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レベルアップ

俺には秘密がある。

実は、異世界転生して、帰ってきた?のだ。

転生して、きっちり世界を救い、創造神に感謝され。
無事寿命を全うし、この世界へと再び生まれてきたってわけさ。

俺はさ、普通の人生を送ればいいって思っていたんだ。

今まで相当チートの恩恵を受けてだな。
それによってずいぶん弊害もあってだな。

平和なこの世で、ごく普通に生きていきたいと願って生まれてきたって訳なんだけども。

…あの創造神、やりやがった。

生まれたときに、きっちり前世の記憶が残ってやがった。
ステータスウインドウが、残ってやがった。

あかん…普通に人生が送れる気がしない。

俺は生まれ落ちた瞬間、分娩台のライトの光の眩しさに目を細めながら心底落ち込んだ。

…俺は極力普通の人であり続けるためにだな。
…努力を始めたわけだ。

俺は微妙に能力を持っていた。

一つ、ステータス確認ができる。
二つ、並行思考能力を持っている。
三つ、ステータス閲覧ができてしまう。
四つ、ステータスを持つものが見えてしまう。

俺のステータスはこうだ。

藤吉光義(26)
レベル1

スキル
ステータス閲覧
並行思考Ⅴ

俺のスキルはいわゆる、パッシブスキルというやつだ。
生まれた時からやけに気が散りやすいと思ってたんだが、どうやら並行思考のせいらしい。

…なんでレベル1のくせに、並行思考Ⅴ?!
頭おかしいんじゃないのか!!

同時に複数の物事を考えることができるのだが、微妙におつむの程度が低いせいであまり恩恵がない。
むしろ弊害の方が大きいような気がする。

また厄介なのがステータス閲覧だ。

存在するものだけでなく、ステータスを持つものすべてが見えてしまう。
…いわゆる、肉体を持たない存在なども見えてしまうのだな。

齢0歳にして、俺は霊能力者だよ!!
齢3歳にして、俺は除霊師デビューだよ!

おかげで、おかしな連中と接点ができてしまった。

見えるだけでこの仕打ち…、俺はごく普通の生活を望んでいたはずなのに!!…あの創造神、いつかぎゃふんといわせてやる!!!

「やあやあ、ちょっとお手伝いとかしてみませんか、あのね、悪霊退治なんですけどね!いかがですか、徳たまりますよ!!」
「やだよ!!俺はただの人であってだな!!」

ああ、また出たよ…この一見黒い人…。

すんげえレベルですんげえステータス持ってるくせにさあ、こんなレベル1の冴えない俺の前にいっつも現れるんだよ!!

……はよどっかいけ!!!

俺は金輪際ヒーローにはなるまいと決めてだな!
レベルなどあげてたまるかと、常日頃から願っていてだな!
努力のかいあって、齢26にして未だレベル1をキープしていてだな!
レベル2になったとたんにチート出現とかしたらたまったもんじゃねえんだよ!!

俺は、俺は…普通に人生を終えたいんだよ!!

「まあまあ、いいもんもって生まれたんだから、ちょっとぐらい使ったらいいんですよ。」
「ちょっ…!!俺はやだって言った!言ってんのに!!」

俺は予定外に黒いおっさんに連れられて、除霊ちゅーもんをだな!やらされる羽目になってだな!!

くそう、いっそのことレベル上げてこの黒い奴に立ち向かった方がいいのか…?

いや待て、レベルを上げるには経験値を稼がないとダメだろ、この平和な世の中で経験値を稼ぐとなると…。

あかん!詰んでる!!

この世界で命を奪うという行為は…あまりにも無謀すぎる!!
いや待てよ、アリとか大量に潰したら…いやいや、やめておこう!!!

「いやあ!この塩なんですけどね!!とある奥さんが地元の海の水を使って作った塩でしてね、これを振りかけたらとある怨念が昇天するんですよ、でもねえ、なかなか引き受けてくれる人いなくって。頼みますよぉー!」

ぶわっと風が吹いたので目を開けると、目の前にはやけに汚い海が広がっていた。…なんだかなあ、海ってこんなに汚いのか?ペットボトルにお菓子の袋、おいおい自転車まで捨ててあるぞ…。

黒いおっさんから塩の袋を手渡される。

どこに撒くんだとあたりを見渡したら、テトラポットのあたりに…うわあ、なんかいる。

「はあ、これふりかけたらいいの?こんなんそこら辺のおっさんに頼んだらいいじゃん…。」
「そこら辺のおっさんには私の姿は見えないわけですがね。まあいいじゃないですか、人助けと思って、はい。」

仕組みがよくわかんないけど、黒い人は人じゃないからできる事に制限があるらしい。普段スッパスッパと魂刈ってるのを見たり、パックパックと黒い靄を食ってるのを見てるとだな、お前それ絶対嘘だろうって突っ込みたくなるんだけどさあ…。

俺が塩を振りかけると、ぼんやりした何かが、スウと消えた。

「なんだい、ありゃ。」
「ああ、無事上って行けたみたいですね、ありがとうございます。」

・・・ちゃりゃりゃりゃったらーん!!

―――藤吉光義はレベルが1あがった!
―――レベル2になった!
―――並行思考Ⅳ、同時に考えることができる範囲が縮小した。

「なんだ、これは!!」

あ、頭の中で前世で嫌というほど聞いたレベルアップ音がああああああ!!!

ちょ!!俺今何した?!除霊した!!ちょっと待て、除霊するたびに経験値がたまっていたのか?!

「あれ、あなた…レベルが上がったみたいですね。」
「上がった?!下がったんだろむしろ!縮小って!」

黒い人が俺を凝視している。
このおっさんの目にはより詳しいステータスが見えているに違いない。

「マイナス1、プラスされたんですよ。成長ですからね、上がったというほうが正しいのでは?フウム、あちらの世界の神様も偉く粋なことをなさる…。」
「粋?!ふざけんな!!はじめっから並行思考なんて持たせなきゃいい話じゃん!!これってさ、このままレベルあがったらいつか並行思考ゼロになって、なんも考えられなくなるパターンじゃないの?!」

ちょっと待て、俺は今までどれくらい除霊してきた?!今後は除霊しない方がよさそうだ。ある日いきなりレベルが上がって…すっからかんにものを考えられなくなる可能性が高い!!

「良いじゃないですか、その頃には何も考えずにスッとこの世からおさらばできますね!」
「だから!!俺はごく普通の人生をごく普通に終えたくて!!畳の上で孫たちに囲まれて大往生したいんだよ!!臨終の間際まで全世界で実況中継されて死後もはく製になって大聖堂に飾られる人生なんか嫌なんだよ!!うわあああマジか!!勘弁してくれ!!」

俺は嫌だ!!生き恥どころか死後恥までかかされたくない!!穏やかに安らかに、愛する家族に見守られて眠りにつくことを望んでえええええええ!!!

「でも、引きこもってたら、孫につながる子孫を設ける相手が…ねえ?」
「うわあアアアアアアア!!!それ!!それを言うなああああああ!!!!」

並行思考Ⅴのせいでやけに気の散る俺はだな、落ち着きのない独り言の多いおかしな人として認識されていてだな!!それが乗じてコミュニケーション能力がやけに低くてだな!前世で高飛車な女子どもに尻に敷かれていた経験も相まってだな!!

「まあまあ!徳積んでたら、きっとそのうちいい人に巡り合えますって!そうだ、知り合いの奥さんにちょっと聞いてみてあげますよ、だからね?どうぞ、これからもよろしく!!」
「ホントだろうな!!!俺信じるぞ?!絶対紹介してくれよ?!普通の子、普通の子でいいんだ!!!大切にする!多少おてんばでもいい!メシマズでもいい!誰か、誰か、頼む!!!」

俺はついつい、黒いおっさんの首を締め上げて懇願してしまい…。

「ぐえええ!!わかりましたから!!離してください!消滅しちゃいますよ!!!」

危うく一気にレベルアップしてしまうところだった。
…あぶねえええええええ!!!

「じゃ、またおねがいしますね。」
「こ、こちらこそっ!!!」

黒いおっさんに家まで送ってもらった俺はだな。

いい出会いを期待してだな!!!

ちょっとだけ、うきうき気分で、職場へと、向かったってわけだ。

もうちょっとしたら!

俺はっ!!!!!

自然とオペレーションシステムを操作する手が踊る!

やけに仕事を順調にこなす俺は、今月のベストワーカー賞をゲットし、昇給を果たした。

資金も用意できた。

あとは、彼女と出会うだけ!

出会うだけなんだぞ!

なんで黒いおっさん、全然来ないんだ……。

ねえ。

なんでだよおおおおお!

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