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【読書メモ】日本型組織の組織コンテクスト編成:『組織と自発性』(高尾義明著)第3章

『組織と自発性』の第3章は日本型組織を職場におけるコミュニケーションの観点から語られています。第1章と第2章のフリが利いていて、この章は特に面白いです。なぜコロナ禍のあとの日本企業の多くがオフィスワーク推奨へと振り切ったのか、という問いを補助線にして読み進めると、大変興味深く読めると思います。

職場での可視化=組織コミュニケーション

日本企業の職場では、身体的な近さがコミュニケーションの肝であり、身振り手振りや表情の変化も含めてメッセージとして読み取る、いわゆる阿吽の呼吸が求められました。こうした状況を高尾先生は、「「職場」におけるすべてのコミュニケーションが可視的である」(78頁)という秀逸な表現で語られています。つまり、職場において様々なメッセージを通じて見える状態になることが組織コミュニケーションであり、コミュニケーションを通じた仕事の進め方である、ということです。

ここでの「職場」はオフィスのことだけを指すとは考えない方がよいでしょう。重要な意思決定は、喫煙ルームや酒席で決まると俗に言われた通り、「職場」はオフィスから時に拡張します。そうした場に呼ばれるメンバーかどうかが、オフィスにおける職務にも密接に関連しました。飲み会に参加しないことが、職場に必要なコミュニケーションに参画しないことを表していた時代は、決して遠くない過去だったのではないでしょうか。

職場における関係性

メンバーが共在することが求められ、組織コミュニケーションが可視化されることが重要とされる環境では、正式的な権限構造によって職務が遂行されるよりも、各人が相互に関係づけられながら職務が遂行されます。

自身が働く職場に適した組織人として振る舞うことが求められ、そうした組織コミュニケーションを、高尾先生はゴフマンの演技であるとしています。演技をするためには観衆が必要であり、相互に演技し合うことでコミュニケーションを可視化してお互いに認め合う、という日本型組織の組織コミュニケーションと関係構築の相互作用が生じると言えます。

共在による組織コミュニケーションの非公式性

こうしたメンバー間の可視化された組織コミュニケーションに基づく職務遂行がなされると、意思決定の公式/非公式の区別が曖昧になると高尾先生は指摘されます。これは、文書よりもコミュニケーションが優位になり得ると考えられるのではないでしょうか。

典型的には稟議という独特なシステムを思い浮かべればわかりやすいと思います。稟議書じたいは文書ですが、稟議を通すために根回しを口頭で行うという組織コミュニケーションは、日本型組織の一種の特徴といえます。

もちろん、外資系企業でも重要な意思決定の会議に際して事前説明を行うことはありますし、重要なことです。しかし、それを行う対象は基本的には権限を有する意思決定者やレポートラインにある人物です。

それに対して、日本型組織の根回しでは、正式的な意思決定を有する人物だけではなく、年長者や「声が大きい人物」といったレポートラインとは関係しない多様な関係者も含みます。正式的な組織図に基づくコミュニケーションではないため、正式な会議を開くわけにはいかず、インフォーマルな口頭での組織コミュニケーションが求められます。いわば、公式的な意思決定が、事前の非公式コミュニケーションによって成り立ち、さらには事後の非公式コミュニケーションで「骨抜き」にすることもできてしまうわけです。

コロナ禍以降に起きたこと

稟議やノミュニケーションといった手段は時代とともに変わりました。しかし、メンバーの共在、コミュニケーションの可視化、非公式コミュニケーション、といった日本型組織が重視してきた価値観そのものは変わっていないか、変化は非常にゆっくりしているのではないでしょうか。

その証左がコロナ禍以降のオフィスワーク推奨の動きです。誤解がないように予め申し上げれば、オフィスワークを推奨することそのものが間違っているとは思いません。この是非は、ビジネス特性や環境要因に依る部分が多いので、個々に判断すればよいと思います。

言いたいことは、日本型組織で長く働いてきた方々は、メンバーの共在、コミュニケーションの可視化、非公式コミュニケーションといったものが、日常業務を進めるうえで必要不可欠であると心の底から認識しているのでしょう。それらを取り除いた組織コミュニケーションによって、イノベーションを推進したり、業務効率性を高めたりすることが想像できないのだと思われます。換言すれば、自身にも他者にも組織にとっても良かれと思ってオフィスワークを推奨しているのではないでしょうか。

ただし、そうした意思決定を行っている特定の属性の方々は、自分たちと異なる多様な属性の社員とで意識のギャップが生じていないかをチェックする必要はあるでしょう。若手社員の早期大量離職など、取り返しのつかない事態が起きた後では遅すぎますので。


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