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超能力の行方

俺、実は超能力あるんだよね。

まじまじ!ほんとだって!!

でもさー、なんかちょっと使いにくいっていうか。

なんていうのかな、メンドクサイ!

普通ってさ、超能力ってさっと使えるもんじゃね?

俺のはさ、使った後、めっちゃ拘束されんのさ。

いやいや、いきなり紐で括られたりはしないよ?

気持ちがね、拘束されんの。

たとえば。

優香のパンツが見たいって思うじゃん?

スカートが透けて、見えるわけ。

イチゴ柄のパンツかあって思うじゃん?

そのあとず―――っと、頭ン中をイチゴ柄のパンツがグルングルンするわけ。

あれだよあれ、ふとした拍子にさ、ヤダマ電気の店内でかかってる曲がさ、延々リピートされることってあるじゃん!アレの激しいやつみたいな感じ。

もうね、ほんとずーっと頭ン中がパンツ。

超能力ってさ、使ってるときってめっちゃ集中してんだろ?

多分、その集中力が、あとで来るっていうかさ、超常現象が先走ってるみたいな感じ?

うっかりへんなこと考えないようにする毎日を送ってんだわ、マジで!!

おかげで毎日こう、ぼんやりしてて、つまんねえというかなんというか。

今日だってほら、うっかり空がきれいだなあって思って浮いちゃったもんだからさ。

ずーっと頭ン中は青い空と白い雲なんだよね。

いやまあ、気分良かったけどさ。

拘束されるのは、およそ超能力を使った時間の二倍。

十分くらい空に浮いてたから、二十分くらいずっと青空妄想し続けてたわけだ。

ああー、なんちゅーか、もったいねえ時間だよ、集中できない無駄な時間。

周りから見たらさ、そりゃあ俺ってボヤっとしてる冴えねえ奴だって思われてんだろうなあ。


「ちょっと!!お風呂入ってきな!!」

「へいよ。」


かーちゃんもしかり。

俺の苦悩を知るものはこの世に俺しかいないというこの悲劇。

ま、ぼやいても仕方がない、風呂でも入って、何も考えずに寝るとしようかな。


ざぶーん。


ふー、いいお湯だ。温泉行きてえなあっ……て!!考えちゃだめじゃん!!


「やあやあ、ずいぶん頭ン中がごちゃごちゃしとるな、ははは。」

「なんだい、あんたは。」


変なおっさんが出てきたぞ。全裸で腰に手をやるんじゃない。ちょうどいかがわしい部分が目の高さでだな!!


ざざ、ざぶーん。


「ちょ!!お湯がもったいないじゃん!!何勝手に一緒に入ってんだよ!!」

「ふうー!懐かしす!!この広い風呂!!」


んー?懐かしい?…ちょっと待て、こいつもしかして。


「よう!俺!!」

「やっぱりの展開かよ!!」


どうやらこのおっさんは未来?の俺らしい。


「俺は未来の俺じゃないよ!なんちゅーか、世界ってのはさ、一本じゃなくて…いっぱいあるのさ。」

「なんだそれ。」


もともと考えるのは得意じゃないんだ、ぼーっとする癖がついてるからさあ。


「お前の能力はだな、今後勢い付いてくるんだ。で、23をピークに、思考と使用のタイムラグが小さくなってバシバシ能力が使えるようになってだな、世界を…救いまくる。」

「はあ?!俺が世界を救う?!」


俺はそんなヒーローじみたことしたくねえぞ!!


「俺…お前がこの能力に気が付いたのは、14、つまり今から4年前だな、そこから23までの9年間で転換期を迎える。俺は今28なんだが…能力が遅れて発動するようになってて、手に負えなくなってる。今のお前と逆だな、考え込んでから、能力が発動するんだ。もし、14の頃超能力が発現したというなら、俺の能力は間もなく…消える事に、なる。」


俺がこの能力に気付いたのは、優香のパンツ事件がきっかけなんだけどさあ。


「消えて普通の人の生活送ればいいんじゃないの。」


もともとただの気の散りやすい普通の人間なんだし、無理すんなって。


「ばっ…!!さんざんヒーローやってきた人間が今さら普通の仕事できるわけないんだって!!今じゃ空中飛行ランデブーサービスを細々とやってるんだぞ?!客が予定外に延長言い出したら落下するんだぞ?!俺のこの苦悩、わかる?!今さら超能力使わずに働くことなんて無理なんだよ!!」

「そこは諦めてちゃんと真面目に働こうよ…。」


やだなあ、俺こんな大人になるの?…めんどくさそうだな。


「お前、考えるの嫌いだろう。今のままだとな、それをしなくちゃいけない時が来るんだ。朝から晩まで如何に空中散歩の運行計画立てるかとか!!他人のラブラブ見せつけられて空中を孤独に散歩すんだぞ!!マジで地獄だぞ?!」

「彼女の一人もいねえのかよ…。」


なんでモテてたであろうヒーロー時期に行動しなかったんだよ。マジヘタレだな。俺はこうはなるまい、ぜったいなりたくねえー!!


「そこでだ!俺と、お前の能力を、相殺したらうまい事能力を定着することができると俺は踏んだ!!」

「そんなにうまくいくもんかね。」


「やってみなきゃわかんねえだろう。現にだな、俺は今日は朝から晩までずっと超能力の先走りに悩んでいた時のことを考えていたんだ。そして…ここに飛んでくることができた。それはやってみたからできたことであってだな!!」


なんで14の頃に飛ばなかったんだよ。微妙に時間がずれてるのは俺テイストなのか、それとも能力の限界なのか。…失敗する予感しかしないんだけど。


「具体的にどうするのさ、超能力の受け渡しなんてどうやったらいいのか。」

「とりあえず渡すことを念じてみて、それからだな。あとはずっと渡すことを考え続けることになるかもしれんが…予定外のことが頭の中でグルングルンするよりはましだと思わね?つか、やってくんねえとマジで俺詰むから!!同じ俺じゃん、まだ修正利く年齢じゃん!助けてくれよ!!」


おっさん…いや俺か、俺は半泣きで抱きついてきやがった!!ちょ!!!

俺だとはいえ、素っ裸のおっさんに抱きつかれるのは気分が悪い!!!


「わか、わかった!!わかったから離れろってもう!!」


ばちゃ――ん!!ばちゃばちゃ。


「ちょっとー!なにやってんのー!!」


やべえ!かあちゃんだ!!!見つかるとめんどくさい事になりそうなやつだ!!くそー、早く全部超能力持ってけよ!!俺は超能力を全部受け渡すイメージを浮かべて…。


バタ――――ン!!


勢い良くバスルームのドアが開いたとき、俺の目の前からおっさんは消えていた。


「かーちゃん!!何覗いてんだよ!!」

「ご飯できたよ!!はよ出な!!」


飯をもぐもぐ食べながら、俺はふと気が付いた。

超能力をすべて渡すことを念じたよな。そうすると、俺の能力ってのはなくなるわけで、つまりその時点で念じることに意味がなくなるんじゃないのでは?遅れて能力が発動する能力を持っているからこそ、先に使った能力について念じ続けないといけなくなっているわけじゃん。

…現に、渡したことについて頭の中でグルングルンとしていない。むしろこう…頭がすっきりとしている。

ちょっと待て、あいつ28歳の俺はなんと言っていた?相殺するとか言ってなかったか。ヤバイ、もしや相殺じゃなくて、勝手な押し付けになってやしないか?あいつ28歳の俺から遅れて発動する能力をもらわないとまずかったんじゃ。


「は、はは…ま、いっか!!」


なんかあったら向こうからまたこっちに飛んでくるだろ。


そう思いつつ、俺はぼんやりした高校生から、ややしゃきっとした高校生になり、勉強の楽しさ?を知ってだな。いやー、意味もなくぼんやり過ごす時間が無くなったのはでかいわ!!マジで!!


何とか大学に入って、研究したりして…ごくごく普通に、年齢を重ねていったわけさ。


…正直、超能力の事なんかすっかり忘れて28になったわけだけど。


「ぱぱー!」

「へいへい。」


俺はあの風呂であった俺ヘタレとは違う俺になっていたんだな。

あいつは確か未来はたくさんあると言っていた。おそらく俺はそのたくさんある未来の中の超能力を持たない道を生きている一人なんだろう。

あんまりあいつのことを考えると、また変なのが飛んでくるかも知れないからな。よし、もう余計なことを考えるのはやめよう。


「パパ、今日の晩御飯何がいい?」

「優香の作るもんならなんでもうまいけど…食材、買いにに行くか。旬の野菜食いたいな。」

「おかいものー!」


俺は大切な娘と手をつないで、夕暮れの商店街へ買い物に出かけることにした。


「あ、私も行く、ちょっと待って。」


妻は、イチゴ柄のエプロンをたたんでキッチンの椅子に置いて玄関にやってきた。


「イチゴ柄、好きだよね…。」

「え、なに?」


……いかんいかん!!余計なことを考えては!!


俺はにっこり笑って…自分のいかがわしい過去にふたをし、家族と一緒に買い物へと向かった。


なんか違う……。


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