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【読書メモ】「発達の最近接領域」とは何か?:『ヴィゴツキー小事典』(佐藤公治著)

ヴィゴツキーの心理学について、彼の人生そのものを追いかけながらその主張が紹介される本書の最終盤に、ようやく発達の最近接領域がテーマになります。

旧約聖書から影響を受けた反予定調和論

ここまでのヴィゴツキーの主張、とりわけピアジェへの批判の部分に端的に現れていたように、彼は内的発達が予定調和的に為されるという捉え方に対して極めて批判的です。

ヴィゴツキーは、人は社会的存在として外部の世界と絶えず接触し、関わっていく中で発達が実現していくとした。当然のことながら、外部の影響を受けながら成長変化する。つまり個人の内的な要因による予定調和だけで発達を描くことはできないという、反予知調和論である。
p.199

子どもの発達を、他者との相互作用プロセスによって見ようとするヴィゴツキーにとって、子ども自身に閉じた内的発達を重視する予定調和論を否定的に捉えることは当然なのでしょう。

こうしたヴィゴツキーの捉え方は、彼がギムナジウムの時代から愛読していた旧約聖書の『コヘレトの言葉』の中で未来において何が起こるかを知る者は一人もいないという言葉に影響を受けたのではないか、という著者の推察は大変興味深いように思えます。

発達の最近接領域

反予定調和論の立ち位置から、相互作用プロセスにおけるダイナミックな発達を論じたヴィゴツキーは、彼の中でおそらく最も有名であろう発達の最近接領域を提唱します。孫引きですみませんが、以下のような考え方です。

自主的に解答する問題によって決定される現下の発達水準と、子どもが非自主的に共同のなかで問題を解く場合に到達する水準とのあいだの相違が、子どもの発達の最近接領域を決定する
『思考と言語』p.298

ビジネス界隈ではよくストレッチ・ゴールということが言われます。Googleさんが流行らせたムーンショットでもOKです。現在の状況や能力から見て高い段階を学習目標として設定することをヴィゴツキーは20世紀前半の段階で言っていたわけです。

ヴィゴツキーは学習の目標としていまだ自分には十分にできないものが提示され、それを模倣してみた時に、まだ自分ではできないことを実感する。この気づきがあって、できないことを克服しようという学習や発達の目標になる。
p.215

自律的に働く、ということが昨今では称用されます。それ自体は素晴らしいものであると思うものの、自分自身が目指したい方向性やそこに向けた能動的な行動というものは、必ずしも自ずから出てくるものではありません。他者との相互作用が大事であり、ロールモデルと言えそうな他者を模倣してみることから得られる刺激を基に、自律的な行動というものは生み出されるのかもしれません。


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