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【読書メモ】人材開発の理論と実践:『人材開発・組織開発コンサルティング―人と組織の「課題解決」入門』(中原淳著)第3章

企業における人材開発とはなんでしょうか?人材開発の役割、主要な理論、実践における重要なポイントについて、『人材開発・組織開発コンサルティング―人と組織の「課題解決」入門』の第3章では丁寧に述べられています。中原先生による紙上講義のようなテーストで学べることができます。

アウトカムを意識せよ!

人材開発の施策は経営と社員のためにあります。しかし、施策から成果への距離が時間的に遠いために、ともすると傍に置いてしまいがちです。こうした研修担当者あるあるの課題感を、中原先生は以下のように端的に述べられ、警鐘を鳴らされています。

もちろん、人材開発の関係者は、人間の持つ「学びの力と可能性」を信じています。しかし、企業の人材開発においては「学び」を「自己目的化」してはいけません。

p.93

程度の差はあれども、「学び」を「自己目的化」してしまうことは私もやってしまいます。企画の段階で指摘されて大急ぎで修正するものの、危険だなぁと思うことはよくあります。おそらく、人材開発に携わる方々は、人の成長に興味があり、そのための施策に思い入れが強くなり過ぎてしまうのかもしれません。

ある会社で働いていた時に、「どのような新入社員が入ってくるかは興味がない。私が担当すれば、いかようにも育てられる。」と豪語され、採用担当者との連携は不要という趣旨の発言をされていた人材開発担当者の方がいらっしゃいました。人材開発ベンダーのご出身で教育担当者としての力量も経験もあり、仰っていることはスゴイなとは思いますが、私は強烈な違和感を持ちました。

採用部門と連携しなければ企業として社員にメッセージを整合して発信することはできず、新入社員を混乱させる可能性が高いです。また、仮にその方が思うような知識・スキルを研修の場面で強化することができたとしても、ビジネス現場との接続ができなければ新入社員にとっても受け入れる部署にとってもありがた迷惑です。

研修場面で何をアウトプットしてもらうかという思考も大事ですが、それと同等以上に、その後にどのようなアウトカムをもたらすのかに私たちは意識的であった方が良いのでしょう。

人材開発理論の見取り図

人材開発の主要な概念として、①組織社会化、②組織再社会化、③経験学習、④職場学習、⑤越境学習の五つを扱っています。①〜⑤の説明もわかりやすいのですが、それぞれの関係性を示した以下の図が秀逸です。

p.126

でもどこかで見たよなぁと思っていたら、中原先生の『経験学習論』でもほぼ同じ図が描かれています。同署は2012年の出版ですので、十年以上前からこのような整理をされていたのですね。

理論や概念を知ると、それを使いたくなるものです。しかし、適用範囲や背景にあるベーシックな思想を理解していないと、適用すべきでないものを誤用することがあります。「ハンマーを持ったら、全てが釘に見えるものだから注意しましょう」というような趣旨の指摘も立教の修士課程ではよく耳にしました。そういう意味でも、人材開発領域の概念の見取り図を頭に入れておくことは非常に重要と言えそうです。



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