【読書メモ】もう一つの不確実性系キャリア理論"Positive Uncertainty"とは何か?:『Creative Decision Making』(H. B. Gelatt & Carol Gelatt著)
不確実性に焦点を当てたキャリア理論の領域では、クランボルツのPlanned Happenstance(計画された偶発性)理論が日本でも有名です。ただ、私が学部ゼミや修士時代に偶発性系のキャリア理論としてよく見聞きしたのは、クランボルツの理論とジェラットのPositive Uncertaintyの2つでした。最近、後者をざっと読み直す機会があったので簡単なまとめを書いてみます。
Positive Uncertaintyとは何か
著者のハリー・ジェラットはジョン・クランボルツの近い友人だそうです。たとえば『新版 キャリアの心理学』でのハリー・ジェラットを扱っている第4章でも「クルンボルツとは、テニス仲間で大の仲良しである」(p.93)という記載があるくらい親しい間柄のようです。(以下のリンクにある【第2版】では第5章で扱われているようです)
本書ではパキッとした定義が記載されていないのですが、Positive Uncertaintyとは、従来の合理的な意思決定と対比して、以下のようなアプローチであると著者はしています。
同じ不確実性のキャリア論なので当然と言えば当然ですが、Planned Happenstanceと近い印象を持つ内容です。その上で両者の違いを考えると、Planned Happenstanceがプロセスや行動といったものに焦点が当たっているのに対して、Positive Uncertantyは観点や認知構造に焦点が当たっていると捉えられるのではないでしょうか。
人生の重大な出来事とは?
本書は理論の説明書というよりワークブックなので、いくつかの興味深い問いが提示されています。
その中の一つに「あなたの人生における最も重大な5つの出来事をあげてください(List the five most important events in your life.)」(p.19)というものがあります。あまり深く考えず、2分未満でリストアップしてくださいという注意書きもあるので、みなさんも2分だけ考えてみてください。
ーー2分経過ーー
2010年11月時点の私(当時29歳)が書いたのは以下の5つでした。
※固有名詞は削除しています
結婚(2007年)
大学入学(1999年)
修論提出(2009年)
学部入ゼミ(2001年)
新卒入社(2003年)
過去と将来
こうしたワークはキャリアのセッションではわりとよくある内容なのですが、個人的に驚いたのは著者が続けて問いかけている「そのうちいくつの出来事が将来に関するものでしたか?」という質問です。
この問いかけ、しびれませんか?たしかに最初の質問の原文をもう一度読むと、将来の出来事も過去の出来事も書ける問いになっていることはお分かりいただけるでしょう。私の場合、括弧内に出来事の起きた時期を記載しているように、将来の出来事を一つも挙げられなかったのですが、ほとんどの人が将来の出来事をリストアップしないものだ、と著者は慰めて(?)くれています。
4つのパラドキシカルな原理原則
私たちが人生というものを考えるとき、過去に起きた出来事について考えるのが自然だと著者はしています。その前提に立った上で、将来についても過去と同様に考えられるようになると意思決定の幅が拡がると述べています。
そこで著者が着目するのは将来です。不確実な将来に向けた意思決定をどのように行うと良いのでしょうか?本書では、以下の4つのパラドキシカルな原理原則を持ち続けることで、創造性や能動的な行動を起こす機会が訪れるとしています。
「心の眼」を意識せよ!?
さらに具体的なアドバイスも興味深いものです。心の眼(mind's eye)が重要であるとして以下のようにまとめています。
心の眼とは私たちの認知構造のことなのでしょう。未来志向の認知構造を持つためには、メタファーを用いる、創造性を発揮する、将来シナリオのリハーサルを行う、といった細かなtipsも紹介してくれていて、なかなか興味深い内容です。ご関心のある方は本書を読んでみてください!
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