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【論文レビュー】なぜ自発的に仕事を工夫する社員は存在するのか?:Niessen, Weseler, & Kostova (2016)

組織で働いていると、どんなに忙しくても自発的に仕事を工夫する方を目にすることがあります。上司や顧客から依頼されなくても、彼(女)らは工夫しながら働きます。専門の方からは怒られるでしょうが、このように自発的に仕事を工夫することをジョブ・クラフテイングと言います。

本論文では、ジョブ・クラフティングが何によって促されるのかが分析・考察されています。結論としては、肯定的な自己イメージへの欲求(need for positive self-image)と職務経験とがジョブ・クラフティングに影響を与えること、また、自己効力感を得ている状態でかつ他者との関係構築欲求が高い時にもポジティヴに影響することが言われています。

Niessen, C., Weseler, D., & Kostova, P. (2016). When and why do individuals craft their jobs? The role of individual motivation and work characteristics for job crafting. Human relations, 69(6), 1287-1313.

著者たちの問題意識は、①ジョブ・クラフティングの三つの下位概念を検証すること、②ジョブ・クラフティングに影響を与えるものを明らかにすること、の二点でした。全体のフレームワークは以下の図にまとまっています。

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まず、①のジョブ・クラフティングの三つの下位概念は検証されています。三つの下位概念については、高尾先生の論文をまとめた際にこれ以上できないくらい詳しく書いたので気になる方は以下をご笑覧くださいませ。

次に、②のジョブ・クラフティングに影響を与えるものについては、冒頭の結論で要点はまとめたのでここでは割愛します。以下で追加で述べたい大事な点は、何が棄却されたのかです。

最大の点は、職務の自律性(job autonomy)や相互依存性(task interdependence)といった職務特性がジョブ・クラフティングに影響していない点です。通常、職務そのものは企業組織が、つまりは上司がメンバーに対して付与するものです。本論文から推察されることは、職務がなんであっても、工夫する人は工夫するし、工夫しない人は工夫しない、ということです。

またコントロール欲求(need for control)もジョブ・クラフティングへの影響は見出せませんでした。職務を自分自身で統制したいという欲求からではなく、こんな風に工夫したら面白いのかもという自発的な工夫がジョブ・クラフティングなのでしょう。

従来、職務設計は企業(上司)のみが行うものと捉えられていました。実際、組織で働く以上、職務アサインの権限と責任は上司にありますし、それを否定するつもりは全くありません。しかし、与えられた職務に対して自ら工夫することはいかようにもできます。著者たちがジョブ・クラフティングを「個人志向のプロアクティブ行動」(self-oriented proactive behavior)と端的に述べていることも理解できるような気がします。


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