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【読書メモ】『研修開発入門「研修評価」の教科書』(中原淳・関根雅泰・島村公俊・林博之著)

本書は、タイトルにあるように、人材開発を担当される方々にとっての研修評価の教科書です。ビジネスパーソンが気軽に読めるように事例や図を用いながら簡潔明瞭に書かれています。「媒介変数」や「et al.」などといった学術論文ワードは一切出てきませんので、安心してお読みください。

気軽に読めるものの、実務に活かせるヒントに満ちた読み応えのある書籍です。人事や人材開発に携わる方であれば、「自分ならどう活かすかな」という視点で能動的に読んでみると良いのではないでしょうか。というわけで今回は、平日にあげているような論文テースト満載な書きっぷりをやめて、「私ならどう使うか」という観点で具体的に書いてみます。

研修評価はバック・キャスティングでデザインする

研修評価で最も有名なのはドナルド・カークパトリックが提唱した①反応、②学習、③行動、④成果四レベル評価でしょう。多くのコンサルさんたちもセールストークで使っているので、事業会社の人材開発担当者もご存知の考え方でしょう。

ただ、企業の現場では、研修の最後に①反応と②学習のみアンケートの中で回答してもらい、数日後に集計して上司に提出して、研修の総括を済ませるということが多いのではないでしょうか。忙しい中でこうした事態になることには共感できる側面もありますが、問題は、四レベル評価と銘打たれると①から順番に取り扱うという構造にあるのかもしれません。

この四レベル評価をひっくり返して、バック・キャスティングで捉えよ!と提唱したのがドナルド・カークパトリックの子どもであるジェームス・カークパトリックです。求められるビジネス④成果は何で、そのために社員がどのような③行動を取れるようになるべきなのか、それを実現するための②学習項目を同定して研修という場面でどのような①反応をしてもらうことが必要か、というプロセスを経る必要があるというわけです。

企業における人材開発は経営に資する役割を担っているので自明の考え方とも言えますが、研修評価においても経営イシューからのバック・キャスティングで捉えると理路整然とした企画に落とし込めます。かつ事後においては、研修評価からの積み上げで効果を経営イシューへと繋げて描き出すことができるようになるのではないでしょうか。

行動変容の先行要因は研修直後の自己効力感

とはいえ、四レベル評価をバック・キャスティングで捉えても、④成果までを研修プログラムで担保することは無理筋です。端的に言えば、他の要因の影響が絡みすぎるためです。ストーリーとして④成果からのバック・キャスティングで研修評価をデザインするべきですが、本書では、人材開発担当がコミットするべき領域は③行動までとしています。

では、どのように行動変容までをデザインできるのでしょうか。一つめのポイントは、研修実施直後のアンケートにあります。研修直後のアンケートでは①反応と②学習に焦点が向かいがちですが、行動変容の先行要因である自己効力感を尋ねることが重要だと著者たちはしています。

自己効力感を尋ねる質問とは、たとえば以下のようなものです。

この研修で学んだことを、自分の仕事で活用できると思う
この研修で学んだことを、いつ、どんな場面で活用できそうですか?
127頁

上の質問は五件法で問う定量的な質問で、下の質問はフリーコメントで問う定性的な質問という使い分けができます。行動変容の先行要因として自己効力感を把握した後に必要なのは、事後における現場での実践の把握です。

事後の上司+本人インタビューで行動変容を把握

自戒を込めて申しますと、本社人事部門で人材開発を担うと、経営の顔色を伺った過剰な企画の創り込みか、業務効率性重視という名目に立った過剰品質なオペレーション志向になりがちです。経営か受講者かという両極端な視点に立った結果として失われるのが、研修終了後における現場での受講者本人の行動変容とその上司に対する支援です。

HRBPが機能している企業であれば、HRBPと連携することで研修後の行動変容を把握することは可能でしょう。ただ、HRBPが未定着の企業では残念ながら名ばかりHRBPも多いようです。そうでれば、本社機能であっても、経営ニーズの高い一部のプログラムにおいては人材開発の担当者が現場における本人や上司へのインタビューを行うべきなのではないでしょうか。

私自身も一部のプログラムに絞って現場でのインタビューを行っていますが、特にハレーションは起きていません。気を遣っていただいているだけかもしれないので注意は必要ですが、行動変容と職場における影響に絞り、かつタイミングも見極めて(本書では3-6ヶ月後というヒントが提示されています)より実践を拡めていこうと考えています。

インタビューから得られるデータをどのようにマネジャーや経営に届けるかという点では、ブリンカーホフのサクセス・ケース・メソッドがあります。本書でも解説されていますが、以前にも少しまとめてみたことがあるので詳しく知りたい方は以下を併せてご笑覧ください。

あとがき

研修転移について四年ほど前にまとめたことがありました。まとめた際の元ネタは、中原先生編著の『人材開発研究大全』の第13章でして、著者は関根さんと齊藤さんです。いずれの方々も、今となっては大学院ゼミで毎週のようにzoomでお目にかかっているとは、当時は思いもよりませんでした。


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