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【読書メモ】『リーダーシップ・シフト 全員活躍チームをつくるシェアド・リーダーシップ』(堀尾志保・中原淳著)

研究室の先輩と指導教員の先生との共著という、中原研で学ぶ身として胸熱な一冊です。堀尾さんのゼミでのご発表でシェアド・リーダーシップ(shared leadership)という概念についてはおぼろげながら理解していたつもりでしたが、事例が豊富でポイントを噛み砕いて説明してくれる本書は、マネジメント実務に携わる人間として身に沁みる内容でした。マネジメントに携わる方々はもとより、職制に関わらず他者に影響を与えて協働しながら仕事を進める全ての方にとって示唆に富んだシェアド・リーダーシップ入門書と言えそうです。

マネジャー受難の時代

冒頭ではマネジャーを取り巻く環境変化が書かれています。これが共感しまくりの内容なのですよね。五つの言葉に集約されていて、序章の内容から引用すると以下のようにまとめられます。

複雑化:前例踏襲ではもう対応できない
少数化:加速度的に進行している人手不足
多様化:みんな一緒はもう終わり
分散化:バラバラの場所での協働
多忙化:給与は増えぬが兼務は増える

p.27, p.33, p.36, p.41, p.44

濃淡はあるもののいずれも共感できます。部門でパフォーマンスが充分に発揮されないと、マネジメントがその責任を負うケースが多いと思います。もちろん、非管理職と比べて重い役割を担い、その対価としての権限と報酬をいただくので責任を担うのは当然ではあります。

ただ、マネジメントに全てを任せてしまうと部門で価値を創出することは難解です。というのも、上のリストを見ていただくとわかるように、マネジメントを取り巻く環境の難易度そのものが上がっているからです。

シェアド・リーダーシップ

役割の違いはあっても、マネジャーもチームを構成するメンバーの一人にすぎません。つまり、チーム全体でチームの目標達成に向けて協働することが重要になってきます。そこで登場するのがシェアド・リーダーシップという考え方です。

マネジャー1人にリーダーシップの発揮を求めるのではなく、チームメンバー全員が自分の強みを活かして、リーダーシップを発揮している状態

p.7

シェアド・リーダーシップが実現しているチームでは、メンバー全員がお互いに影響し合うことでチームとしての成果を共創しています。共創や協働という状態からするとマネジャーがメンバーと変わらない役割になると誤解されるかもしれませんが、そのようなことはありません。本書でも、マネジャーに求められる役割が変わるとして以下のように書かれています。

「チーム全員が強みを発揮する」からマネジャーの働きかけが「不要」なのではないのです。むしろ、シェアド・リーダーシップな全員活躍チームをつくるために、マネジャーからの「これまでとは異なる働きかけ」が「必要」なのです。大切なことは、マネジャー自身のメンバーに対する働きかけ方をシフト(変化)させるということです。

p.56-57

ここで本書のタイトルであるリーダーシップ・シフトとつながってきます。

シェアド・リーダーシップの5つのステップ

では、従来のリーダーシップのあり方から、シェアド・リーダーシップのあり方へとどのようにシフト(変化)するのでしょうか。本書では5つのステップに分けて解説してくれています。

STEP1
チーム活動は、「いきなりはじめる」のではなく、
チームの未来を「イメトレしてはじめる」

STEP2
「圧をかける」ことでメンバーを動かすのではなく、
メンバーが強みを発揮できる「安心安全をつくる」ことで動かす

STEP3
チームの方針は、「上から下ろす」のではなく、
チームのメンバーと「ともに方針を描く」

STEP4
チームの成果創出を「エースに頼る」のではなく、
「全員を主役化する」ことで成果を出す

STEP5
役割や手順の「境界を守る」のではなく、
メンバー間の連携や相互刺激を促進するために「境界を揺さぶる」

p.94

本書では、各ステップについて章を分けて丁寧に説明がなされ、ノウハウに落とし込んだ上で具体例がふんだんに紹介されています。あまりネタバレになってはまずいので、特に印象に残ったステップ3について少しだけ紹介します。

丸投げと共創は異なる!

ステップ3が興味深かったのは、私が数年前に失敗した経験がリフレインされたからかもしれません。私の場合は方針を上から落とすというのが好きではなく、ともに方針を描くということが元々好むタイプです。そのため、「ともに方針を描く」ことは、ゼロからメンバーと一緒に方針を創るものなのだと当時は思っていたのだと思います。

ところがそれは誤解なんですよね。当時は反省して修正して対応した記憶があるのですが、以下のステップ3のポイントを読んで腑に落ちました。

仮案:方針の仮案は修正を前提につくる
対話:対話を重ねて共通認識のレベルを高める
整理:対話で得た情報を放置しない
決定:決定の経緯と根拠を丁寧に説明する

p.179

これは痺れましたね。マネジャーが何もしないのは責任放棄になってしまい、役割としてこれらを行うことの重要性をよく理解できました。実際、できるマネジャーの言動を思い返すとこれらを行っているように思います。

本書を読んでいると、自身の職場でのリーダーシップについて内省させられると共に、今後の一歩に向けての示唆を得られます。シェアド・リーダーシップなチームのメンバーとして働いていきたい方は、ぜひ本書を紐解いてみてください。


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