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【読書メモ】なぜ若手社員の優秀層は早期離職するのか!?:『ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由』(古屋星斗著)

リクルートワークスでの著者の記事をいつも興味深く読んでいます。本書は、著者のゆるい職場に関する一連の論考を深掘りした新書です。若手社員の早期離職を防ぎ、どのように職場で受け入れて活躍を促すのか、に関心がある方には一読をオススメします。新入社員教育や若手社員フォローの世界では、KKDベースの自論を大声で主張する人事やマネジャーがなぜか多いのですが、そうした方々とデータに基づいて建設的なディスカッションをするために必携の一冊です。

ゆるい職場が生まれた背景

著者は、若手社員の変化に着目するよりも前に、職場の変化に着目せよ!と主張しています。2016年を境に早期離職する若手社員の理由が変わったとしているのですが、この背景には「働き方改革」と呼ばれた一連の法令対応に伴い、超過勤務削減のための労務管理の変化や、ハラスメント防止によるコミュニケーションの変化があります。

こうした環境変化に現場でのマネジメントが対応できた点と、対応しきれていない点が、若手社員のゆるい職場への評価に影響を与えています。端的に言えば、前者は若手社員の環境面への不満要因の軽減につながり、後者は若手社員のキャリア・成長への不安要因の増加につながっていると言えそうです。

成長する若手社員が辞める理由

キャリア・成長への不安要因の増加は、若手社員の中でも優秀層と呼ばれる群の離職につながっていると考えられます。私が大企業の人事パーソンと情報交換していて共通するのは、若手社員の中でも優秀層から抜けていくということが肌感としてあったのですが、本書ではその理由として考えられる要因がくっきりと描かれています。

若手社員の離職理由が2016年頃を境に変化したことは先ほども挙げました。その理由の一つとして、若手社員の成長実感に影響する要因の変化があります。2010-2014年新卒社員と2019-2021年新卒社員の成長実感に対して影響を与える要因の差異を、重回帰分析で検証したものが以下の二つの図です。

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著者も提示しているように、二つの変化がここには現れています。第一に、理不尽さなどの職場の関係性に関する負荷が成長実感にネガティヴな影響を与えることが直近では明らかになっています。2010-2014年卒のデータでは関係性がプラスにもマイナスにも描かれていませんので、以前は「職場の関係性は悪いけど成長は実感できる」という状態性もあり得ました。しかし直近では、職場の関係性に関する負荷が若手社員の成長に負の影響を与えていることがデータからは読み取れます。

第二に、入社前の社会的経験の有無が入社後の成長実感に影響するようになった、ということも直近の傾向として着目すべき点です。この点は非常に重要なので、もう少し深掘りします。

入社前の社会経験は不満を減らし不安を増やす

学生期間におけるキャリア教育の義務化や、インターンシップの隆盛によって、学生によっては新卒入社の前の段階で社会経験が豊富にあります。一般論として、優秀層というフラグがつきやすい新卒社員は入社前の社会的経験が多い層の中にいると言えるでしょう。では、こうした人々は職場をどのように評価しているのでしょうか?

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まず、若手社員の中でも、入社前の社会的経験が多いほど、新卒で入った職場への満足感は高いということがわかります。もちろん職場への満足が高ければ一般的には良いです。ただし、職場の環境に対する違和感がないということは、入社後に感じるリアリティ・ショックが少ないということを意味するとも考えられます。

リアリティ・ショックを適度に感じられないということは、若手社員のストレッチを促すような経験も少ない可能性があるということを意味します。その結果として生じるのが、自身の今後のキャリアや成長に対する不安感です。

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上図からは、入社前の社会的経験が多ければ多いほど、自身の成長やキャリアに不安を感じる度合いが高まることが読み取れます。最終的には、この結果が離職率にも影響していることが下図に表れています。

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これらの一連の図に、若手社員の優秀層が離職する背景が説明されていると私には解釈できますが、いかがでしょうか。本書では、こうした不安型転職への処方箋も丁寧に提示されています。ご関心のある方はぜひ本書をお読みくださいませ。

おまけ

著者のゆるい職場に関する著者のプロジェクトのまとめサイトは以下をご参照ください。紙幅の関係で掲載されていないと種々のデータが格納された宝庫です。


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