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【読書メモ】デューイとはどのような人物だったのか?:『信仰と想像力の哲学 ジョン・デューイとアメリカ哲学の系譜』(谷川嘉浩著)

谷川嘉浩さんの著書にハマってから続けざまに読んでますが、本書は著者のデューイ研究がまとめられた学位論文を改稿したものだそうです。そのため、これまでに読んだ二冊と比べてはるかに難しい内容です。とはいえデューイを理解する上でとても勉強になるのでデューイ好きな方々には強く推奨する一冊です。導入部分を読むと全体像が理解できるので、導入部分について印象的だった部分をまとめます。

学際研究者としてのデューイ!?

デューイが活躍した領域は多岐に渡ります。それは、孤高の哲学者として一人で考えるのではなく、他者に対してオープンに接して他者と影響を与え合うことを重視していたからのようです。

デューイは、人里離れた場所で沈思黙考する孤高の知識人ではなく、むしろ状況や他者から進んで学び、影響を受けることにおいて才能を発揮した「時代の集合知」のような哲学者だった。哲学だけでなく、心理学や政治学や神学などの分野、そして学問以外からも学んだ。それゆえ彼の知見の独創性は、彼を中心とする影響関係のネットワークや、同時代の問題状況を再構成すること抜きには解き明かしえない。

p.3

ウィリアム・ジェイムズも哲学や心理学、また宗教についても論じるなど活躍領域が多岐にわたっていました。この頃の研究者の凄みを感じます。

実践も大事にしていたデューイは、イシューに焦点が当たっていたからこそ、影響を与え合う存在が多様になるとともに研究対象も多様になったのではないでしょうか。後世に生きる私たちにとっても、こうありたいという理想像をデューイは人生を通じて提示してくれているように感じます。

なぜ宗教も論じたのか

こうした多様な分野の中に宗教を入れてデューイを解説することは稀なようです。しかしながら、宗教についてもデューイは僅かではありながらも論じていることに著者は着目しています。

 変わらず前近代の文化に則って営まれている西洋の哲学的伝統を批判するためには、哲学に先行し、哲学が依拠している「宗教」について論じなければならない、ということが帰結する。すなわち、新たな宗教性に「内容」を与えることは、哲学が継承してきた宗教的慣習を書き換えることに等しく、従って、デューイが宗教学的プロジェクトに着手したのは、来るべき「新しい哲学」のあり方に表現を与えるためだったのだ。

p.37

哲学を探究する中でそれらが何に依拠しているのかという点に至った時に、宗教について論じる必要性が出てきた、という点は興味深いものですね。ある哲学が生まれて膾炙する背景には宗教があるということなのでしょう。

「社会」の発見

もう一つ興味深いのは社会との接点です。一人の思索に集中して孤高の哲学者として振る舞うのではなく、社会に出て行動も起こしながら思索を深めるというデューイは「社会」を発見した人物とも評せるようです。

革新主義者の代表格たるウォルター・リップマンやジョン・デューイが、「社会的統制」「規制」「組織(化)」といった用語を度々用いたのは、旧来的な個人主義や自由放任型の自由が立ち行かない現状で、制度構築と社会的連帯を模索したからにほかならない。

p.40

「社会」という言葉は小学校の科目の名称にもなっているので私たちにとって自明な言葉です。でもだからこそ、その内容について深く考える機会は限られています。もともと概念は存在しなかったわけですが、デューイたちが「社会」という概念を用い始めた時の想いを想像することはなかなか興味深いです。

デューイ自身が相互作用を重視

著者の他の書籍にも詳しくあるように、デューイはプラグマティズムの創始者の一人と評価されています。このプラグマティズムは他者や環境との相互作用プロセスを重視しています。こうした考え方を生み出した主要な人物であるデューイ自身もまた、他者との相互作用を重視していたようです。

 デューイの哲学的スタイルを特徴付けるのは、彼が孤高の哲学者ではないということだ。進んで他者や状況から影響を受けようとするデューイの独自性は、彼だけを見ていても判然としない。彼の独自性は、影響関係にある他者との具体的な比較によって浮かび上がるはずであり、影響関係の具体的な追跡なしに独自性が明らかになることもない。

p.46

その人の思想は、その人の周囲の人々の思想と関連するというのは納得的な発想だと思います。デューイのように他者に対してオープンで相互作用を重視した方であれば尚更そうなのかもしれません。

本書によれば、ともにシカゴ学派を形成したG・H・ミードはその一人のようなのでミードも改めて読もうかなと思いました。

おまけ

冒頭でも述べた通り、本書を読むのは少々骨が折れます。そこで一般書として書かれた以下の二冊を先に読んでから挑んだ方が理解が進むと思われますのでぜひ予習をなさってみてください。

著者の書籍を読んで感動レベルの印象を記したnoteも併せて貼っておきますので、ご関心ある方はご笑覧ください。

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