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【読書メモ】キャリア開発とは何か:『キャリア開発論 自律性と多様性に向き合う』(武石恵美子著)

キャリア自律という言葉が広く言われ始めたからか、キャリア関連の書籍は増えてきている印象です。「個人の感想です」というレベル感のものも結構ありますが、本書はしっかりとした教科書的な本です。キャリア開発ってそもそもなんでしたっけ?というそもそも論から学ぶことができます。以下では第1章の「キャリア開発とは何か」に焦点を当てて書きます。

キャリアの意味

キャリアという概念は多義的です。本書におけるキャリアの意味合いは基本的には職業キャリアを念頭に置いているとしています。その上で、現実的な私たちの環境を踏まえて、職業にとらわれない多様なものとの関連について考察するために、職業以外のライフキャリアについても触れていくとしています。

本書のサブタイトルの後半には「多様性に向き合う」とあります。職業以外のライフキャリアについて触れていくという点は、サブタイトルとの整合も考えられているのでしょう。

ライフキャリアへと意味を広げた存在

キャリアという概念を職業キャリアをメインに捉えるのは元々のキャリアの捉え方といえます。ここからライフキャリアへとその概念の意味合いを広げたのはドナルド・スーパーだと本書ではしています。

スーパーはライフ・キャリア・レインボーのモデルが有名です。人生における私たちのテーマをある期間における多様な役割において捉えようとしてライフ・キャリア・レインボーを提示した、ということは以前のnoteでも触れた通りです。

スーパーのライフ・キャリア・レインボーは、企業に勤める男性をモデルとしたモデルだったというきらいがあります。スーパーがモデルを提示した時代背景を捉えるといたし方ないものもありつつ、現代においてはその静態的な内容が批判の対象となっていて、変化への適応という観点ではスーパーを引き継いだサビカスのキャリア構築理論やキャリア・アダプタビリティがその後に生まれてきています。この点は他のnoteで大量に書いているのでご関心のある方はご笑覧ください。

キャリア開発の2つの主体

ライフキャリアにも開きつつ、職業キャリアをキャリア開発の主要な対象として捉えた場合、キャリア開発の主体として組織個人の2つが存在しています。

組織が捉えるキャリア開発は「人材としての経営資源を組織活動に活用することを目的に、キャリアを開発する」(p.7)ことを目指します。他方で、個人にとってのキャリア開発としては「職業キャリアを開発することによる自己に対する効果を期待する」(p.7)ことを目的としてなされます。

企業におけるキャリア開発という文脈には、こうした組織と個人の双方の似て非なる思惑があるということは意識する必要があるでしょう。

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