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【読書メモ】人事労務管理と企業経営:『新・マテリアル人事労務管理』(江夏幾多郎・岸野早希・西村純・松浦民恵編著)

『新・マテリアル人事労務管理』の第1章「人事労務管理と企業経営」は、経営や事業をマネジメントする上で人事労務管理がどのような役割を担い、また担い得るのかについて解説されています。人事パーソンにとっては、どのような機能を担う方であっても、全体感を把握する上でとてもためになる章と言えます。

人事労務管理の歴史

編著者4名が書いている第2項「戦後の人事労務管理」は資料としても秀逸です。労働運動の影響を受けた対応をしてきた終戦直後の1946年から、1970年以降の職能給及び職能資格制度の普及・定着、1980年代以降の男女雇用機会均等法の導入後の能力主義管理の拡大、2000年以降の働き方・働かせ方の多様化に伴う制度と運用の変更、というように2021年に至るまで人事労務管理のトピックスやキーワードが年表として提示されています。

人事管理は誰がどの程度担うのか?

人事部門やマネジャーとして働いていない方の中には、人事管理を担うのは人事部門だという誤解を持たれることがままあります。そのようなことは誤解でしかなく、人事部門はマネジメントを支援する役割が主だったものになります。

ただ、その支援の度合いが企業によって異なりますし、人事機能を本社人事が集中的に持っている多くの日本企業と、人事機能を現場に分散する多くの外資企業とでは人事管理の分担の程度が大きく異なります。こうした点を、ライン管理職が担う人事管理の範囲の相違によって簡潔に説明している以下の点は明瞭でわかりやすいです。

 従業員1人1人に日々かかわり、管理監督や諸々の支援を行うのはライン管理職である。人事機能の分権化の程度によって、ライン管理職が担う人事機能は異なる。人事機能が本社に集約されている場合、ライン管理職のかかわりは部下の業務配分や育成・評価に限定されるが、事業部門に人事担当者が配属され、人事機能の多くが本社人事部門から移管される場合には、ライン管理職が採用や配置転換に関する決定を行うことも増える。

p.10

人事とキャリア自律とイノベーション

最後に、某社での元同僚である穴田貴大さんが書かれた第8項「新しい組織のあり方と人事労務管理」も興味深かったので所感を少しだけ。

企業に閉じたクローズド・イノベーションから、変化に対応するために社外に開いたオープン・イノベーションが多くの企業で求められると冒頭で述べられています。こうしたアウトカムを実現するために人事労務管理も対応してきていることを説明されています。

リスキリング施策、リカレント教育の支援、副業・兼業制度の整備、ワーケーション制度の導入、といった新たな人事管理によってキャリア自律が促され、越境学習の機会が創り出され、その結果としてイノベーションの創造に繋がる、という指摘はアウトカム志向で人事機能を捉える上で重要な視点です。


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