【読書メモ】関家ちさと著『日本型人材育成の有効性を評価する 企業内養成訓練の日仏比較』:第5章 日本の人事管理
第4章までで日本とフランスの企業内養成訓練の比較を著者は行ってきましたが、人材育成の背景には人事管理があります。そこで本章では日本の人事管理を、第6章ではフランスの人事管理を考察するという流れになっています。日本企業の人事管理について、①社員格付け制度、②評価制度、③賃金制度、④教育訓練、⑤人事部門の採用・教育、について調査・分析されています。
以下は、社員3,000人以上の企業7社への著者の調査に基づいた全般的な傾向となること、念の為にご承知おきくださいませ。
①社員格付け制度
非管理職は能力(職能等級)で格付けされるのに対して、管理職は役割(役割等級)に応じて格付けされます。等級数は、非管理職の平均が4.4等級、管理職は4.0等級とのことで、こうやって数字として出されると興味深く見えます。また、新卒入社時の等級は学士と修士とで、七社では差異がないようです。詳しくは後述しますが、新卒入社時の学士と修士の差はフランスとの比較でギャップがあるのでピックアップされているようです。
②評価制度
評価対象は、非管理職では業績と能力の両方が評価されるのに対して、管理職では業績重視or業績のみで評価される傾向があります。業績評価が年2回の目標管理制度で評価されて賞与に反映されるのに対して、能力評価は年1回で昇級に反映され、両者を掛け合わせたものが昇給に反映される運用が多いようです。
③賃金制度
基本給と賞与に分かれて考察されています。基本給は、非管理職では能力に応じて、管理職は役割に応じて決定される傾向性があります。賞与は、構成要素は両者で差異がなく個人業績と事業業績とで査定され、等級に応じた基本賞与部分から算定されます。新卒入社時の初任給は、最も低い等級の範囲内で修士が学士よりも高く設定されているようです。
④教育訓練
入社3年目までの対応としては、入社後2週間〜3ヶ月の一律的な集合型研修が用意され、3ヶ月〜2年間の長期にわたって教育担当者がアサインされて一対一の指導が行われ、時期はまちまちですが二日間程度の業務振り返りと個人の課題を深掘りする研修があります。
4年目以降の非管理職を対象とした研修は入社3年目までより激減し、平均で3.8回の単発でのスキル研修があります。管理職に対しても研修機会は少なく、昇格時前後でのマネジメントスキル関連の研修がある程度です。
⑤人事部門の採用・教育
まず、採用については、職種を限定しない新卒一括採用で入社した人材を対象とするため、学士も修士も分け隔てなく配置され、専攻領域も特に限定されていません。そのため、教育についても前提知識・経験がゼロからのものとなり、人事の基礎知識や最新トレンドを学ぶ研修を一律的に行っているようです。
まとめ
①〜⑤の全般的な点としては、平野光俊先生の『日本型人事管理』と比べて新規性のある考察は特にありません。それだけ日本企業の人事管理が変わっていないということの証左でしょう。尚、平野先生の書籍は人事パーソンにとってはありがたい書籍でして、少し前にはやたら高い中古版しか出回っていなかったのですが、また流通し始めたみたいです。
その上で、本書が焦点を特においているのは、第2章〜第4章での養成訓練の流れから察するに、入社時からの10年間といった初期・中堅のプロセスをフランスと比較して考察しようということなのでしょう。そのために、新卒時の学士・修士の峻別したり、若年労働者の育成を分厚く述べているのだと思われます。