみましょうだと!!しかも…渡された原稿用紙は…五枚!!!むう、超絶国語…特に作文が苦手な息子にとって、これはかなりきつそうな案件!

「三行しか書けない。」

 手元の原稿用紙をのぞき込むと…なになに、題は「やらかした」多少前衛的だな、真面目な先生だと指導が飛んできそうな気が…いや、私は好きだぞ。題の横は名前、その横は…「どうしよう…。」フウム、会話文から始まる物語、いいんじゃない?

「そうだな、出だしはオッケーだね、何、どんな話が書きたいのか言ってみ!!」

「わからない。」

 おうふ。即答、キタ――(゜∀゜)――!!…この人はたいがい真面目だからな、わりと考えすぎて文字にならない部分もあるんだよ。言葉こそ少ないが、けっこういろいろと複雑な事を考えていて、時々とんでもない提案の元すげえアイデアで問題解決するようなところもあって……そうだな、緊張を溶きほぐしてヒントを与えるとよろしかろう!!!

「じゃあ何書いていいかわかんないって物語をかけば?物語なんてのはね、ああしなきゃいけないとかこうあるべきとか、そういう一般常識に囚われてては書けないんですよ、文字を自由に繋げば、いつの間にやら愉快な物語になってたなんてことはざらにあるんだよ、まあ、そう難しく考えとらんと気軽に思った事書いていけばいいじゃん!」

「2000文字が多すぎる。」

 ほうほう、文字数の多さにビビってしまって、何も書けなくなってる感じですかね!そうだなあ、2000ってわりとすごい数だもんね、0なんかえらそうに三つもついちゃってさあ!うまい棒のお菓子だったら200個も買える金額だもんなあ、200本一気に食ったら腹いっぱいだもんねえ、そりゃあ戸惑う事もあるでしょう!!

 …だがな!!文字数は、物体ではなく、たかだか文字数なのだ!!!文字なんてもんはね、テクニックを使えばあっちゅーまに克服できるもんなんですよ!!!よーし、ここは日常的にへっぽこな物語を書いている私がじきじきにアドバイスをして進ぜよう!!

「あのね!!いいこと教えてあげる!!2000文字って思うからビビるんだよ!!例えばさあ、五十音!あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをんって書いたら46文字消費すんのさ!さらに、がぎぐげござじずぜぞだぢづでどばびぶべぼぱぴぷぺぽを追加したら25文字増えるでしょ、カタカナを追加したらさらに倍!!つまり、これを有効活用すれば2000文字なんて楽勝なの!!」

「よくわからない…。」

 息子は何やら困惑した表情をしている。なんだ、豊かな感情を気軽に外に出す素直な子供だな!けっこう、けっこう!!

「そうだな、じゃあ、主人公が困ってる話にすればいいんじゃない?!どうしよう、あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるまで書いたけど、えんぴつのシンがおれちゃった、これじゃあ、れろわをんがぎぐげござじずぜぞだぢづでどばびぶべぼぱぴぷぺぽアイウエオカキクケコサシスセソタチツテトナニヌネノハヒフヘホマミムメモヤユヨラリルレロワヲンガギグゲゴザジズゼゾダヂヅデドバビブベボパピプペポが書けないよ!って感じの話にしたらさ、カギカッコ多めに一言一言つぶやくようにすればあっと言う間に原稿用紙埋まるって!!」

 息子は口を開くことなく、何やらおかしな表情をしている。なんだ、見ていて愉快な子供だな!かわいいじゃないか!!

「違うのがいい。」

「じゃあ、わかった!!あれだ、パイポパイポのぐーりんだい的な奴にすればいいんだよ、よーし、主人公の名前は『がぺぎごぢががぽだだびぎぼをぷぞづげぶぞべざろごぜわろじぺれべぐぐぐびぷぜどぷござじばれごどでづがぽぢれびぴぽろづげぐわずぜどぷぐずがぐぎでんぎぺずげぱぴどじべどじげどんぴでがぎをぎがだぎぜげざぴがで』にしよう、これなら名前呼ぶだけで100文字でしょう、友達を十人出して、みんなに呼ばせたらそれで2000文字の物語は終わるよ、やったあ!!ええと、まずまさお君ががぺぎ(略)の落としたえんぴつを拾うでしょ、で、これがぺぎ(略)の?って聞くでしょ、で、がぺぎ(略)が違うって答えてるところによしひろ君がやってきて、がぺぎ(略)外に遊びに行こうぜって誘って、がぺぎ(略)がいいよって言って、一緒にグラウンドで遊ぶでしょ、で、サッカーボールが変な所に飛んでって探してたらまりこちゃんがやってきて、がぺぎ(略)君一緒に探すよって言ってくれて、れい君もさなちゃんも三田君も先生もやってきて、最後に転校生のはるお君が名前を呼び間違えて、がぺぎ(略)がショック受けておしまい!よーし、これで軽く5枚越え!!!」

 息子は何やら眉間のあたりに深い皺を…どうした事だ。

「…ありがとう。」

 どうやら息子は私のアドバイスを受け、作文に向き合う事ができたようだ!さすがだな!

 安心した私は、晩御飯の準備をするべく、キッチンに向かいましてですね!!!

「作文、返ってきた。」

 息子が何やらニコニコとして帰宅し、私に差し出したのは…おお、五枚の原稿用紙。ははーん、さてはこの前の作文のやつだな!

「どれどれ、見せてみなさい、君はいったいどのような物語を書いたのかね!!」

 丸っこい体に似合った丸っこい文字が、やや几帳面ではあるがわりと散らかった感じでマス目に埋まっている…うん…?

 やらかした 5-3 はるかわしゅん
「どうしよう・・・。」
 ぼくは、机の上でげんこう用紙を広げて困っていました。
 ぼくの目の前には、五枚のげんこう用紙があります。何も文字が書かれていません。今からぼくは、ここに、物語を書かなければいけないのです。
 ぼくは、おもしろい物語を書きたいと思う。でも、書けないです。どうしてかというと、ぼくの考えた主人公の名前は長いからです。
「うあえおあけそきあおくおあえきすえくこけそすえしささすあいさうあかそかおそえこそいいこけここかうききせくおさそあえううこそせうきくうあこくきおうすここあけこすそくえすそえかえあこうおくこうくくくえうそ」
 それが、ぼくの考えた主人公の名前です。百文字もある名前は、名前を書くだけで五行も使ってしまうのです。
 長い名前の持ち主ですが、少し気が短くて、いつもクラスメイトとけんかをしてしまうのが、玉にきず。正義感は強いほうで、給食のミルメークが好物です。とくいな教科は算数で、社会の授業があまり好きではありません。
 すごくいい案がたくさんうかんでくるのですが、名前だけでたくさん場所を取ってしまうので、物語が書けない。ぼくは、ふしぎなえんぴつを拾って、それと使ってすごいぼうけんに出る話が書きたかったです。母が、長い名前の主人公にしたら面白くなると教えてもらったので書きたくなりました。
「うあえおあけそきあおくおあえきすえくこけそすえしささすあいさうあかそかおそえこそいいこけここかうききせくおさそあえううこそせむきくうあこくきおうすここあけこすそくえすそえかえあこうおくこうくくくえうそ」が、友達から声をかけられる場面を書こうと思ったのですが、くわしく書くとものがたりが短くなるので書きません。たくさん書きたかったです。
 ぼくは、選択をまちがえてしまったのでしょうか?ぼくは、主人公が友達といっしょに休み時間にグラウンドに出て遊んだり、えんぴつで書いた物語が現実におきておどろく話が書きたかったのです。こんなことなら、名前は短くすれば良かったと思いましたが、長い名前であることが面白い部分だと思うので、仕方がないです。
「うあえおあけそきあおくおあえきすえくこけそすえしささすあいさうあかそかおそえこそいいこけここかうききせくおさそあえううこそせうきくうあこくきおうすここあけこすそくえすそえかえあこうおくこうくくくえうそ」が、さいごにえんぴつが折れてショックで落ち込む様子まで創造したのに、残念です。
 ぼくはいつか、作文が得意になったら、このお話の続きを書いてみたいです。
「うあえおあけそきあおくおあえきすえくこけそすえしささすあいさうあかそかおそえこそいいこけここかうききせくおさそあえううこそせうきくうあこくきおうすここあけこすそくえすそえかえあこうおくこうくくくえうそ」一人だけでは、話がすすまないので、親友の「てヌヤベデぎべぱへぞぶきぃてめらいノなぶほカジジロぬトぁチぉベすぁぬこりをゥパぷじミウギプぞなぽぞるじしぬずンハかシじおシびべすんかすべまごメヌぬらせガばほじんルぁきネベピぎジないぉざひぺボぃぷクさね」とけんかしたり、仲直りしたりするところも書こうと思います。
 ぶじにげんこう用紙五枚書けてよかったけど、物語にはなっていないので、ぼくは「やらかした」と思いました。でも、起承転結は、書けたと思っています。

 ……。

 …まあ、うん、あれだ、宿題は提出できたんだから、良かったねって…ことで。

 原稿用紙の五枚目、空いたマスの所に先生の花丸マークと…書評が書いてあるぞ……。

 ―――お母さんに宿題を手伝ってもらえてよかったね!とても面白いお話でしたよ!ちゃんとオチがあって、起承転結を意識してがんばったんだなと思いました。でも、二回目に主人公の名前が出てきた時に、まちがえているよ!今度書くときは主人公の名前は間違えないようにしようね!

 ええ?名前が間違ってる?どこが!!こんな細かい自由奔放な文字、よくもまあ細かくチェックできるな…。自分なら流し見案件だ、間違いなんか微塵も気づかなかったに違いない。

 ……。

 …先生って、偉いね。きちんと…文字を一文字一文字チェックしてるとか…心なしか、赤い文字が輝いて見えるんですけど!!
 プロはさすがだな……。私には絶対できそうにない、いや、できん!!

「わりとほめられた!!」
「それは……重畳」

 ……真面目な息子は、ご丁寧にこの作文の事を覚えておりましてですね。

 その後、中学で入ったパソコン部で、タイピングの練習ついでに物語の続きを書き始めたのだから恐れ入る。
 しかも、きちんとした段落に不自然のない会話、文字数を稼ぐような姑息な真似をしない、実に物語に重きを置いた素晴らしい作品をですね。……ふふん、私の子だけあるな!!

 今ではともに創作論をかわし合う、いい親子関係を築き……。

「ねえねえ!!世界の王になれる呪文がさあ、唱え切るまでに85年かかるって話考えたんだよね!!ラスト唱え終わったとたんにご臨終パターン楽しそうじゃない!!起も承も転も結もない話っていけそうだよね?!ああー、でもみんな考えつくかな、もう書かれてるかも?!どう思う!!!」
「…面白いけど、誰も見ないかも?」

 このところわりと塩対応を喰らっている私がいるという、お話なんですけれどもね……。 

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