【読書メモ】キャリア志向と心理的契約はどのような関係にあるのか?:『キャリア社会学序説』(佐藤厚著)
本書の第7章ではキャリア志向と心理的契約の関係性について実証研究を基に解説しています。両者の定義としては、キャリア志向については稲上(1993)を引いて、「職業的生涯のゆくえに対して個人が思い描く希望の道筋」(199頁)とし、他方の心理的契約は、Cartwight(2005)から「個々人と組織の間で形成された相互期待に関する信念の体系」(199頁)としています。
分析結果を踏まえた示唆
まず前提として、心理的契約には、その表面化されない契約の内容に従って二つの契約に分類されるという考え方があります(異論もかなりありますが)。一方の取引的契約は、経済的な側面に重点を置いて短期的に契約が更新されるという考え方を取るものです。他方の関係的契約は、経済的側面に加えて心理的・社会的な側面までを含み長期的かつ安定的に維持されるという考え方を取ります。
第一の示唆は、昇進への期待を持たない(あるいは持てない)人材が増えていることが示されている中で、従来の心理的契約の多数派であった関係的契約型の人事管理を前提に進めてしまうことに警鐘を鳴らします。つまり、「いつかは課長になれる」といったようなキャリア志向を持っている人材に対して、関係的契約を履行できない事態につながり、心理的にネガティヴな影響が生じる可能性が高まるとしています。
第二の示唆としては、上記のネガティヴな影響を防ぐために関係的契約を取引的契約に完全に移行するのも危険であるという点です。乱暴に言ってしまえば、ハード・ランディングは避けた方が良いということでしょう。
それを踏まえた第三の示唆は、現実解として関係的契約を維持しながら取引的契約の要素を取り込んでいくというものです。本書が執筆された2011年から十年以上が経過した現在においても、この折衷案の模索が続いている状況と言えるでしょう。
第四の示唆は、社員全員に対して画一的な人事管理によって心理的契約を一様に担保するということをいわば諦め、個別人事管理が大事になるとしています。この点はまさに、現代において、現実に対応する形で実務面で実践され始めているものと言えるのではないでしょうか。実感値としては、少なくとも外資ではだいぶ進んでいたように思います。
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