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【読書メモ】キャリア発達理論研究史(3/9):荒木淳子著『企業で働く個人の主体的なキャリア形成を支える学習環境』(第2章)

本章は、キャリア発達(career development)理論の先行研究としてむちゃくちゃ勉強になります。もっと早く読んでおけばよかったと後悔するレベルです。

解説がふるってるなぁと感じたのが、キャリア発達理論を四つのアプローチに分類して解説している点です。表2−2(53頁)に基づいてそれぞれ見ていきます。

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①個人ー環境適合アプローチ

代表的なものはホランドの六角形で有名な職業選択理論です。個人のパーソナリティを六つのタイプに分類し、パーソナリティにマッチングする職業を選ぶ、というアレです。

ホランドのモデルの限界は、彼が提示したパーソナリティは子供の頃に形成されるものであり、成人期における変化を射程に置いていない点です。企業、家庭、社会コミュニティにおける活動で私たちのアイデンティティは発達するよね、として異議を唱えたのが②発達論的アプローチです。

②発達論的アプローチ

ここでの主要な論者はスーパーとシャインです。スーパーは、個人の生涯における発達という観点から、五つの発達段階における特徴と課題について総合的に論じました。発達段階のそれぞれは納得的であるものの、検証可能でないという点が限界と言われています。④社会構成主義的アプローチで出てくるサビカスがスーパーの弟子に当たるため、サビカスがこの限界に対峙して乗り越えているようにも思えます。

次にシャインです。シャインもまた生涯にわたる発達段階を示しながら、かつ組織内におけるキャリア発達を「円錐型の組織の3次元モデルで提示しています。さらに、キャリア発達の過程でキャリア・アンカーが形成されるとして、個人の主観的なキャリアという内的側面にフォーカスを当てた点も挙げられます。

他方で、スーパーもシャインも個人のキャリア発達という視点には立っているものの、環境変化に対してどのように対応するかは射程外と言えます。キャリアの変化や転機に焦点を当てたのが③トランジション・アプローチです。

③トランジション・アプローチ

トランジション(移行)のプロセスに着目している理論群の嚆矢はブリッジズと言えます。ブリッジズは、終焉、中立圏、始まりという三つのフェーズを提唱し、キャリアの転機に焦点を置き、そこにおけるプロセスを丹念に論じています。

トランジションのプロセスに着目する研究群では、個人の価値観やアイデンティティについては焦点を置いてませんでした。これらを統合したのが序章や第1章でも扱ったアーサーのバウンダリーレス・キャリアとホールのプロティアン・キャリアです。重複するのでここでは述べませんが、本書の主体的キャリア形成として想定する理論群です。

トランジションにおける社会的な学習の積み重ねを強調したのが、クランボルツらの計画された偶発性理論です。トランジションのプロセス論と計画された偶発性理論を統合したキャリア自律の考え方は以下にまとめていますのでよろしければご笑覧ください。

④社会構成主義的アプローチ

このアプローチで挙げられているのが、前述したスーパーの弟子であるサビカスです。サビカスは、「キャリアを、個人が今起きている出来事や置かれている環境を過去や未来と結びつけて解釈し、語ることを通じて主観的に作られているものだという「社会構成主義(social constructionism)の立場」(70頁)を取り、キャリア・アダプタビリティを提唱しています。

社会構成主義についても以前にまとめたので、ご関心のある方はご笑覧くださいませ。

キャリア・アダプタビリティについては今後もう少しレビューしていきたいので、また後日。


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