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【読書メモ】心理尺度とは何か?:『心理尺度構成の方法 基礎から実践まで』(小塩真司編)

正直に書けば、2度目の修士課程を修了した後でも、のほほんとアンケートに回答し、妥当性や信頼性があやしげな「心理尺度らしきもの」にも気づかずにいました。そんな私が博士課程で尺度開発に取り組むことになり、論文や書籍を読み込んで理解を深めましたが、私のような素人が尺度開発を学ぶテクストを選ぶのに骨が折れました。最近出版された本書は、心理尺度を開発する上での最適なテキストであり、また尺度を活用してレポートや論文にする学生にとっても必読書といえます。できれば2年前に世の中にあったら私の苦労が相当軽減したのではないかと思いつつ、苦労した経験があるからこそ本書をありがたく読めるという側面もきっとあるのでしょう。

心理尺度

まず心理尺度についての意味合いから見ていきます。

心理尺度とは、何らかの心理的な現象を、連続的な指標として測定するための道具である。

1頁

明瞭簡潔な定義でわかりやすく、すっと読んでしまいそうですが、(1)何らかの心理的な現象を扱いものであること(2)連続的な指標として測定するものであること、という重要な2つのポイントが含まれています。

構成概念

まず(1)何らかの心理的な現象を扱いものであることという点ですが、これは構成概念というキーワードと関連します。

 外向性や協調性や態度など、目に見ることができず触れることもできない、何らかの行動や活動を説明するために導入される抽象的な概念のことを構成概念(仮説的構成概念、心理学的構成概念)と言う。

2頁

目に見えないものは多義的に解釈できてしまいます。たとえばマネジャーが「〇〇さんはどうも最近やる気がない」と言っていたとしましょう。「やる気」が目に見えないものなので、ざっくりいえば、①意欲が低いのか、②活力を持って仕事に取り組めていないのか、③チーム内のポテンヒットを避けるための職務外行動が十分でないのか、④自発的な工夫ができていないのか、マネジャーが感じている課題感はわかりません。

そこで言語化されれば、そのマネジャーが何を言わんとしているのかが理解できます。上述した①であればモティベーションの課題、②はワーク・エンゲージメントの課題、③なら組織市民行動で、④はジョブ・クラフティングといった感じでしょうか。構成概念の効用の一つはこうした可視化にあり、構成概念をデータ化するものが心理尺度です。

連続的な指標

次に二つ目のポイントとして連続的な指標であること、という点についてです。

概念は往々にしてカテゴリとして設定されるのに対し、心理尺度では基本的に連続的な得点として測定される点である。

12頁

先ほどのマネジャーとメンバーの例で言えば、やる気があるorやる気がないというようなカテゴリとして認識されていますが、心理尺度では主にはリッカート尺度のような連続的な得点としてたとえば1から5の5段階で測定されます。

つまり「概念を設定する際にも、連続的な変化を前提とした理論や仮説を立てることが望ましい」(13頁)わけです。私たちは特にビジネスの場面においてカテゴリカルに物事を捉えがちなので、重要な指摘と言えるでしょう。

心理尺度開発は本当に必要なのか?

ここまで心理尺度の意義についてまとめてきました。本書が奮っているのは、意義や効用について触れながら、そもそもいま自分たちが開発しようとしている心理尺度が本当に必要なのかについて「まえがき」で書かれている点です。

本書を通して心理尺度について学ぶことで、そもそも心理尺度を作成するべきであるのか(他の測定方法はないのか)、作成するとすればどのような心理尺度をデザインするべきか、そしてどのようなプロセスで尺度を作成していくべきか、さらには実際の使用時において留意するべきことは何であるのか、といったことをより深く理解することが期待される。

iii頁

尺度開発(尺度翻訳ですが)を行った身として襟が正される至言です。というのも、研究者の一部は論文を出すために新しい尺度を開発し、ベンダーの一部は継続的な売り上げとコンサル案件にしようという誘因からアンケートを売り、人事の実務家の一部は流行りの概念に飛びついて専門知からの検証をすることなくアンケートを導入します。

こうした不都合な共犯関係にならないよう、尺度開発には節度と知識が求められるわけであり、本書のような優れたテクストをもとに学んだ上で、尺度を活用したり開発することが重要なのではないでしょうか。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


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