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スティーブ・ジョブズは、なぜ川瀬巴水の新版画を最期まで愛したのか?職人魂こそが最高のコミュニケーションツールだ

東京銀座の老舗画廊「兜屋画廊」。

1983年(昭和58年)3月11日、
そこに3人組の外国人がおとずれます。

その中でもひときわ目を引くのは
よれよれのシャツとジーンズ姿の男でした。

「これから新版画を集めたいので、
いろいろ教えてください」

男が差し出した名刺にあったのは
「アップル」の文字。

彼こそがアップル創業者
スティーブ・ジョブズでした。

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1. 「浮世絵」のイノベーション「新版画」

「新版画」とは、大正から昭和初頭にかけて、
絵師、彫師、摺師(すりし)の協同作業によって
制作された木版画のことです。

江戸時代に生まれ、世界に誇る庶民文化となった
「浮世絵」も、西洋化がすすむ明治時代には
衰退の一途をたどっていました。

そこで「浮世絵」を「旧版画」として、
版元である渡邊庄三郎を中心に
新しい時代にあった版画芸術を
生み出そうとしたのが「新版画」です。

2. 最初から目利きだったジョブス

さて、兜屋画廊を訪れたジョブズの異質さは
ファッションだけではありませんでした。

通常、画廊においては主人との長い会話の上で
作品を選びます。しかし、ジョブズの作品選びは
あまりに速く、即断即決に近いものでした。

それでいながら審美眼はたしかでした。
「新版画」は1923年(大正12年)の関東大震災で
大きな危機を迎えました。版元の渡邊商店が倒壊し
多くの作品が焼失してしまったのです。

そして、ジョブズが選んだ作品は
大震災からわずかに残った作品であり
かつ「新版画」の歴史でも重要なものを
きちんとおさえていました。

ジョブズの画廊通いは、2003(平成15)年まで
20年間続き、その間に43点の新版画を購入しました。

そのコレクションには実に
面白い共通点がありました。

通常、外国人が好む日本画のモチーフは、
「雪景色」「朱色の鳥居や神社」
「和傘を持つ着物美女」とされています。
たしかに、分かりやすい異国情緒です。

しかし、ジョブズが好んだのは
一見地味な風景を描いた暗めのもの
ばかりでした。

3. 最期まで新版画とともにあったジョブズ

ジョブズが新版画に出会ったのは
10代の頃の親友の家でした。

親友の祖父が購入し壁にかざってあった
「新版画」コレクションに目を奪われたのです。

特に気に入ったのが、川瀬巴水の
「赤目千手の瀧」という作品でした。

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    https://www.hangasw.com/gallery/1415/より引用

本作品の注目するべきは、水面です。
瀧の影はあっても、紅葉の影はありません。
あえて削ぎ落としているのです。

親友の証言によれば、こうした
「シンプルさからくるエレガントさ」が
ジョブズの琴線に触れたといいます。

それは後のアップル製品のコンセプトにも
通じていきます。

ジョブズは、2011年(平成23年)にこの世を去ります。
その3ヶ月前の撮られた自室の写真には、川瀬巴水の
「池上本門寺の塔」と思われる新版画がかかっていました。

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  引用:http://www.jaodb.com/db/ItemDetail.asp?item=39860

夕映えにうつる関東最古の五重塔は、
癌を宣告され人生の黄昏を迎えた
ジョブズの心境を表していたのかもしれません。

4.職人魂は、時代も国境も超える


ジョブズにとっての新版画への愛は
単なる日本趣味を超えたものでした。

そこには「職人魂」の共鳴があったと
されています。

一見、華やかなビジネスエンターテイナーに
思えるジョブズは並々ならぬ職人魂を
もっていました。

職人魂とは端的にいえば
「見えない細部までのこだわり」です。

子供の頃から、父親の指導で戸棚や柵を
作る時でも、見えない裏側までしっかり
作り込むことを怠りませんでした。

そのためジョブズの生前のアップル製品は、
見た目のかっこよさもさることながら
製品の内側の配線の位置までも
エレガントに設計されていました。

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この点、「新版画」もまた同じでした。
元来、浮世絵はコストパフォーマンス重視で
量産されるものでした。しかし、新版画は
制作に手間がかかり、1点の作品に摺られるものは
数百点が限界でした。

たとえば、浮世絵(旧版画)の代表作である
葛飾北斎の「富嶽三十六景」はわずか7回の摺りで
できあがったのに対して、新版画の代表作である
川瀬巴水の「増上寺之雪」はその6倍の42回の摺りで
作られました。

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      引用:https://www.hangasw.com/gallery/5766/

人は「見えている」部分で違いを感じ
「見えない」部分で共鳴します。

その「見えない」部分へのこだわりが強いほど
実は時代や国境を超えた人の心に
響いていくのです。

職人魂こそが最高のコミュニケーションツールなのです。

本日もお読みいただき
ありがとうございました。

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参考文献

「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」P.17、209~211

参照サイト


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