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【読書メモ】『人事のためのジョブ・クラフティング入門』(川上真史・種市康太郎・齋藤亮三著)

ジョブ・クラフティングエンゲージメント・サーベイと結びつけて語れば人事パーソンに理解してもらえるのかーー。

ビジネス書を読むと、新たな角度から理論の実務への当て嵌めに気づくことがあります。本書は、まさにそうした気づきが促される書籍でした。ジョブ・クラフティングを知りたいけれど、人事実務とどう繋がるのだろうかと思っているビジネスパーソンにとって最適な手引きと言えます。尚、本書ではジョブ・クラフティングは「仕事を自ら創意工夫し変化させること」(21頁)」という意味合いで用いられています。

本書の全体像

本書のタイトルにはジョブ・クラフティングが謳われていますが、副題にもあるエンゲージメントがそれと同等に扱われています。ジョブ・クラフティングがエンゲージメントに影響するという関係性で語られています。直接的な言及や引用はありませんが、JD-R(Job Demands-Resource)理論系のジョブ・クラフティングが下敷きになっていると考えられます。

ワーク・エンゲージメントの構成要素

では、ジョブ・クラフティングはどのようにエンゲージメントに影響するのでしょうか。

本書では、「個人の「働くこと」へののめり込み」(12頁)という定義でワーク・エンゲージメントを設定し、ワーク・エンゲージメントは(1)ジョブ・エンゲージメント(個人の「仕事(職務、業務)」へののめり込み(12頁))(2)エンプロイー・エンゲージメント(個人の「会社・組織」へののめり込み(12頁))の二つから構成されるとしています。

(1)ジョブ・エンゲージメント

ジョブ・エンゲージメントの対象は会社や組織ではなく仕事です。つまり、仕事に対していかにのめり込んでいるかを表す概念と言えます。このジョブ・エンゲージメントに影響を与えるものが①ジョブ・クラフティング②ジョブ・エンゲージメントタイプの二つです。

①ジョブ・クラフティング

冒頭でも書いた通りジョブ・クラフティングとは「仕事を自ら創意工夫し変化させること」です。ジョブ・クラフティング研究は、WrzesniewskとDuttonの2001年の論文が嚆矢だとされていて、本書でも同論文の定義を基に上記のように意訳されていることが述べられています。タスク・関係・認知という三つの下位次元から成り立つのですが、詳細は以下をご参照ください。

②ジョブ・エンゲージメントタイプ

タスクの特性によって、エンゲージメントのタイプが異なります。具体的には、定型業務vs.非定型業務という軸と、個人業務vs.集団業務という軸の二つのマトリクスで捉えられます。個人の側から見れば、個人の指向性もこの四つのタイプで濃淡があり、タスクの特性と個人の指向性が合っていればエンゲージメントを高く持って働きやすくなると言えます。

①と②の組み合わせ

では、タスクの特性と個人の志向性がマッチしていない場合、その状況を放置していれば、個人のエンゲージメントは低下してしまいますので何らかの対処が必要です。具体的には、個人のジョブ・クラフティングの取り組みによって、自分自身のジョブ・エンゲージメントタイプの指向性に近いようにタスクを変えてみる、ということが本書での提案です。

ちょっとした工夫を試みて、職務自体や他者との関係性や認識のあり方を変えるというジョブ・クラフティングによってエンゲージメントを高めるということは現実のビジネスの中でも興味深いヒントになるように思えます。

(2)エンプロイー・エンゲージメント

ワーク・エンゲージメントを構成するもう一つの要素がエンプロイー・エンゲージメントです。これは、個人の「会社・組織」へののめり込みを表し、組織資源組織風土によって影響します。この二つの観点は、エンゲージメント・サーベイではよくある設問項目なので、サーベイを行っている企業組織で働かれている方であれば見聞きしたことがあるかもしれませんね。

組織視点と個人視点

ジョブ・クラフティングは「仕事を手づくりすること」(vi-vii頁)であり、個人の工夫に根ざしたものです。他方で、本書では人事パーソンを対象としていることもあり、人事施策という組織目線での打ち手に注力しがちです。企業の人事パーソンを対象とした入門書という位置付けですので十分に理解できますが、組織の視点に重きを置きすぎることには注意が必要です。

というのもジョブ・クラフティングは、本来的には個人サイドからの外形的な変更とともに内面(認識)における変容という生成的なアプローチに対する多大な可能性を有する概念だからです。この点は、高尾先生の2020年の論文による影響ですので詳細は以下をご笑覧ください。

個人的には、個人のキャリア観や人生観からジョブ・クラフティングへと位置づける個人起点のものを重視したいなと感じています。これは、私自身が、組織というよりも個人の視点を重視しているからなのかもしれません。


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